第3話 関所に行ってみよう
誠は目の前に広がるススキ野を呆然とみていた。
そして後ろを振り向く。
高い
塀は途切れることなく遙か彼方まで続いている。
正面には門があり時代劇に出てくる関所とよく似ている。
塀の向こう側へ行くには、この門を潜るしかなさそうだ。
受け入れがたい景色だ。
しかし、呆然としていても仕方がない。
とりあえず、此処が何処か知りたい。
何処か聞きたいのだが、関所みたいな周りに人はいない。
聞くとしたら、関所みたいな場所に入り人を探すしかない。
しかし、もし此処が関所だったら身分を聞かれるだろう。
免許証は持っているが通用する気がしない・・。
できれば入りたくないのだが・・。
そう考え、誠は再び後ろを向く。
何度見ても、ススキ野が広がるだけで何もない。
たぶん、日が落ちるまで歩いても人に会えそうもない。
それに野宿になるだろう。
これは関所を通るしかないかな・・・
穂乃花に相談しよう・・・
呆けている穂乃花に、声をかける。
「穂乃花、怪我はないか?」
「え・・うん、大丈夫よ私は。
誠は大丈夫?」
「あ、うん、大丈夫。」
「・・ねえ、これって・・」
「?」
「プロポーズのサプライズ・・だよね?」
その時、誠の腕の中にいたニャン吉が突然飛び降りた。
そして、穂乃花に向かって突撃し飛びついた。
思わずニャン吉を抱きとめた穂乃花は、
「ニャン吉?!」
「ウにゃう!」
「抱いて欲しいの?」
「にゃん!」
「ふふふふ、甘えっ子さん!」
そういって穂乃花は笑みを浮かべた。
誠はそれを見ながら先ほどの穂乃花の言葉を反芻した。
プロポーズのサプライズって言っていたよね?
プロポーズ?
え? あれ? ん?
穂乃花はプロポースを待っていたのか?
そう思ったら、嬉しさがこみ上げてきた。
こみ上げてきたのだが・・
今、目の前の穂乃花はニャン吉に夢中だ。
先ほどのプロポース発言は忘れているようだ。
目の前のニャン吉をジト目で見る。
ニャン吉も誠を横目で見ている・・気がする。
ニャン吉、お前・・!
穂乃花のプロポーズ発言に反応しただろう!
恐るべき手練れだ。
さすがは俺の恋敵、ライバルである・・・
仕方が無い、プロポーズの件は置いておこう。
いずれは、するけどね。
覚えておけニャン吉め。
それよりも、これからどうするか、だ。
穂乃花と現状の認識を共有しなければ・・
そう思っていると穂乃花が話しかけてきた。
「ねぇ、誠、ニャン吉、可愛いよね!」
「・・・あ、うん。邪魔しなければね。」
「?」
「あ、いや、何でもない。」
「ところで、目の前のもの、何に見える?」
穂乃花は誠から目を外し、誠の後ろを見る。
困惑した目になる。
「誠のサプライズ?・・」
「・・残念だけど、そうじゃない。」
「・・だよね・・。」
「穂乃花は何に見える?」
「関所に見える、かな?」
「やっぱし、そう見える?」
「うん・・。」
「ここ公園だと思う?」
「・・・やはり違うの?」
「たぶん、ね。」
「・・・・」
「なぜこうなったかは、わからないけど。」
「そうだよね・・」
? 以外に穂乃花は落ち着いている。
ニャン吉効果だろうか?
ただ、ニャン吉を心持ち深く抱き、顎をニャン吉の頭に乗せている。
不安に思っていることが伝わる・・。
ニャン吉も、おとなしくしている。
主人思いの猫である。
「まずは、此処が何処か知りたい。」
「うん。」
「とりあえず人に会って聞いてみようと思う。」
「そうだね・・。」
「どっちに行きたい?」
「え?」
「関所を通るか、後ろのすすき野を歩くか・・」
「・・・・」
「すすき野を行くとしたら、今日は野宿かな~」
「いや! それは絶対にいや!」
「じゃあ、関所らしきものに入る?」
「・・・」
「泊まる場所やレストランは関所を通らないと無いよ?」
「にゃ~~ン」
「?」
「ニャン吉が関所に入る、と、いっている。」と、穂乃花。
「そう、なの?・・。」
「うん。」
「それでいい?」
「うん。」
「それじゃ、関所に、二人と一匹で・」
「ニャ!ニャ!」
「?」
「あのね、一匹という言葉に怒っているみたい。」
「へ?」
「ニャン吉ね、小さいころにうちに来たでしょう?
家猫だから他の猫との接触がなく、人としか接触してないの。
たぶん自分を人と思っているの。」
「うん・・」
「だから、一匹ではなく人として数えてという抗議だと思う。」
うそでしょう?
まさか、ね・・・
試しに言い直してみるか。
「じゃあ、三人で・・・」と、言い直す。
「うにゃん ♪」
「・・・・・・・・・」
「ね、そうだったでしょ?」
「・・・・・・」
「うふっ! ニャン吉、偉い!」
「・・」
「どうしたの?」
「いや、何でもない・・」
「そう?・・?」
「じゃあ、関所に入るよ。三人で。」
「うん・・捕まらないよね?」
「罪人じゃなければね。」
「うん、そうだよね。大丈夫だね。」
そうは言ったものの、どうなるか分からない・・
いずれにせよ行く以外に選択肢がない。
そう思いながら門に向って歩いていく。
門の両脇になにか置かれている。
それが門に近づくにつれ分かってきた。
「なあ、穂乃花・・」
「なあに?」
「門の両脇なんだけど・・」
「うん、埴輪が置いてあるね。」
「だろ? 遮光器土偶だよな?」
「うん、そんな名前だったかな。」
「なんで門の両脇に置かれているんだろうね?」
「さぁ~・・、鬼瓦やシーサーのような魔除けかな?」
「なのかな~・・」
「分かった! 信楽焼の狸の代わりだ!」
「・・・」
「ほら、千客万来ってやつ。」
「招き猫じゃなくて?」
「え?猫じゃないといけないの?」
「まあ、いけなくはないだろうけどさ・・」
「でしょう!」
関所で千客万来ってあるのだろうか?
ただ、穂乃花と話していると、あるような気がしてくる。
何故だ?
それはそうと、遮光器土偶って縄文時代だよね?
出土した市町村のマスコットとして飾ってあるのだろうか?
だとしたら、ここは東北地方?
青森とか・・
でも、それはないよね・・
公園があったのは長野県の長野市、それが数分で東北なんてね。
新幹線でも無理。青森まで直通ないし。有っても無理。
飛行機でも無理。空港は長野市に無い。
あるのは松本市の松本空港、行くだけでも1時間以上。
数分で東北なんて絶対に無理。無理なものは無理。
そんなどうでもいいことを考え現実逃避してみる。
それにしても、この土偶、高さは170cm位あるよね。
でかい。
二人、いや三人は黙々と門に歩いて行った。
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