第12話 籠

縄文式住宅街に飽きたので、この場所を移動することにした。


「関所で聞いた籠でも拾おうか?・・」

「え・・籠?」

「籠に興味ない?」

「無いわ。」


あっさりと穂乃花は否定した。


「え? なんで?」

「江戸時代の籠だと、揺られて大変みたいだよ?」

「それなら、乗り物酔いしそうだったら降りるというなら、どう?」

「・・・」


どうも穂乃花は気がのらないみたいだ。


「この住宅街から出るだけでも歩くと疲れるよ?」

「まあ、それは・・そうだけど。」

「それに籠なら、今日の宿を紹介して貰えるかもしれないよ」

「あっ、そうか・・そう、ね・・。」


「じゃあ、籠を使うよ、いいよね?」

「うん・・。」


「確か、定期的に籠は循環しているって言ってたよね?」

「そう聞いたけど・・。」


「ただ、籠ってどういうのだと思う?」

「・・人が担う籠ではない気がする。」

「だよね・・想像が付かないよね。」

「どんな形か聞いてみればよかったよね・・。」

「まあ、そうなんだけど・・

 関所を通過できるという安心感で、そこまで気が回らなかったよ。」


そう言いながら5分ほど歩いた時だった。


前方から青竹のような色をした何かが近づいてくる。

遠目には何かわからなかった。

それは、地上から1m位浮き上がっていた。

そして道の端に沿って、ゆっくりと向って来る。


その何かは、だんだんと近づくにつれ形がわかり始めた。


「なあ・・。」

「うん・・。」

「あれ、かな?」

「籠には見えないけど・・。」

「確かに・・。」


それは、人が二人ほど座れる大きなザルだった・・。

そう、蕎麦を載せる、あのザルの大きなものだ。


確かに、棒にこのザルを紐でぶら下げたら籠に見えるだろう・・。

ザル自体も丈夫にできているように見える。

だが、棒も、ザルを棒に結ぶ紐も見えない。

ザルそのものが空中に浮いているのである。


そのザルが、こちらに向ってくる。

わずかにシャン、シャンという鈴のような音を立てながら。

おそらく人にザルが移動中であることを知らせるための音だろう。


「たしか右手を上げれば籠は停まってくれるんだよね。」

「・・・そう聞いたけど・・。」

「やってみよう・・。」

「え? やるの?!」

「ああ、籠かもしれないからね・・。」

「・・停まるのかな?」

「さあ?・・物は試しだ・・。」


ザル? いや、籠と思われるものがさらに近づいた。

10m位に迫ったところで手を上げた。


すると誠の目の前まで来て、ザルは停止した。

シャン、シャンという音も同時に消えた。

そしてユックリと地面にザルが降りた。


「やはり籠、かな?・・。」

「・・籠には見えないけど?」


『お乗りになりますか?』


「え?!」

二人して驚きの声を上げた。


「ザルが、しゃべった!」


『ザル? 私の事でしょうか?』


二人して顔を見合わせた。

そして二人で、再び籠(?)を見た。


「あ、ごめん・・あの、貴方は籠・・ですか?」

『? ええ、籠ですが?・・』


二人して、再び顔を見会わせた。


「籠、なんだ・・・。」

「籠、だったんだ・・。」


『お乗りにならないのですか?』


「穂乃花、どうする?」

「え?」

「乗るんだろう?」

「の、乗るの?」

「だって面白そうじゃん。」

「・・・。」


そう言って籠に向き直った誠は籠に声をかけた。


「あの、二人お願いします。」

『承りました。』


そう答えが返ってきた。


「このザルに乗ればいいのかな?」

『ザル? 何でしょうか、それは?』

「あ、え~と、この竹で編んだ目の前のものだけど・・。」

「ああ、入り口のことですね?」

「はあ・・。」

「ええ、そこに一人づつお乗り下さい。」


それを聞くと、誠は穂乃花に向き直った。


「じゃあ、穂乃花、先に乗るよ?」

「うん・・。」


ちょっと穂乃花は不安そうな顔をしていた。


「大丈夫、乗り物に乗るだけなんだしね」

「そうなんだけど・・。」

「まあ、たぶん、籠に座わると、浮いて、そして動くんじゃないかな?」

「・・うん・・。」


不安そうな穂乃花を横目で見ながら、誠は籠の上に乗ってみた。

すると、突然、穂乃花の目の前から誠が消えた。


「えっ! 誠さん!!」


穂乃花は目を見開き、手を口に当て大声を上げた。


「誠さん!!!!」

「誠さん!! どこ!!!」

「どこに、消えたの!!」


穂乃花は当たりを見回し、声を張り叫んだ。

だが、誠からの返答はなかった。

また、ザルに誠が再び現れることはなかった。


誠が心配で心臓が張り裂けそうだ。

そればかりではない。

この世界に一人取り残されたのではと恐怖が襲ってきた。

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