第43話 仲間との会話

 事務所にある会議室に集めれられた俺と剛輝、そして舞黒くんの3人は三喜田社長からアイドルグループのデビューについて突然な話を聞かされた。その後、引き続き俺達はそのまま会議室に残されて会話を続けていた。


「そういえば舞黒くんは、どうしてアイオニス事務所に所属することになったの?」


 起業したばかりのアイオニス事務所では、まだ新人オーディションを実施したとは聞いていない。三喜田社長も、今はとにかく事務所が安定するまで直近の問題を早く処理していくのと、所属している人材を優先的に売り出していく準備をすると言っていた。


 それなのに、新しく所属することになったという舞黒くんに関して疑問を持った。一体、どういう経緯で事務所に所属することになったのかを。


「実は少し前から、三喜田社長にはスカウトされていました」


 詳しく聞いてみると、どうやら三喜田社長はアビリティズ事務所から退任する少し前の頃から舞黒くんを見出して、スカウトを仕掛けていたらしい。


 けれども舞黒くんは、勉学を優先して励んでいるから他のことには興味を持てないという理由で、スカウトを断っていた。そういえば、彼は頭が良かったっけか。進学コースで、優秀な学生が集まるクラスで毎回トップの成績を取っていると聞いた事がある。


「それが、なんで急にスカウトを受けたんや?」

「先日の出来事で、赤井さんに出会ったからです」


 剛輝の質問に、そう答える舞黒くん。先日の出来事、というのはやはりチンピラ達との揉め事だろうか。でも、そんな事に巻き込まれた事と、スカウトを受ける理由に繋がるとは俺には思えなかった。


 舞黒くんの語る理由になんとなく納得出来ないというか、何というか……。


 でも、とりあえずはあの時に巻き込んでしまった事をもう一度お詫びしていた方が良いか。そう考えて、俺は頭を下げて舞黒くんに謝った。


「あの時は、巻き込んでしまって申し訳ない」

「あ、いえ、僕の方こそ人質なんかになって赤井さんに迷惑をかけてしまいました」


 普段は感情の薄い感じで無表情の舞黒くんは、謝る時には本当に申し訳ないというような表情に変わっていた。感情がないという訳ではなく、表情に出にくい人のようだ。


 しかし、人質になって俺に迷惑を掛けたというのは順序が逆だった。俺が揉め事を起こすような事をしなければ、彼は巻き込まれることは無かった。原因は、3年前にあったコンサートでの出来事。だから、俺が謝るのが筋だろう。


「いや、迷惑を掛けたのは俺の方だから」

「いいえ、僕の方こそ迷惑を掛けることになって」


「ちょいちょい! 終わったことやし、もうその話は止めとけや。話が進まん」


 謝り合戦になってしまった俺と舞黒くんの間に割って入り、止めてくれたのは剛輝だった。確かに、謝ってばかりでは話を先に進められないか。


「そうですね、とにかく先日の出来事がきっかけで僕は三喜田社長のスカウトを受けることに決めました」


 そう言って、事情について話し終えたのか口を閉じる舞黒くん。結局、詳細はよく分からないまま。不良との揉め事に巻き込まれた事が、舞黒くんがスカウトを受けたキッカケの一つで間違いないのだろうけれど、彼は全部を話している感じではない。


 でもまぁ、理由を隠したがっているのなら無理に聞き出すのも良くないだろうか。そう思って、話題を変える。


「とりあえず、今後のグループでの活動をどうしていくか意識合わせをしておこう」


 と言ってみたものの、まだデビューは確定したわけじゃない。けれど、高い確率でデビューは決まっているらしいので、今後の活動についてメンバーとなる俺ら3人で話し合っておいたほうが良いだろう、と思って提案してみた。


「とりあえず、グループのリーダーは決めたほうが良いんじゃないでしょうか?」

「リーダーね。確かに、決めておいた方が良いのかな」


 英語で”導く人”という意味のリーダー。舞黒くんの言う通り、成果を挙げるためにメンバーを目標に向かって導いていく人、というのを決める必要がある。後からまだ2人ぐらい集めら5人組になると聞いていたから、とりあえずのリーダーになりそうだが。


「僕は、赤井さんがリーダーとなるのが適任だと思います」

「おう、俺もそう思うわ。賢人がリーダーになってくれ」

「俺!?」


 2人とも、リーダーとして俺を指名してきた。舞黒くんはともかく、剛輝は自分がリーダーになりたいと言いたそうな性格だと思っていたけれど、意外と俺をリーダーに推してきた。いや、リーダーは面倒だと思って俺に役目を譲ってきたという可能性もあるか。


 ともかく、2人から指名されたのならばリーダーを引き受けるのも吝かではない。ということで、Chroma-Keyのリーダーは赤井賢人が引き受けるという事はあっさりと決まった。


「後は優人の話し方、硬すぎひんか? 同い年やろ俺ら」

「赤井さんにも説明したのですが、僕のこの話し方は癖になっていて直せないんですよ」


 僕も前に気になった彼の話し方について、剛輝もやはり気になったのか突っ込んだが、癖ということで直せそうにないらしい。


「んー、そんじゃあ、名前の呼び方くらいは親密に呼んでえや」

「んっと、はい。わかりました。剛輝くんに賢人くん」


「まぁ、それでええわ」

「改めてよろしく。舞黒くん」


 というやり取りの結果、話し方は丁寧なままだけれど呼び方は変わって、お互いに賢人、剛輝、優人という下の名前で呼び合う関係にまでは進展した。

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