第13話 籠の中と外

穂乃花は当たりを見回し、誠を声を張りあげ呼び叫んだ。

しかし、誠からの返事は帰ることがなかった。

穂乃花の頭の中が真っ白になる。


そんなパニック状態の穂乃花に、籠が声をかけた。


『どうかなさいましたか?』


のんびりとした声だった。


「ま、誠が消えたの!!」

『誠さま?・・お連れ様の事ですか?』


「そう!! ねえ! どこに、どこに誠を何処にやったの!!」


『あの、お連れ様は籠にお乗りになっただけですが?』

「?・・」





♤♤♤♤♤♤♤♤♤♤♤♤♤♤♤♤♤♤♤


穂乃花が籠と話している頃、誠は呆然としていた。


ザルの上に立った瞬間、目の前の景色が変わったのだ。

今は、ガラスのような透明の半円の中に閉じ込められている。


透明度は抜群で、歪みもなく外の景色がよく見える。

不思議と太陽を直接見ても眩しくない。

後ろを振り向くと穂乃花が見えた。

穂乃花は何か焦った顔をして話しているように見える・・

声は聞こえない・


何かあったのだろうか?


そう思いつつ、目線を下げた。

そこには四角い箱のような椅子がある。

まるでプラスチックで造られた箱で、半透明の薄い緑色だ。

背もたれは無い・・・

その椅子のような物以外、他には何もない。

360度、よく景色が見える。

不思議な空間だ・・




♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡


誠が不思議な空間に戸惑っていた時、穂乃花は穂乃花で呆然としていた。

籠の言葉の意味を理解できなかった。


誠さんは消えしまった・・でも、籠に乗っている?

乗ると見えなくなる?

訳がわからない・・


「誠さんは籠の中にいるの?・・」

『はい。そうですが?』

「・・」


『お連れ様とお話をなさいますか?』

「え、ええ、話しをさせて・・下さい」

『分かりました。 では、そのままお話下さい』


「あ、えっと・・誠さん?」


「え? あ、穂乃花?・・外の音が聞こえるようにできるのか・・」

「ま、誠さん? だよね」

「うん、そうだけど?」


穂乃花からは誠は見えない。

目の前のザル・・いや、籠に向って話している。

一方、誠からは目の前に穂乃花が見えている。

そのため、誠は穂乃花が何を不安そうにしているのか理解できない。


「どうしたんだ? 穂乃花?」

「え、あ、その、誠さんが消えてしまって・・」

「消えた? 俺が?・・ 何の話し?」

「いえ、だから、誠さんがザルに乗ったら、忽然と消えたの!」

「え? 俺は穂乃花の目の前にいるし、穂乃花は俺の目の前にいるよ?」

「・・・もしかして、誠さんからは私が見えるの?」

「え? ああ、見えるよ?」


その言葉を聞いて、穂乃花はザルに近づき手を伸ばす。

しかし、むなしく手は空を彷徨うさまようだけだ。


一方、誠からは穂乃花が手を伸ばしてくるのが見えた。

その手は、誠の体を貫いた。


「えっ!!」

「ど、どうしたの!!」


誠の驚いた声に、穂乃花は驚き、手を引っ込めて仰け反ってしまった。

誠は穂乃花の手が体から出て引っ込められて行くのを見ていた。


誠は、しばし呆然とした。

しかし、直ぐに冷静に考え始めた・・・

もしかして外の景色を立体的に写しているのではないのか?

籠に聞いてみよう・・

あ? 何て話しかければいいのだろう?

え~と・・思いつかない。

いいや、籠さんと呼ぼう。

そう思い、籠に話しかけた。


「ねえ、籠さん、俺が見ている外の景色は立体映像かな?」

『はい、そうです。 外の映像を投影しています』

「なるほどね・・、で、俺のいる場所は穂乃花とは別の空間?」

『穂乃花様? お連れ様でしょうか?』

「ああ、ごめん、そう、連れの名前」

『そういうことでしたら、別の空間となります』

「やはり・・」

『あの・・もしかして籠に乗ったことがないのですか?』

「ええ・・ですから、ちょっと驚いているんだ」

『そうでしたか・・それでお二人は・・、いえ、驚いているのですね?』


今、挙動不審者と言おうとしたな?

思わず苦笑いが漏れる。


「ま、誠さん?」

「あ、ああ、穂乃花、今の籠さんの説明で理解した?」


「え? そ、それより! 誠さん、大丈夫?!」

「ああ、俺なら大丈夫だよ」

「よかった・・本当に・・」


そういうと穂乃花は、崩れ落ちるように座り込んでしまった。

だいぶ、心配をかけたようだ。

それに、何より不安だったんだと理解した。


「穂乃花、ごめん、不安にさせて・・」


穂乃花は、誠の言葉を聞くと、俯いて手で顔を覆った。

「誠さんが消えてしまい・・

 誠さんの事が心配で、心配で・・

 そ、それに・・不安で・・私、一人だけ取り残されたかと・・」


そう言って穂乃花が泣き始めた。


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