第41話 事件後の処理
「そういえば、君の上着は俺の友達が寮に持って帰っていると思うから、あとで俺が受け取ってから返すよ」
「ありがとうございます」
学生寮へ向かって歩きながら、助け出した彼と話をする。人質を取った証明としてチンピラ達が使っていた舞黒くんの学生服。おそらく、助けに行き時に別れた剛輝が持ち帰ってたと思うから後で彼に返さないと。
それを伝えると、お礼を言われるほどの事でもないのに律儀に感謝の言葉を丁寧に返してくれた舞黒くん。
「それと、俺たち同級生だと思うから敬語で話さなくて普通の喋り方でいいよ」
「僕のこれは癖なので、丁寧にしか話せません。ごめんなさい」
あまりいい出会いとは言えないけれど知り合えた機会に、話し方もフランクにして距離を近づけようと思ったけれど、拒否されてしまった。残念だ。
こんな事に巻き込んでしまったから距離を取られているのだろうと思ったけれど、舞黒くんは今までの無表情から、申し訳無さそうな表情で謝られてしまった。
「あぁ。いや、いいんだ。こっちも話し方を丁寧にしたほうが良いかな?」
「赤井さんは、今のままで通りでいいです」
「そっか。じゃあ、それで」
「はい」
先程までの出来事もあってだろう、微妙な雰囲気で会話はすぐ終わってしまった。そのまま沈黙で学生寮にまで戻ってくると、すぐに舞黒くんとは別れることに。
「えっと、じゃあ。また上着を返しに行くよ」
「お願いします。それでは」
「うん。それじゃあ、バイバイ」
という感じで、あっさりと俺たちは別れた。今回の事については、本当に予想外の出来事だったけれど周りの人も巻き込んでしまった。これは早々に対策が必要だろうなと俺は思った。事務所の人に相談したほうがいいだろうな。
***
そんな事があって数日後。あの後、剛輝と拓海が呼んでくれた警察から事情聴取を受けたり、学校からは事情の説明を求められたりしたのだが適当に答えて有耶無耶にした。1人でチンピラ達に付いていった事については、凄く怒られてしまった。俺は何も危険を感じなかったのだが、心配をかけてしまったのは申し訳ないか。
どうやら、俺に仕返しをしようとしていた新道という奴は逮捕されたという。今回の他にも別に色々と悪質な事件を起こしていたらしくて、少年事件として処理されるそうだった。
念の為にしばらくの間は、チンピラや不良達からの報復を警戒していたけれども、何事もない日常を過ごせていた。あの事件があった後に、堀出学園のセキュリティも強化されたらしいし近づく事も困難になっているからだろうか。それとも、あの時の脅しに効果があったのだろうか。
事件の首謀者だった新道は警察から事情聴取を受けて、俺とタイマンを張って腕の骨を折られたと訴えたらしい。だが、医者の診察によれば怪我なんて負っていないという事が発覚してから、証言は信用されないようになったらしい。
あの時、念の為に回復魔法をかけておいてよかった。処置して置かなかったなら、今も俺は警察から事情聴取されていたかも。
ともかく、あの事件が終わってから今は平穏な生活が戻ってきていた。
***
事件があって、しばらく経った後。三喜田社長に事務所へと呼ばれ、これから会う約束をしていた。今日は俺だけじゃなく、もう1人居る。俺が座っている席の横には剛毅も座っていて社長の到着を待っていた。
「なんで俺らが呼び出されたか、賢人は知っとるか?」
「いや、何も聞いてないかな」
俺たち2人は新しい事務所の中にある会議室で、じっと待機していた。何やら発表があると聞かされていたけれど、その発表が何なのか何も聞いていなかった。ただ、三喜田社長が来るのを待っている。どんな用事なのだろうか、待っている間に剛輝と話し合ってみるが予想は付かなかった。
前もって詳細について聞いておけばよかったと、今更になって後悔をする。だけどまぁ、今はいくら考えたって三喜田社長に話を聞いてみないと分からないから、仕方ないか。ということで社長が来るのを2人で、今か今かと待ち構えていた。
会議室の扉が開いて、三喜田社長が部屋の中に入ってきた。いつもの定番なラフな格好だった。
「いやいや。遅くなった、すまんな」
「大丈夫ですよ」
「遅いっすよ、社長」
謝りながら部屋の中に入ってきて、どうやら急いで来てくれたみたいだった額から少し汗をかいていた。気さくな調子で言う剛輝。そんな彼に笑顔を向けた。
「実は君たちに紹介したい子を連れてきたんだ」
「俺たちに?」
「紹介したい子?」
三喜田社長の後ろにはもう一人、誰かの影が見えた。社長の後ろに付いて会議室へ一緒に入ってきた人物を見て俺は驚いた。その人物とは、先日あった事件で顔見知りになったばかりの人だったから。
「えっ!? 君は……」
「お久しぶりです赤井さん。青地さんは初めまして、
彼は、俺達の目の前に立つと頭を深々と下げて挨拶をするのだった。
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