第7話 関所・吟味(続き)

 吟味が終わり、ホットした。

 なんとか関所は通過できそうだ。


 するとシャコウさんが聞いてきた。

「何か困ったことはないか?」


 突然の問いかけに、ちょっとポカンとする。

 いや、ポカンとしている場合ではない。

 せっかく親切に聞いてくれているのだ・・・


 そうだ!お金だ!


 「あの、我が国のお金は使えますか?」

 「ふむ、どれ、見せてみよ」


 財布を取りだし、お金を渡す。

 お札に硬貨、駄目元でも聞くしかない。


「これは珍妙なお金じゃ。」

「使えますか?」

「無理じゃな。」

「そうですか・・・」


「クレジットカードは使えませんか?」

「なんじゃそれは? まあ、見せてみよ。」

「これです。」

「これも、我が国では使えんな。」

「そうですか・・・」


 やはりダメか・・

 この世界のお金が工面できない。

 野宿かな・・

 それに食事もできない・・

 このままだと飢え死になりかねない・・


 穂乃花だけでも、元の世界に戻せないだろうか?

 

 そう考えていると、シャコウさんが話しを続けてきた。

 

「して、その方、他にお金の宛てはあるか?」

「いいえ・・」

「そうか・・」


 そう言ってシャコウさんは、どうしたものかという顔をする。

 ふと、シャコウさんが誠の腕時計を見た。


「その手に付けている物・・」

「腕時計ですか?」

というのか? その古式ユカシキ道具は。」

「古式? ゆかしき?・・」

 

 アンティークではなく、最新の腕時計なんだけど・・。

 この前のボーナスで買った、高額な機械式腕時計なんだけどな~・・

 それが、古式ゆかしき・・に、なるの?


「よくぞそこまで復元できたものよ。」

「はぁ・・最新モデルなんだけどなぁ・・」

「最新?」

「ええ。」

「最新の復元版とな?」

「・・・」


「よくできておる。秒針まで動くとはな。」

「・・・・」

「そちは考古学に詳しいのか?」

「いえ、そういうわけでは・・」

「ふむ・・。」


 そう言って考え込むシャコウさん。


 「それを関所で買い取っても良いぞ?」


 買ったばかりの腕時計なんだけど・・・

 背に腹はかえられないか・・


「買い取りをお願いしてよろしいでしょうか?」

「よかろう。わしが高く買い取るよう指示をしておこう。」

「で、あの、どの位になります?」

「?」

「どのくらいの価値かな、と。」

「そうじゃな、鑑定してみないとわからんが・・

 たぶん3年位は普通の生活ができるだろうな。」


「え? そんなに?」

「うむ。確約はできんが、たぶん、な。」

「よろしくお願いします。」


 そう言って時計を外して渡す。


「確かに預かった。」

「はい。」


「では入国のための生体認証の手続きを行うように。」

「え? 生体認証?」

「そうじゃ、何かしたか?」

「いえ、あの、その、縄文時代に?」

「? 今は 縄文235年じゃが。

 それが何かしたか?」


「いえ・・・。」

「生体認証を知らないのか?」

「いえ、指紋とか網膜認証でしょう?」

「何を言っておる? そんな昔のことを」

「え?違うのですか?」

「DNA認証と、脳波パターン認証の両方じゃ。」

「へ?」


「もうよいか? よければ手続きを受けてくるがよい。」

「・・・はい。」


パニック状態だ。

一体ここは何なんだ。

技術は現代より進んでいるなんて・・・

でも、遮光器土偶にそっくりのドグウ族がいて・・

関所があって・・・

だめだ、ついていけない。 お手上げだ。

まさか、これで縄文式住居に住んでなんかいないよね?


半ば呆然としていると声がかかった。


別の役人らしき人が「こちらへ」と案内を始める。

ヨイショーという名前らしい。


そして案内された先は、たぶん総檜造りの平屋だった。

建物の入り口には、看板がかかっている。

生体認証センターとか書いてあるのかな?

そう思い、看板の文字を見た。


”お静かに”


普通は何の建物か書くだろう!

一人突っ込みをした。

私の様子を見ていた、ヨイショーさんが怪訝な顔をして聞いてきた。


「どうしました?」

「いえ、あの、“お静かに”って書いてあったので。」


それを聞いた穂乃花と、ヨイショーさんのやり取りが始まる。

「え、いいんじゃないの?

 健康診断は静かに受けるものでしょう?」


「いや、健康診断ではなく生体認証の登録ですよ。」

「え? 違うの?」


「・・・え~と、では中に入ってもらいます。」


 あ、ヨイショーさん、説明しないんだ。

 面倒だったのかな?


ヨイショーさんは建物の重厚な扉を開けた。

すると、木のよい香りが鼻孔をくすぐった。


扉の向こうは、6畳一間のフローリングだった。

靴を脱いで中に入る。


いったいどんな登録装置があるのだろう・・・

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