第6話 関所・吟味

穂乃花は道中手形を見せた。

それを近くにいたドグウ族の一人が受け取る。

そして道中手形を見て怪訝な顔をした。


そうだろうね・・なんせ出店で買ったオモチャだ・・


道中手形は、上座にいるシャコウさんに渡された。


「ふむ、これは・・・」

じっくりと道中手形を見て、首をかしげる。


やはり通じるわけがない・・・

さて、どうしよう・・・


「その方達の国は何処だ?」


「あの、ここと同じです。」

「? なのか?」

「え? いや、あの、日本です。」

「にほん?」

「はい。」


 まあ、と言ったのは仕方ない。

 は弥生時代の日本のことだからね。

  

 シャコウさんが、質問を続ける。


とは聞かぬ国じゃな・・・」


やはり日本では通じないか・・・

知らない国から来たという設定で押し通してみようか・・

誠は意を決して話してみた。


「あの、シャコウ様?」

「なんじゃ?」

「私達は東方の国、日出る国、日本から参りました。」

「ふむ。」

「かなり遠くの小さな国ですのでご存じないかと・・」

「そうか・・・」

「今、身分を証明する物はそれしかないのです。」

「どういう事じゃ?」

「私達の荷物は無くなってしまいました。」

「?」

「道中で置き忘れ、取りに戻ったのですが見つかりません。」

「それは大変じゃったな・・」


 穂乃花が、ポカンとこちらを見た。

 頼む、穂乃花、しばらく黙っていてくれ。

 ニャン吉、お前もだ。

 あ! 俺を見て爪を出すな!


 道中手形の件以外は、嘘は言っていないからね。

 車の中に荷物を置いてきたのは事実だ。

 そして、ここから車のあった場所に戻ることはできない。

 ね、嘘は言っていないでしょ。


「して、荷物は見つかりそうか?」

「どうでしょうか・・・無理かもしれません。」

「ふむ・・・」

「今はそれ以外、身分を証明する物がありません。」

「そうか・・」

「通行を許可していただけないでしょうか?」

「ふむ・・・」

「この国を見聞していきたいのです。」

「そうか・・・」


しばしシャコウさんは穂乃花と誠をじっと見た。

そして目を瞑り考え込む。


「わしは此処で90年働いておる。」


え? 90年?

ポカンと二人して口を開いてしまった。


「人を見る目は確かだと自負をしている、どう思う?」

そう言って、隣に座っている補助役らしき人を見る。

もちろん見た目は遮光器土偶である・・。


「はい、仰る通りです。」

「で、そなたは二人をどう見る?」

「はい、生体認証さえして頂ければ問題ないかと。」

「そうか、わしもそう思う。では滞在を許可しよう。」


「有り難う御座います!」

 二人でお礼を言う。


 よかった、関所は通れそうだ。

  

 ん? そういえば先ほど生体認証とか言ったような?

 まさか、ね・・、聞き違いだよね。

 

 だって、先ほどから吟味内容を記しているのは竹だよね?

 木簡もっかんとかいうやつじゃないかな・・

 そこに筆で書いているように見える。

 そんな時代に生体認証があるはずがない。

 

 あれ? そういえば木簡だけど・・

 さっきから1つの同じ木簡に書いているように見える。

 上書きを繰り返している。

 書いている振りなのだろうか?

 ・・・・気になる・・・

 

 「あの・・シャコウ様・・」

 「なんじゃ?」

 「先ほどから筆を取って書いてる方がいますが・・」

 「それがどうしたのじゃ?」

 「1つの木簡に上書きしていませんか?」


 「へ?」

 木簡を手にしていた人が変な声をあげた。

 

 「これ、トレーネ、変な声を上げるでない。」

 「あ、これは失礼しました。」

 「その方、調書を書いておるか?」

 「はい、確かに。」

 「どれ、見せてみよ。」


  そう言って一つの木簡を手に取った。

  長さ30センチくらいの大きさだ。


  それを何度も上から下へと見た。


  「ふむ、キチンと書いておるの。」

  「はい。」

  「丁寧じゃ。よく書いてある。」

  「有り難うございます。」


   嘘でしょう? 上書きになってない?


  「あの・・・1枚の木簡に書いていますよね?」

  「そうじゃよ? それが如何致した?」

  「文字が上書きされているのでは?」

  「文字?」

  「はい。」

  「何を言っておる? 文字なぞ書かぬぞ?」

  「?」

  「思念を記録しておるだけじゃが?」

  「・・・」

  「上書きはされておらん。心配無用じゃ」

  「あ、えっと、・・そうですか、失礼しました。」

  

  「ふむ。では、吟味は終わりじゃ」

  「はい、有り難う御座いました」


   思念を記録する?

   遺跡で出てくる木簡はどうだったんだろう?

   思念が記録されているのだろうか?

   それにしても、いったい此処はどうなっている?

   縄文時代じゃないのか?・・

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