第17話 チェックイン
「あ! お客様、
「あ、ゴメン。」
誠は仲居さんの声に、慌てて立ち止まる。
そう言われて足下を見ると、このフロアーはすべて板張りだ。
どこから土足がよくて、どこから土足がいけないのかがわからない。
「えっと・・、あの、何処で靴を脱げば?」
「その場でお脱ぎ下さい。」
「え? ここで良いんですか?」
「はい。」
誠と穂乃花は、言われた通りにその場で靴を脱いだ。
仲居は
「変わった靴ですね・・。 貴方の国ではこれが普通なんですか?」
「え、ええ、スニーカーですけどね。」
「? そうですか・・。 それではお預かりします。」
そう仲居さんが言ったとたん靴がその場から消えた。
毎度、毎度、このような訳の分からない現象に驚かされる。
「靴が必要な時は、この場所で出されるのでご安心下さい。」
「ええっと・・、誰に靴を出すように言えばいいんですか?」
「え? いえ、ここに来れば自然と出されますが?」
誠は首を傾げた、そしてポンと手を打って・・
「ああ、そういうこと? 誰もいなくてもここに来ると靴が出るんですね?」
「はぁ、そうですけど・・・。」
何を当たり前の事を言っているんだろうという顔で仲居さんは誠を見た。
なんとなく気まずくなり、誠は仲居さんに一礼をして、あたふたとフロントに向った。
「穂乃花、一泊二日でいい?」
「う~ん・・、どうしよう?」
「ここでゆっくりするのもいいけど、この世界がどのような場所か暫くの間は見て回りたいんだけど?」
「・・うん。」
「気に入ったらまた来ればいいんだからさ。」
「うん、わかった。」
穂乃花は、そういうと少しニャン吉を抱きしめる腕に力をいれた。
おそらく不安な気持ちを押し隠そうとしているのだろう。
誠は穂乃花にフロントの手前で待っているように言った。
現代では考えられない状況をこれ以上見せて、違う世界に来たことを穂乃花が認識し不安になることを危惧したからだ。
誠はフロントに行くと、
「いらっしゃいませ。」
「すみません、二人とペット1匹なんですが。」
「ウニャウ!!」
誠の後ろから、ニャン吉がペット1匹という言葉に瞬時に反応した声が聞こえた。
誠は完全に無視をする。
君の抗議は無視。
ニャン吉よ、君と穂乃花がどう主張しようが、君は周りからみたらペットなのだよ。
そんな誠とニャン吉の火花散る心のやり取りを知らないフロントは・・
「ご宿泊ですね。」
「はい、一泊二日で。」
「承りました。お部屋は二部屋でよろしいでしょうか?」
あ、そうか・・。
俺としては・・、穂乃花と同じ部屋がいいよね。
だってさ、恋人同士なんだよ。
まあ、その・・、そういう関係になっていないから、あこがれるよね。
俺、健全な独身の♂でもあるんだし。
いや、決してイヤらしい考えではないと思う。
これは種の保存に則った、正当なる発情期であって・・。
と、妄想に突入していると、
「あの、お客様? 二部屋でよろしいですか?」
「え?」
「ご結婚されてますか?」
「いや、まだですけど。」
「それでは二部屋ですね。」
「あ・・、うん。」
それを後ろで聞いていた穂乃花が駆け寄ってきた。
「嫌です! 同じ部屋にして下さい。」
穂乃花の顔は青ざめていた。
「穂乃花?」
「だって、知らない世界で別々になるなんて!
絶対嫌です。
これで!・・、これで誠さんが居なくなったら!
私!・・わたし・・。」
そういって穂乃花は両手で顔を覆って、肩を震わせた。
「あ、あの・・・」
「当国では結婚前の方の泊まりで年頃の男女は別々の泊まりとなっております。
ですので・・。」
なるほど、そういうことか・・。
それで二部屋とフロントは言うのか。
ただ、穂乃花は突然現代から、この見知らぬ世界に来て不安に駆られている。
もしかしたら、俺が突然消えていなくなるのではないか、と。
穂乃花の様子を考えると、やはり同じ部屋にすべきか・・。
意を決してフロントと交渉をすることにした。
「あの、この国では別の部屋にする理由はわかりました。」
「分かっていただけましたか?」
「誠さん!」
「穂乃花、ちょっと待って。」
「・・・」
「私達の居た国では他国では女性を守るのが常識です。
そのため、他国にきた時は女性を守るために同じ部屋に泊まります。
そのような信頼関係がないと、男女二人で旅行などしません。」
「いや、当旅館は安全です。」
「たとえ安全であったとしても、我が国では許されません。」
「え?!」
「それとも、あなたは私の国に来て裁判を受けていただけますか?」
「あ、いや、それは・・。」
「どうしますか?」
「わ、わかりました。それではご一緒にします。
ただ、お客様の部屋は二間に致します。
寝るときは別々の部屋で寝て下さい。
女性は男性の部屋に入れますが、男性は女性の部屋に入れません。
それから、女性が少しでも助けを求めた場合、セキュリティが男性を強制排除します。
よろしいですか?」
「え? あ、ええと、別々に寝るんですか・・。」
「それでいいです! それでお願いします!」
「分かりました。」
穂乃花は、一緒の部屋ということに安心してホッとした顔になる。
ニャン吉をだきながら、フロントから離れた場所に移動をした。
はぁ~・・、穂乃花と夜明けのコーヒーを一緒に飲みたかったな~。
穂乃花の寝息を感じ、穂乃花の寝顔を間近でみてみたかったよ・・。
イケズのフロント・スタッフめ!
まあ、仕方ないか・・。
残念ではあるが、穂乃花の安心した様子に胸をなで下ろす。
あと、何かフロントで聞くことなかったっけ・・。
・・・。
あ、ニャン吉の事を聞かなくては・・。
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