第50話 文化祭の劇

 クラスの出し物であるお化け屋敷の見学をした後、剛輝と合流して校庭で模擬店をしている3年生の店を見て回りながら、昼食をすませる。


「本当のお祭りみたいな、すごい賑わいだ」

「人が多すぎて、ほんまにめんどいわ」


 お昼時ということで飲食店が人気なのか、多くの来場客で賑わっていた。まるで、夏の花火大会で賑わいを見せるお祭りのような、それぐらいの混み具合。


 そんな周りの人混みの様子に、剛輝もうんざりしている表情を浮かべて言う。実は俺も剛輝と同意見で、表情は彼と同じような顔をしていると思う。


「そろそろ、劇の準備に入らないといけないですね」


 優人の言葉を聞いて時間を確認してみる。もうすぐ午後1時になろうとしていた。劇の開演が2時30分予定だったので、確かに優人の言う通り。


 そろそろ、体育館に向かって劇の準備に入った方が良いだろう。


「そうだね、もう体育館に行こうか」

「よっしゃ、やったろうか」

「行きましょう」


 気合を入れて、劇に挑もうとする俺たち3人。時間を掛け、文化祭実行委員主催の劇を皆で準備してきたので、是非とも成功して欲しいと願っていた。



***



 体育館に入ると、既にスタッフが何人か劇の準備に取り掛かっていた。俺たちも、急いで手伝いに入る。


 大道具を舞台上に配置して、場面が映えるように並べていく。その後は、用意しておいた小道具が問題なく揃っているか、衣装には問題が無いか丁寧に確認していく。舞台音響のテストも行って、本番に挑む準備を完璧なものに整えた。


「お疲れさま」

「拓海くん、おつかれ」


 劇の最終練習も終わったのだろう。これから始まる劇の舞台となる体育館にやってきた緑間拓海が、準備を進めている俺に声を掛けてきた。


「衣装は準備が出来ているから、後は着替えるだけかな」

「ありがとう、すぐに着替えて準備するよ」


 午後2時頃には、全員の準備が無事に完了していた。開演まで、まだ30分あるというのに、体育館に並べられた席が全て埋まってしまうほどの満員状態。


 急遽、追加の椅子を並べてなんとか立ち見の人を少なくしたけれど、それでも人が集まってくるのが止まらない。この集客数の原因は、毎年の伝統となっているほどの堀出祭の劇の知名度、プラス緑間拓海のネームバリューによるものだろう。


 とりあえず、劇が始まる前だが今の所は順調か。少なくとも、多くのお客さんが劇を見に来てくれているから、後は彼ら彼女らを楽しませられるかどうか。出演者達の頑張りを期待する。


「皆で円陣を組んで気合を入れよう!」


 俺の一声で、裏方のスタッフ達が集まってくる。


「僕たちも入れて」


 出演者である拓海も混じってきて、裏方のスタッフに出演者も一丸となって舞台裏で皆、肩を組み大きな円陣を作る。


「皆さん、今まで劇の準備お疲れ様でした。そして最後まで気を抜かずに劇を無事に成功させましょう」

「裏方の皆が用意してくれた最高の舞台で、僕たち演者は最高の演技を見せよう」


 皆を集めた旗振り役として、俺が掛け声を先導する。俺が裏方を代表して、拓海は出演者代表として気合を入れる。


 円陣を組んだ皆に視線を向ける。全員、いい感じで気持ちが高ぶっているのを確認した。


「絶対成功させるぞー!」

「「「「「おー!」」」」」


 全員が団結する掛け声を上げて、思いっきり気合を入れる。劇に挑む準備は完了。そして、ステージが始まる。



***



 今回、出演者の多くが舞台経験のあった。芸能関係者ばかりだったので特に失敗もなく、劇は順調に進んでいく。場面転換の大道具配置換えや、舞台音響も問題はなくタイミングも予定通り、バッチリだった。


 俺たちが今やっている劇の長さは1時間と、平均的な学校の文化祭で行われる劇の長さに比べると長めではある。だけれど、出演者たちの今までに磨いてきたであろう芝居の能力によって、見ているお客さんを熱中させ飽きさせない。だから、長いとは感じていないだろう。観客を夢中にさせていた。


 俺も裏方として大道具方、音響として働きながら拓海たちの劇の脇から見ている。流石だと思った。長い経験を積んできた、拓海の凄いと思わせる演技。それを見て、思わずため息をついてしまうぐらい。


 練習やリハーサルでも何度か見たこともある筈なのに本番だからなのか、グイグイ引き込まれる。ストーリーや世界観の中にに引き込まれていく感じがあった。劇は、まだまだ続く。


 観客たちがよほど真剣に見ているのか、出演者たちのセリフしか聞こえてこない。シーンと静まり返った体育館の会場。感動な場面では、すすり泣く声が聞こえてくるほどだった。


 とんでもなく凄い劇が出来ていると、公演の最中に実感してしまう完成度の高さ。観客らの引き込まれ具合。


 しかし、劇にも終わりがやってくる。ラストのシーンで、主演である拓海が1人で舞台に立ってセリフを語っていく。最後のセリフを言い終わった瞬間に、舞台は暗転して劇が終了する。


 拓海が最後の言葉を観客に放って、体育館がパッと真っ暗になった。


 その瞬間、会場からは大きな拍手が湧き上がった。長い長い拍手がずっと体育館中に響き渡る。鳴り止まないんじゃないかと思うぐらい、拍手は長く続いた。


 裏方のスタッフである俺たちも、歓声を上げて劇の終了を喜んだ。大成功だったと感じて。皆でハイタッチして、成功を噛み締めた。




 クラスの出し物も、文化祭実行委員主催の劇も、何の問題もなく無事に終わった。堀出祭の終わりを迎えることが出来た。

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