第11話 縄文式住宅街

関所から出て見た光景に唖然とする。


縄文式住居が道を挟み、整然と建ち並んでいた。

ざっと見た限り、住居は100件以上あるのではないだろうか?


道は緩やかに蛇行しながら、はるか遠くまで続いている。

道の両側は小川だ。

綺麗な水が緩やかに流れていた。


そして小川には等間隔に橋がかかっている。

通行用なのか、何かを洗うためなのかはわからない。


さらに小川と住居の間には柿が植えられていた。

柿は小川に沿うように等間隔に植えられている。


空を見上げると多数のとんびが大きな円を描いて飛んでいた。

ピ~ヒョロロという声が時折聞こえる。


長閑のどかという言葉が見事に当てはまる。


「なあ、建物は縄文式だよな」

「うん、そうだと思う・・」

「関所での検査とのギャップが有りすぎないか?・・」

「・・・確かに・・」


暫く会話が途切れ二人してこの光景を眺めていた。


「ちょっとブラついてみないか?」

「うん・・」


誠が歩き始めると、穂乃花はすこし躊躇した後に歩き始めた。

やがて穂乃花は誠の横に並んだ。


「穂乃花、ニャン吉、重いだろう?」

「うん、ちょっとね・・」

「俺が肩に乗せるよ」

「ありがとう」


ニャン吉を穂乃花から誠は受け取り、肩に乗せる。

ニャン吉は慣れたもので右肩に前足、後ろ足を左肩にのせる。

ちょうど首の後ろにマフラーを巻いた形だ。


ニャン吉の髭が誠の右耳にあたる。

少しくすぐったい。


この体勢は穂乃花が小さい頃からニャン吉を肩に乗せていた成果だ。

最初は面白がって肩に乗せていた。

そのうちニャン吉が怖がった時に、肩に乗ると怖くないと教え込んだ。

するとニャン吉も、それに慣れた。


ニャン吉は誠と会った当初は警戒して、見るたび威嚇していた。

しかし何度も穂乃花が誠を連れてくるうちに慣れたようだ。

やがて誠の肩でもニャン吉は安心して乗るようになった。


難点は、この体勢は首を前に突き出す姿勢となることだ。

そうしないとニャン吉が落ちるからだ。

この体勢、長時間乗せると首が多少痛くなる。

まあ、腕に抱えていて重いよりはマシなのだが・・


誠がニャン吉を肩に乗せたので穂乃花は手が自由となった。

誠は無言で穂乃花と手をつないだ。

一瞬、穂乃花は誠の顔を見た後で、俯いた。

顔が赤くなっていく。

まあ、そういう誠も穂乃花から顔をそらし、ちょっと


言うまでも無いが、ニャン吉は顔を伸ばし、それを見ていた。

そして軽く誠の頬を甘噛みした。


「痛っ! ニャン吉!!」


ニャン吉は耳をたたむと、そっぽを向いた。

肩から降りる気は無いみたいだ・・


穂乃花は、ニャン吉が甘噛みをしたことを察すると

「あら、甘えちゃって・・」

そう言って微笑んだ。


これって、甘えか?

いや、そうじゃない気がする・・

まあ、いいか、ニャン吉よ、せいぜい焼き餅を焼いていろ!


そのようなやり取りをしながら歩いた。

最初に観察したのは道だった。


道はアスファルトではない・・まあ、当然か・・

でも土の道でもなければ、砂利道でもない。

色は薄茶色のよく整備された平らな道だった。


何で出来ているか検討がつかない。

歩き心地なのだが・・

よく木のチップをばらまいた道があるが、そんな感じだ・・

歩きやすくて疲れないよう工夫された道のようだ。


道の脇の小川には小魚が多数いて、覗くと逃げていく。

水面は太陽の光を反射し、キラキラと輝いていた。


暫く歩くと最初の縄文式住居に辿り着いた。


住居の入り口を覗いてみた。

よそ様の家をじっくりみるわけもいかず、ちらりと、だけど・・

穂乃花も気になったようで、同じようにチラ見をした。


「なあ、穂乃花、入り口から何か見えたか?」

「ううん・・何も」

「扉が無いのに中は見えないよな・・」

「うん」

「太陽の向きに入り口が向いているのに、ね・・」

「・・・」

「光が差し込んでいるのに何も見えない・・」

「・・・」


そう言いながら、同じように何件かを見てみた。

どれも同じで中は真っ暗で何も見えない。

太陽の方向を向いている入り口なのに・・

入り口は光りを吸い込んでしまう空間のように見える。


「まあ、あまり今は気にしないでおこう」

「そうだね・・」


そう言って、暫く無言で歩いた。

ニャン吉は、音が聞こえるのか耳が左右にせわしく動く。

猫は人間に聞こえない音が聞こえるとかいうけど、それかな?

ただ、ニャン吉は怖がらず、興味津々のように見える。

尻尾が少し立ち、ユックリと揺らしていたからだ。


しばらく歩いていると、前方の縄文式住居から人が出てきた。

ドグウ族の人だ。

関所から出て、初めて会う一般市民の人だ。

道に出て、こちらに向って歩いてくる。


穂乃花が僅かに緊張したのが分かる。

まあ、倭の国の人達が全て友好的とは限らないからね・・

ただ、ここは大通りであり、スラム街ではない。

普通に考えれば危険はないはずだ。


何も言わず誠は穂乃花より歩を少し早め前に出る。

穂乃花をやや後ろに隠すようにして歩いた。

向こうからば、すれ違いのためにしたとしか見えないだろう・・

相手に緊張を与えないように目線を合わせず、平静を装った。


やがてドグウ族の人とすれ違った。

以外に、向こうから笑顔で挨拶をして来た。

慌てて、こちらも笑顔を作り挨拶をした。

ドグウ族の人は、こちらをみることは無かった。

そして振り返ることもなく、歩みを止めることもせずに去った。


それから道で何人かのドグウ族の人とすれ違った。

いずれの人も、にこやかに挨拶をしていく。


ドグウ族の人からすると自分達は異形の容姿であるはずだ。

希に自分達と同じ姿形の異国人は見ることはあっただろうけど・・

それでも、自分達を見ても気にせず、笑顔で挨拶をしていくのだ。

それを考えると、この倭の国では人種差別は少なさそうだ。

そう実感すると肩の力が抜けた。


ただ、会った人はいずれも腰に直刀ちょくとう佩刀はいとうしていた。

嗜みたしなみであろうか?・・

そう思うのは、ここが平和で治安の良さがうかがえるからだ。

そんな場所で刀なんか必要ないだろう。

江戸時代の侍のような感じなんだろうか、と。


しばらくブラついたが変化が乏しい町並みだった。


「なあ穂乃花?」

「何?」

「ここ、ぶらついていても何もなさそうだね」

「うん、そうだね・・住宅街という感じかな・・」


「別の場所に移動しようか?」

「うん、そうしようよ」

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