第14話 籠の中

「籠さん、悪いけど、一度、外に出してくれ」

『はい』


すると直ぐに誠は自分の居た空間から籠の上に移動した。

目の前には座り込み、顔を手で覆って泣いている穂乃花がいた。


籠から降りゆっくりと穂乃花に近づき、穂乃花の前で膝をついた。

そして優しく穂乃花の肩を抱く。


「穂乃花を残して、どこかに行くはずないだろう?」


穂乃花は顔を覆っていた手を外し、誠の胸に顔を埋めた。

ああ・・誠さん、暖かい・・ほっとする・・落ち着く・・

そう感じた穂乃花は、しゃくっていたのが少しづつ収まっていった。


その時、いつの間にか膝にいたニャン吉が伸び上がり穂乃花の顔を舐めた。


「きゃ!」


「にゃ、ニャン吉、い、痛い、あまり舐めないで!」

そう言って穂乃花は、笑顔になった。

そうしてニャン吉を胸に抱きしめる。


ニャン吉が強引に、穂乃花と誠の間に割り込んできたので、

誠は穂乃花を抱いている手を離し、穂乃花から少し離れた。


「ニャン吉、お前・・・」

またしても恋路の邪魔をされ、誠はニャン吉をジト目で見る。

それを無視するかのように穂乃花の膝でゴロゴロと音をたて始めた。


穂乃花が落ち着いたので、籠のことを話し始めた。


「ザルに乗ると、別の空間に入るようなんだ。

 なんていうのかな、見えない別の部屋に入るんだ。

 だから穂乃花には、俺が消えたように見える。

 でも、入った部屋からは外が見える、つまり穂乃花が見える。」


「・・うん・・」


穂乃花は理解が追いついていけないようだが、落ち着いて聞いていた。


「だから心配ないので乗ろうよ」

「でも、怖い・・」

「そうだね・・でも、別の場所に行くには乗るしかないよ?」

「うん・・」

「だから、乗るよ?」

「・・・うん・・」

「先に乗るかい?」

「いいわ、先に乗って。 そして私を迎えて欲しい」

「わかった」


籠は二人の会話を聞いていたのか、タイミングよく話しかけた。

 

『お乗りになりますか?』


「ええ、お願いします」


そう言って誠がザルに立った。

すると先ほどと同じように誠が消えた。


穂乃花はしばらく躊躇した後、ニャン吉を抱いてザルに立った。

その瞬間、穂乃花は目眩を感じ、一瞬目を瞑った。

再び目を開くと目の前に誠がいた。


ほっとして穂乃花は誠に抱きついた。


「えっ! ほ、穂乃花?」


いきなり穂乃花に抱きつかれて誠は面をくらった。

しばし呆然としたあと・・

あ、あれ? 穂乃花に抱きつかれている?・・

う、うれしいんだけど!!


あたふたとした誠だったが、穂乃花はきつく抱きしめて離れない。


「よ、良かった! 誠さんが居て・・」


その時、誠と穂乃花に挟まれたニャン吉がたまらずに穂乃花から飛び降りた。

「あ! ニャン吉、ごめんなさい」


そう言って穂乃花は誠から離れた。

誠は穂乃花が離れたことに、ちょっと寂しさを感じてしまった。

しかし、思わずニャン吉を見てニヤリとした。

どうだ恋敵め、穂乃花に抱きつかれた俺を見て悔しいだろう?

形成逆転だ、と声に出さずニャン吉を見た。


するとニャン吉は誠を見たまま、大きな欠伸あくびをした。

そして後ろ足で頬の当たりを、せわしく掻きながら目線を外した。


『お客様、よろしいでしょうか?』


「あぅ!」

籠の声に、穂乃花が驚いて飛び上がる。

籠が見ていることを忘れていた。

さっきまで、それに気がつかず誠に抱きついてしまっていた。

急に恥ずかしくなった。

顔を真っ赤にして穂乃花は俯いてしまった。


『よろしければお座り下さい』


「あ、えっと、穂乃花、座ろうか」

そう言って、目の前の箱のような椅子を指さす。


「これに座るの?」

「そう、だよね? 籠さん」

『はい』


恐る恐る二人で腰掛けた。

座り心地は良かった。

なんというか高級な革製のソファーのような感触だ。


「これで、背もたれがあればな~」

『お出ししますか?』

「え? あるの?」

『ええ、どうなさいますか?』


「あ、えっと、穂乃花は?」

「欲しい、かな・・」

『それではお出しします』


すると背もたれが座っているところから二人分伸び出した・・

まるでカタツムリが角をだすかのように・・

色は半透明な黄色で厚さは・・・

え? 1ミリ位? うっすぃ!!

背もたれだよな?


恐る恐る寄りかかってみる。

体に合わせた形に変形し、しっかりと支えてくれる。

試しに後ろに重心をかけると角度が変わった。


それを見ていた穂乃花は真似をして角度を整えた。


『どちらに参りますか?』

「あ・・え、っと、旅籠にお願いします」

『近くですか? それとも温泉にしますか?』

「温泉があるの?」

『? はあ、有りますが?』

「温泉に行きたい、誠。」

「あ、ああ、いいね温泉」


誠は一瞬、戸惑った。

温泉?

温泉て、あの温泉だよね?

縄文時代もあったんだ・・・

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