第40話 意外な結末


 息が上がって体力の限界を向かえたのだろうか、イケメン不良は振り上げていた拳を下ろして止まった。


「ハァハァ、テメェが悪いんだぜ。……フゥ、テメェが素直に顔面を殴られてたなら許してやったのに!」


 そんな気は全く無いだろうに、呆れるような言葉を放ちながらポケットから鉄の棒を取り出した。新道は片手にソレを持って、ブンと腕を降る。すると鉄の棒から刃が飛び出してきた。見たところ、あれはバタフライナイフと言う凶器のようだった。


「死ねよぉ」


 まさか、殺意まで抱かれているとは。しかも顔面に目掛けてナイフの刃を一直線に振ってきている。武器まで持ち出されたのなら、戦いだろう。手加減は無くなった。


 振るわれたバタフライナイフに恐怖して引くのではなく、逆に接近する。


 顔面に迫ってくる刃を避けて、振り下ろされたバタフライナイフは下に。まさか、接近するとは予想していなかったのか驚いたような顔、丸見えになっているイケメン不良の顎の先端を拳で殴る。再び予想していなかったのか、俺からの反撃にアッサリと失神して地面の上に倒れた新道。


「おっと、危ない」


 そのまま崩れると、コンクリートの地面に倒れ込みそうだったので直前で彼の襟を掴んで引っ張り、倒れて頭を強打しないようにする。殺そうと殺意を向けてきた相手だったとしても、流石に殺し返すのは良くないから。


「ふっ!」


 バキッと金属が砕ける音が廃工場内に響き渡る。意識を失い、彼の手から離れ地面の上に落ちてしまったバタフライナイフを俺は、靴で踏み抜いて刃を砕いておいた。とりあえず、これで危険は1つ無くなった。


「う、あ、ぅぉ……」


 ちょっと、やり過ぎたかも知れない。苦しそうに呻き声を上げているが、彼の顎に上手く入りすぎて、ダメージが多いようだった。


「癒しの風よ」

「うっ……」


 掴んでいた襟を離して、地面の上に寝転ばせながら念の為に死なないようにと回復魔法を掛けておく。そして、俺は立ち上がりチンピラ達の方へと向いて言った。


「これで、人質は返してくれるかな?」

「あ、ああ……、いいぜ。コイツは返すよ」


 チンピラ達は、思ったよりもあっさりと人質を返してくれた。新道との戦い最中に乱入してこないで、1対1で最後まで本当に決着をつけさせてくれた。もしかしたら乱入する暇もなく終わってしまった、という可能性もあるけれど……。


「もともと俺達は、新道くんに人質を攫ってくるように言われたのと、アンタをこの場所に連れてくるよう言われていただけだから」

「なるほどね」


 相手の事情を聞きながら、人質にされていた舞黒くんに近寄っていく。


「大丈夫かい?」

「ありがとうございます」


 少しだけ顔色を悪くしていたけれども、無事に人質とされていた舞黒くんを無事に助ける事が出来た。


「立てるか?」

「なんとか」


 まだ周囲を警戒し続けながら、舞黒くんを立ち上がらせて廃工場から早く移動をする。その前に、人質なんて取った奴らに釘をさしておかないと。


「今回は見逃してやるが、今度同じように堀出学園の生徒に手を出したりするような事があれば、ただでは済まさない」

「「「……っ!?」」」


 静かに言葉を口にする。勇者の頃によく使っていたような、あの威圧感も意識して出しながら分からせると彼らは震え上がり口を閉じていた。


 本当なら一人ひとりちゃんと分からせて、二度と手出しできないようにしたほうが良いと思うけれど、一刻も早く今は舞黒くんを助け出して、こんな場所からは離れて安心させてあげないと。


 廃工場から、何事もなく無事に出て来られた。チンピラが後ろからついてくる気配も無い。


「舞黒くん、だよね」

「はい、そうです」


 廃工場から少し離れて、学生寮へと向かう道中。少しだけ心が落ち着いてきたのだろうか、表情が明るくなってきた。そんな彼を安心させる為、積極的に話しかける。曖昧な記憶だったが、彼の名前は正しく覚えていたようだ。俺が名前を呼んでみると、そうだと頷いて答えてくれた。


 身長は、俺よりも少し小さいくらいで165センチだろうか。中学1年生にしてはなかなか背が高いと思う。それに顔には、秀才そうな見た目をしている黒フレームのメガネを掛けている。そのメガネも特に傷が入ったり、フレームが壊れているというような様子は無かったので安心する。チンピラ共に拉致られた時に壊された、なんて事が無くてよかった。


 芸能人を目指すような人達が目指すタラントコースに通う俺に比べて、新入生代表に選ばれるぐらい頭の良いらしい彼は、特待生が試験を受けて入学するようなコースだったはず。2人が入学したコースは違うので、今まで顔を合わせる機会が無かったのかな。


 友人関係でも、知り合いでもない。俺との共通点といえば、堀出学園の生徒という事だけの彼を巻き込んでしまって、本当に申し訳なく思う。


「俺は赤井賢人。それで、身体に怪我とかはしてない?」

「大丈夫のようです」


 あっさりとした舞黒くんの態度に拍子抜けしてしまう。先程まで、不良たちに拉致られて廃工場で囲まれて人質だと言われていた。なのに今は、なんにも感じていないような他人事という風な無関心の表情を浮かべて、舞黒くんは俺の横に並んで歩いていた。


 顔や服装を見たところ特に汚れていないし、大きな怪我もしていないようで、安心していたが念のために本人にも尋ねてみれば、大丈夫という一言の返事で安心する。


「ごめんなさい、俺のせいで巻き込まれたみたいなんだ。どう、お詫びしていいか」

「いえ、僕は問題ないです」


 彼の性格なのだろうか、表情は無表情の一種類で変わらない。先ほど、驚いたような顔を見せてくれたのに、今は無の表情を浮かべていた。話し方もマイペースな感じで、か細い声で問題ないと答えてくれた。

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