第45話 昼食の時間

「優人! こっちだよ」

「お待たせしました、賢人くん、剛輝くん」

「おう、待っとったで」


 平日の学校で午前中の授業が終わり昼食時。俺は座った状態から手を上げて、別のクラスメイトの舞黒優人と合流する。


 俺と剛輝は先に、寮の食堂で本日のメニューを取ると場所を確保して並んで座り、彼の到着を待っていた。俺と剛輝、優人の三人で食事を一緒にする。いただきますと手を合わせて食事を始めた。


 今日のメニューは、ポークカレーに切り干し大根のコールスローサラダだ。カレーから匂ってくるスパイスの辛味が、非常に食欲をそそる。カレー好きにはたまらないだろう。


「遅れてしまって、申し訳ありませんでした」

「大丈夫、全然問題ないよ。文化祭の話し合いが長引いたの?」


 相変わらず丁寧な口調で謝罪の心をいっぱいにして謝る優人に、気にしないようにと返答しながら遅れた理由を尋ねた。


「はい、そうです。うちのクラスは、まだ何を出し物にするのか決まっていなくて」

「まだ決まってへんのか? そりゃ大変やなぁ」


 優人がいるクラスでは、出し物について内容が決まっていないらしくて話し合いが平行線のまま手詰まり状態らしい。文化祭は、まだまだ予定日が先の行事だけれど、早めに何をするのか決めないと準備をする時間がドンドン短くなっていく。だから、内容を決めるために今、必死で繰り返し何度も会議をしているという。


「剛輝くん達のクラスは、もう何をするのか決まっているのですか?」

「あぁ、俺らは簡単な美術作品をそれぞれで作って、展示するって出し物やな」


 文化祭の当日までに絵画を描くか、粘土で作品を作るのか、とにかく美術に関する展示品を一人ひとりが作って教室に飾って置いておく、というだけの簡単な出し物。


 芸能活動によって時間が合わないクラスメイト達が多いということで、全員が同じ時間に集まって何かを作る、というスケジュールを合わせるのが非常に困難なので、仕方なく展示物を作って置いておく、という解決策メインで決まった出し物だった。


「中学生の俺たちは食べ物系が出せないし劇も出来ないから、何をするか制限されていて、正直とても決めにくいよね。出し物」


 中学生である俺たちはまだまだ歳が若いという事で、文化祭期間中に火を使うのは禁止されていた。火を通さないとなると商品に食中毒の危険があるし、食品衛生法を守る為に色々と手続きも複雑だったので、食べ物系の出し物は容易に出来ない。


 演劇についても、学校全体で1つの大きな劇をする予定なので、クラス別で演劇をするのは基本的に禁止されている。申請を出したら、一応許可が下りる可能性もあるらしいけれど、やっぱり面倒だ。


「クラスでは、お化け屋敷や迷路等の定番系は避けて、奇をてらいすぎないで斬新な出し物を考えよう、って皆で必死に話し合いをしています」

「それは、なかなか決めるのに時間が掛かりそうだね」


 優人のクラスで文化祭の話し合いが行われているように、堀出学園全体が文化祭に向けて準備を全力で進める、というムードが高まっているのを感じられた。


「そういえば、夏休み明けのテストの結果はどうだった剛輝?」

「え!? あー、まぁー、……ぼちぼち?」


 突然話題を変えて、勉強に関して聞いてみたけれど焦りまくり曖昧な答えを返してくる剛輝の表情を、見て察する。あまり結果は芳しくないようだ。


「これは、また勉強会を開く必要があるね」

「僕も手伝います」


「それはいいね! 学年一の秀才が助っ人してくれるなんて、大助かりだ」

「うへぇ」


 毎日のように厳しいトレーニングを受けて疲れている筈の優人だったが、それでも学校の成績を落とすことなく、2学期の中間テストで学年一位の成績を収めていた。そんな彼が先生として勉強会に参加してくれるのは、非常に頼もしい。


 前からずっと感じていた事だけれど、芸能活動が忙しくても学業は疎かにはしないように頑張りたい。剛輝はダンスを覚える記憶力や理解力があるし、元の頭の良さがあるのだから、ちょっと勉強を頑張ったら学年平均は簡単に超えられるはずだろうと俺は思っていた。


 だから剛輝が感じている勉強に対する苦手意識が消えればなと思いつつ、定期的に勉強会を行っていた。


「赤井くーん!」

「青地くんッ!」


 食事中だが突然名前を呼ばれて声の聞こえた方へ振り返ると、ミーハーな女子生徒が何人か集団でこちらに向かって手を降っているのが見えた。そんな彼女たちに向かって笑顔を浮かべながら、手を振り返すファンサービスを見せる。一緒に座っている剛輝も。


「こんにちは」

「おう」


 俺たちが反応を見せると、キャーキャーと騒いで食堂から出ていく女子生徒たち。まだデビューした訳では無いけれど、学園内での認知度は高いようで、ときどき今のように歓声を上げる見物人の生徒が居たりする。


「優人くん、がんばって」

「は、はい。ありがとうございます」


 そして最近では優人にも声援を掛けるファンも現れてきていた。だが慣れていない優人は、真面目な表情と丁寧な口調で対応が堅い。


「また、堅っ苦しくなっとるな」

「まぁ、徐々に慣れていくしかないよ」


 剛輝は優人の駄目な対応を指摘して、俺は仕方ないけれど早いうちに慣れるように一緒に頑張ろうとアドバイス。


「精進します」


 そんな会話をしているうちに昼食も食べ終わって、午後の授業が始まる直前。食堂から、学校へと戻る。


「じゃぁな」

「また、放課後に会おう」


「わかりました、それでは」


 優人は別クラスだったので、校舎に入った所で別れてそれぞれの教室へと向かう。剛輝と俺は一緒のクラスなので、廊下を並んで歩いて戻るのが昼休みから午後の授業が始まるまでに行われている日課であった。

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