第49話 堀出祭

 クラスの出し物の準備、劇の準備も万端にして堀出祭が開催される当日を迎えた。朝早くから外部からの来場者も多く、学園の中には普段の学生と先生だけが居る空間と違って、人混みが出来るほどの人がいて大いに盛り上がっていた。


「これは、かなり人が多いなぁ」

「ほんまや。学校の中に、めっちゃ人がおるな」


「何処から見て回りましょうか?」


 いつものように俺と剛輝と優人の3人組で集まって、初めての文化祭を見て回る。拓海も誘おうと思ったけれど、劇の最終練習に入っているという事なので邪魔をすることはできない。そういう訳で、この3人で校舎の出入り口に集まっていた。


 どこの出し物から見て回るのか相談した結果、自分たちが今いる場所から一番近い位置の出し物ということで、俺と剛輝のクラス出し物である美術制作の展示から見に行くことになった。


「おぉ、ちゃんと置いとるな」

「凄いですね」


 教室の中にあった机は全て取っ払って今は、学生である俺たちが数週間前から制作した絵や彫刻等の美術作品が並べて、置かれている。


 芸術品に関する審美眼があまり無い俺でも、なかなか魅力的だと感じる作品が多数展示されている。芸能に関係するような人間が作っているからなのか、製作者の感性が豊かなのかな。


「これが剛輝の作品か。なかなか凄いじゃん」

「賢人のやつも、かなり良い出来やんけ」


 俺と剛輝は、文化祭当日まで互いの作品を見せ合わなかった。だから本番を迎えるまで、どんな作品なのかを知らなかった。ということで、文化祭当日に初めて剛輝の絵画作品を見せてもらったけれど、結構良い感じの出来栄えだった。


 俺の提出した馬の彫刻作品も展示されている。昔から山に分け入って木を削ったり石を削ったりして修行をしていたから、その頃の経験が生きて彫刻で馬という作品を創り出すことが出来た。前世の知識を活かした作品である。


 今回、作品を制作する途中で小学生の頃に山の中で修行していた日々を久しぶりに思い出していた。今度の休みにでも、しばらくぶりに山にでも行こうかな、と思う。


「他の人の作品も、完成度がすっごく高いですね。特に、この絵は素人が書いたとは思えません。凄いですよ」


 優人が珍しく興奮しながら、教室の中に展示されている作品に興味津々、じっくり見て回っている。意外に優人は美術関係が好きらしい、という事を初めて知ることになった。


 優人が満足するまで、しばらく展示を見て回ると次の出し物を見学に行く。次は、1つ上の学年である緑間拓海のクラス出し物である写真展。


 教室は近く、数分で到着した。けれど既に中には人が多く集まっていて、展示物である写真が人混みに隠れて外からは完全に見えない状況だった。中に入るのに苦労をしそうだった。俳優として活躍している有名人の拓海の写真は、流石と言える集客数である。


「めっちゃ人おるな」

「ちらっと見る、ぐらいしか出来なそうだ」


 教室の前に並んで、展示されているという写真を見るために中へ入っていく。が、人混みの間にチラッと見ただけで、後に並んでいる人に背中を押されて、立ち止まることができない。先に進むように歩くしかないようだ。すぐ教室の外へと出された。


 展示されている教室の中に居られたのは、5分程度だった。ここの展示品は、残念ながらゆっくりと見ることは出来ないようだ。


「次、見に行こうか」

「人多すぎや」

「もともと堀出祭は、外部からの来場者も多いですから。仕方ないですね」


 次に見学へ行くのは、優人の所属するクラスの出し物だ。結構ギリギリまで優人のクラスでは議論を重ねて、クラスの出した結論がお化け屋敷という文化祭の定番。


 普通の出し物だという。


「クラスの皆は、かなり話し合って色々と案を出したんですけれど。どれも実現性がなくて却下されてしまいました。話し合いの時間も徐々に少なくなって、自分たちが出来るモノをやろうという結論に至って、結局はお化け屋敷になってしまいました」


 まぁ、初めての文化祭で大きく失敗でもしてしまったら悲惨だから。学園生活でも後々に大きく響きそう。だから、まずは無難にお化け屋敷でも正解だと思う。


「お、お、お化け屋敷かいな」

「うん、次は優人のクラスの出し物を見に行こう」

「俺は、パスするわ。うん、2人で行ってきぃ。俺は、校庭の出店で何か買って1人で食べなから待っとくわ」


 突然、剛輝は優人のクラスの出し物を見学しに行く事を拒否しだした。というか、剛輝はお化け屋敷が駄目なようだった。これも優人の美術好きに続いて、初めて知る事実であった。剛輝、そんな弱点があったのか。


「剛輝って、お化けと駄目だったんだね」

「な!? ち、違うわい! ただ、急に腹が減って何か食べたい気分やねん。うん」

「……」


 あまりに素直な言い訳で、優人が唖然としている。お化けが怖いという事よりも、お化けが怖い事を隠しているのが可愛い。


「本当に行かないの?」

「行かん!」

「分かりました、賢人くんと2人で行ってきます」


 本気の拒絶にあったので剛輝とは別れて、俺と優人の2人になって出し物の見学に行く。剛輝は別れると、本当にお腹は空いていたようで、校庭にある食べ物が売られている出店の方に行くようだった。



***



「うーん、もう少し驚くようなインパクトがあれば良さそうかな」

「そうですね。でも反省点は色々と見つかりましたし、次はもっと立派なお化け屋敷が出来ると思いますよ」


 優人クラスの出し物である、お化け屋敷を見終わった後、俺達は感想を言い合う。全然駄目じゃないけれど、少し物足りない感じ。


 教室の中にはしっかりと遮光カーテンで真っ暗にしていて、小道具の配置に衣装もバッチリ、でも驚かし方が少しイマイチだったかも。


 学園祭の出し物と考えれば、まぁまぁ平均的だと思えるぐらいの出来栄えだった。ただ特徴的な何かが無いので、あとはその何かもう一つ、アッと驚くような仕掛けが用意できれば楽しめそうだった。


 偉そうに語ってしまった。そんな俺の感想を怒らずにしっかりと聞いてくれた優人は、次にお化け屋敷をするときの為に反省点を出していた。次に繋げるため、色々と学んでいる様子だった。


 勉強熱心だけれど1つ疑問なのは、優人は来年も文化祭の出し物でも同じ、お化け屋敷をするのだろうか、と疑問に思ったけれど黙っておいた。

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