第8話 関所・通過
二人は生体認証登録を行う部屋に入り唖然とした。
部屋の中に
神社にある、あの鳥居である。
大きさは一人通れるくらいの朱塗りの鳥居だった。
それが部屋の真ん中に、ぽつんと鎮座している。
他には何も無い。
ヨイショーさんが説明を始めた。
「この鳥居を一人づつお通り下さい。」
誠は訳がわからず思わず口を開いた。
「あの・・」
「なんでしょう?」
「生体認証ですよね?」
「はい、そうですが?」
「その前に
「?」
ヨイショーさんはキョトンとした。
「鳥居を
「何を言っているのですか?」
「いや、鳥居は神社にあって・・」
「ああ・・そうか、海外の方というのを失念していました。」
「はぁ・・?」
「我が国の生体認証装置は鳥居型です。」
「はぃ?!」
「生体認証は、鳥居を潜るだけで完了します。」
何それ?
もうすこし常識のある技術にして欲しい・・・
現代社会だとDNAは血液や粘膜、髪の採取などするのに・・
それとあと脳波だったけ?登録するの。
脳波計測は確か頭に変な装置を装着して行っていたと思う。
いや、脳波のパターンとか言っていたのかな?
だとするとMRIのような大がかりな装置が必要かな?・・
なのに鳥居のような物を潜るだけなんて・・・
そう思っていると穂乃花がニャン吉を抱いて鳥居に向う。
「先にするね。」
そう言うと、さっさと鳥居を通過した。
「お疲れ様でした」
ヨイショーさんが声をかける。
「誠も早くしちゃったら?」
「え? ああ。」
穂乃花の躊躇しない行動に面を食らう。
まあ、確かに”女は度胸、男は愛嬌”だというからね・・
ちょっと違うかな・・まあ、いいか。
誠も鳥居を潜った。
鳥居を潜り終え穂乃花を見た。
穂乃花はニャン吉を肩にのせ鼻歌をうたっていた。
ヨイショーさんが検査の終了を告げる。
「お二人ともお疲れ様でした。これで終了です。
何かご不明な点はありますか?」
誠が気になったことを口にする。
「あの・・生体認証の登録が完了するのは何時ですか?」
「? 登録ですか? 終わっていますよ。」
「終わった?」
「はい。」
あまりにも早い検査と登録に唖然とする。
日本のお役職仕事には見習ってもらいたいものだ。
そういえば生体認証は何に使われるのだろうか?
出入国時の時だけだと思うのだが・・
ヨイショーさんに聞いてみよう。
「あの、生体認証はどのように使われるのですか?」
「倭の国の出入国の管理に使われます。
それから店や旅籠などの支払いなどにも利用されます。」
「支払い?」
「ああ、そうか・・海外ではお金を支払う国も有るのでしたっけ?」
「ええ、まあ・・」
「支払は、生体認証をスキャンするだけで終了します。」
「ああ・・クレジットカードみたいなものか・・」
「くれじっとかーど? なんですかそれは?」
「え? ああ、お金を払う代わりに提示するものです。
あとで、その店にお金が払われます。」
「ああ、なるほど、似ていますね。」
「先ほど腕時計を売ったのですが、金額が生体認証に登録されるのですね?」
「はい。すでに登録されてますよ。」
「え?」
「結構な額です・・3年間遊んで暮らせますね。」
「そうなんですか?」
「ええ、うらやましい限りです。」
「そうは言っても贅沢はできないでしょうね、物価がわからないし。」
「物価?」
「ええ、例えば食堂で食べたら幾らくらいとか・・」
「? 何のことですか?」
「え?」
「ここでは1日、何を買おうが泊まろうが1日の額は決まっています。」
「え?」
「たとえばある日に買い物、食事をし、籠に乗ったとします。」
「ええ・・」
「次の日に1日何もせず食事だけだったとします。」
「はあ・・」
「いずれも1日の支払いは同じですよ?」
「え?」
「ですから3年間、何を買おうが食事をしようが暮らせます。」
「・・・すごいですね・・」
「ええ、凄い額をお持ちです。」
めちゃくちゃな国だと誠は思った。
でも、これで当面の食事、宿には困らないですむとホッとした。
「そうだ・・・、ヨイショーさん、教えて下さい。」
「何でしょうか?」
「支払いの時、どうやって生体認証をするのですか?」
「ああ、やったことが無いんですね?」
「ええ。」
「基本、生体認証をしたという気がしないと思います。」
「?」
「たとえば籠に乗ったとします。乗るときは何も言われません。」
「はぁ・・」
「で、籠を降りる時も同じです。何もいわれません。
まあ支払いができないようでしたら、乗るときに言われますが。」
「はぁ・・」
「要するにスキャナーは目に見えません。
必要に応じてスキャンはされていますが、されたと感じることはないです。」
「そうなんですか?」
「はい。でも個人情報や、不正な支払いはまずあり得ません。
ですからご安心下さい。」
「・・わかりました。」
まあ、そういうのならセキュリティは万全なのだろう。
ふと気がつくと、穂乃花が誠を見ていた。
なんだろうと目を合わせると、穂乃花が口を開く。
「ごめんね、腕時計・・」
「穂乃花が謝ることじゃないよ?」
「でも買ったばかりの、お気に入りの時計でしょ・・」
「気にしなくていいよ。」
「・・うん、ありがとう・・。」
そういうと穂乃花は下を向いた。
そんな顔することはないのに・・。
申し訳ない顔なんかしないで笑っていて欲しいんだけど、ね。
「さて、これで関所の吟味は終わりです。門までご案内します。」
「ありがとうございました。」
穂乃花と二人、ヨイショーさんにお礼をいい門に向った。
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