第42話 アイドルグループ結成(仮)

 三喜田社長が会議室に連れてきた舞黒くんを目にした瞬間、俺は一瞬どうしようかという心境になった。


 というのも、先日の舞黒くんとの出会いについて詳しく説明していなかったから。警察や学校の人達には仕方なく巻き込まれた、と話していたが舞黒くんは今回の件で事実を知っている。


 別にちょっとした揉め事であり、俺も舞黒くんも怪我はなく無事だった。相手にも怪我をさせていない。新道という男は失神させてしまったが、大事にせず事態を収めたから悪いこともしていないだろう。何でもない事とは思うけれど、話を聞いた人がどう判断するか。


 赤井くんは不良達と揉め事を起こして、自分は人質として巻き込まれてしまった。


 と舞黒くんの口から言われてしまえば、聞いた人にどう判断されるのか怖かった。そんな事を心配をしたのだが、どうやら全然別の事情で舞黒くんはこの場所に連れて来られたようだった。


「賢人くんは既に彼と知り合いのようだね。ここに居る舞黒優人くんは、アイオニス事務所に新しく所属することになった仲間だよ」

「よろしくお願いします」


 三喜田社長から紹介をされた舞黒くん。もう一度、頭を下げて丁寧な挨拶をする。驚いたことに舞黒くんは、これから俺と同じ事務所に所属をする事になったようで、新しいアイドル訓練生となっていたらしい。


 更に付け加えられた三喜田社長の言葉に、再び俺は驚くことになる。


「ここに集めた3人は、以前から計画していたアイドルグループである”Chroma-Keyクロマキー”のメンバーとしてデビューを予定している。もちろん、今すぐという訳じゃないが心の準備だけはしておいてくれ」


 そんな宣言をいきなりされて、俺は剛輝と顔を見合わせた。突然過ぎて理解が追いついていない。


「えっと……? それじゃあ、俺と剛輝と舞黒くんの三人組でアイドルデビューするという事ですか?」


 言葉を口にしながら頭の中で話を整理して、三喜田社長に確認するため質問を投げかける。


「いや、あと2人をメンバーに加えようと考えている。5人組としてデビューさせる予定だ。1人は、既に確定をしていているから、近々会うことになるだろうと思う。ただ、もう1人が少し厄介なんだよ。もうちょっと時間が掛るかもしれない。だが、メンバーを集めて新しいグループとしてデビューするという計画は進行中だ」

「はぁ、なるほど……」


 どうやら、三喜田社長には明確なビジョンが既にあるようで何やら色々と考えているらしい。初めて聞いた話に、俺達は戸惑いを隠せないでいた。新たに加わることになった舞黒くんすら困惑しているみたいだ。


「これは確定という訳じゃなくあくまでも予定だが、とにかくここに居る3人と後から合流する2人の計5人でグループとしてデビューするという予定だ。契約に関しては後で色々と話し合って決めることもあると思うが、とりあえず顔合わせということで3人で会話してみてくれ」


 三喜田社長に言われて、どうするのか困ってしまい黙ったまま見つめ合ってしまう3人。ちょっと気まずい。


「社長が居たんじゃ、気楽に会話も出来ないかもしれないな。私は先に出ていこう、会議室はしばらく使えるようにしておこう。それじゃあ、失礼」


 まるで、見合いのような感じ。後はお若い人たちに任せて……、というような事を言って俺たち3人だけ残し、さっさと会議室から出ていってしまった三喜田社長。


 確かに大人が近くに待機している状況で、見られたまま会話しろと言われても緊張するのは確か。素直に話は出来ないかもしれない。だが突然、グループデビューするというような大きな話を持ってきて、そのまま放置というのも無責任だという感じだなぁ。


 けれど、まぁ普通に舞黒くんと知り合いになって友達になるための自己紹介の場を用意してくれたと考えれば、いいのか。


「とりあえず、舞黒くんもコッチに来て座って」

「ありがとうございます、失礼します」


 扉の前で立ったままの舞黒くんを、俺と剛輝が座っている近くの椅子に呼んで腰を下ろしてもらう。すると、彼はすごく丁寧な口調で応答する。


 会議室の中で、俺たち3人は近くに集まって座っている。


「優人って名前やったっけ」

「あ、はい。そうです」


「俺は、青地剛輝や。よろしくな」

「よろしくお願いします」


 なんだか同年代とは思えない、剛輝くんの先輩っぽい対応に舞黒優人くんの恐縮をした後輩っぽい応答。


「三喜田社長から呼び出されて一体なんだろうって思ってたけど、この3人と後から2人が入る予定で、アイドルデビューするって話だったね」


 俺が2人の顔を見渡しながら、先程の事を思い出して話を振る。


「そうやったなぁ。それにしても、なんやっけ……、Chroma-Keyクロマキー? どういう意味なん?」

「映像の加工に使われるクロマキー合成とかの、クロマキーでしょう。確かクローマって言葉が、色とか色彩という意味の単語だったはずですよ」


 先程聞かされたアイドルグループ名のChroma-Keyクロマキーに疑問を持った剛輝に答えたのは、舞黒くん。


「ほぉ、なるほどなぁ。そういや、ここにおる3人も名前に色が付いとる。そういう意味で付けた名前なんかな」


 剛輝の言う通り、彼には青、俺には赤、今日メンバーになると紹介された舞黒くんには黒の色が付いていた。色の名前が付いた3人が集められたということだ。


 多分偶然、ということは無いだろうから三喜田社長の考えで、意図的に色の付いた名前のメンバーを集めてきた、ということだろう。


「後から2人メンバーとして合流するって言っていたから、その人達にも色の付いた名前かもしれないね」


 こうして俺たちは事務所の会議室に集められて、アイドルグループとしてデビューするという計画が進行中であるという話を三喜田社長から聞かされた。


 後に、国民的なアイドルグループとして知られるようになる、Chroma-Keyクロマキーというグループの始まりだった。

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