第16話 エントランスで・・
穂乃花を引っ張るような感じで、真っ暗な入り口に足を踏み入れた。
するとどうしたことだろう、暗闇の中に入ったはずなのに明るくて広い吹き抜けの広間にいた。
見た感じは高級和風旅館のエントランスだ。
「いらっしゃいませ!」
突然、右手から声が聞こえたたためビクッとなる。
その時、お約束ではないが、ニャン吉が肩から飛び降り、来た方向と逆方向、つまり入り口から外に飛び出そうとした。
したのだが・・・
ガン!
ぶつかる音がした。
うしろの入り口の暗がりは、何故か黒い扉となっていた。
ニャン吉は鼻をぶつけて、前足で顔を挟み込み丸まった。
「ニャ、ニャン吉!!」
穂乃花は慌ててニャン吉に駆け寄り拾い起こす。
「あの・・、すみません、驚かしてしまいましたか?」
そう話しかけてきたのは、先ほどいらっしゃいませ、と、声をかけてきた女性だった。どうやら、この旅館の仲居さんらしい。
貫頭衣を来て、済まなそうに頭を下げる。
「いえ、猫が勝手に驚いただけですので・・」
「はぁ、そう言っていただけると助かります・・」
そういえば籠で温泉がいいと言って此処に来たけれど、ペット同伴で泊まれるか確認をしなかった。
これは不味いかも・・と思い、聞いてみることにした。
「あの、ペットと二人なんですけど、今日、泊まれますでしょうか?」
「あ、はい、大丈夫ですが、お客様は・・見たところ海外の方ですよね?」
「え? 海外? あ、そうでした。海外でした。」
「?」
「あ、いえ、海外から来ました。」
いかん、いかん・・ここは日本ではない・・いや、日本だけど、俺等のいた場所とは違う・・
海外の人間で通そうとしていたんだっけ、と、思い出した。
「でしたら、ペットについて少し説明させて下さい。」
「はぁ・・」
「ペットですが、猫アレルギーのお客様もいらっしゃる可能性があります。」
「え・・ええ・・。」
「ですので、ペットの体の周りに膜を張らせて頂きます。」
「え? それって!」
「あ、ご心配なく。ペットには全く影響ありません。
ただ、ペットからアレルゲン物質を外に出さないようにするだけです。」
「はぁ・・?」
「膜は当旅館から外にでると自動的に無くなります。」
「・・・」
「それから膜を張ってありますので、一緒に温泉に入れることもできます。」
「え、大丈夫ですか・・抜け毛とか色々あると思うのですが。」
「大丈夫です。抜け毛など膜から出ません。
抜け毛などペットから出る物質、および蚤などは膜を通し処理され別空間に転送されます。」
「・・・・そう・・ですか。」
「はい、ご安心下さい。」
認識が追いつかない・・・
スタートレックなどで文明が遅れている宇宙人がよく出てくるが、こういう心境なのだろう・・と、現実逃避をしてみる。
そういえば猫と一緒に温泉に入れるのは嬉しいが、他のお客が厭がるのではないだろうか・・そう思い聞いてみた。
「あの・・猫と一緒にお風呂に入った場合、他のお客様の迷惑になるのでは?」
「? え、何故です?」
「いや・・だから、猫と一緒になんて入りたくないお客様もいるのでは?」
「あ、ああ、そういう心配ですか? それは大丈夫です。」
「?」
「・・あ! 説明不足でした、すみません。
当温泉というか、我が国では湯船に次元を設けております。
お客様同士は次元が異なる空間となるので、他のお客様と一緒のお風呂になることは御座いませんので、ご安心下さいませ。」
「はぁ・・そう、なんですか・・」
「はい。」
「それでは、正面の受付にて手続きをお願いします。」
「あ、ああ、有り難う・・」
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