第38話 思わぬ再会
チンピラ共に従って、何処かに連れて行かれる事を選んだ俺。どうらや、向こうには同じ学園に通っている生徒が人質にされているようだったから。
「おい、ちょっと待てや。俺も一緒に行くぞ」
「待って二人とも、危ないから先に誰か助けを呼びに行こう」
剛輝が同行を申し出てきた。そして、拓海は危険だと言って人質を助けに行くより先に助けを呼びに行ったほうが良いと判断していた。拓海の表情は臆病風に吹かれている、という感じではなく冷静に考えた結果の作戦を提案してくれていた。けれども俺は、二人の提案を拒否する。
「いや、剛輝と拓海の二人は先に学園へ戻って助けを呼んできてくれ」
普通なら不良なんかの言う事は聞かずについて行ったりせずに、拓海の提案の通り一旦引いてから対策を講じるのが正しいんだろうなとは思う。けれども。
「人質の安否が心配だ。だから俺は、彼らと一緒に行くよ」
「……俺がついていったら、足手まといになるんか?」
「正直に言うと、そうだよ。俺が1人で行くほうが安全に人質を助けられると思う。それに奴らは俺だけを指名してきた。向こうの目的は俺だけみたいだ。だから後は、任せてくれ」
「……」
戦乱の世から転生したという、他にはないだろう事情により普通の人に比べてみても色々と荒事を経験してきているから慣れている。だから大丈夫だろうと判断した。不良やチンピラ程度ならば、なんとでもなる。一緒に助けに行ってくれると申し出てくれたのは有り難いけれど、今回はむしろ1人の方が対処しやすくなるから二人には学生寮に戻って助けを呼ぶという役目をお願いする。
黙ったままジッと俺の表情を見つめてくる剛輝の視線に、まっすぐと見つめ返す。何も問題はない、という気持ちを込めて。
「……わかった、俺ら二人は先に学生寮に戻る。それから急いで助けを呼びに行ってくるわ」
「任せた、剛輝」
剛輝はなにか言いたそうだったけれど、結局は何も言わず俺の言う通りに従ってくれるようだった。高すぎる正義感を見せたりして、無理やりついてくると言われずに済んでよかった。
「心配だけど、大丈夫なんだよね?」
「うん。問題ない」
「なるべく早く、助けを呼びに行くから。無理はしないでね」
拓海も心配してくれているが、問題はないと答えると信頼してくれているのか後を任せてもらうことになった。
「おい、赤井の仲間が逃げたぞ!」
「追うな、お前ら! 放っておけ」
走って逃げ去る剛輝と拓海の後を、急いで追いかけようとするチンピラ共を大声で呼び止めたリーダー格の男。
「でもっ」
「俺らの目的はコイツだけだ。赤井だけ連れていけば、ボスには怒られない」
(ボス?)
やはり、ターゲットは俺だけのようだ。二人が先に逃げ出し、学生寮へと戻るのを見送りながら、俺だけチンピラ共と一緒に目的地も分からないまま、どこかへ連れて行かれた。
***
車に乗せられて10分ほど走って連れて行かれた先は、廃工場だった。長年ずっと放置されていた結果なのだろう、ひび割れがあちこちに広がっているコンクリートの地面。土がところどころ剥き出しになっていてい、ヒビの間から草が生えて高く茂っていた。
廃工場の中に入っていくと薄暗い空間の中、錆びついてボロボロになっている機械がいくつか置かれていて、放置された後には沢山の落書きがされていた。くたびれたその姿からは何の作業をする物だったのか伺い知る事は出来ない。
学園の近くにまだこんな場所があったとは、と思い驚きながら周りを観察していると建物の奥に不良やチンピラ達が沢山集まっていた。合計すると何十人ぐらい居るのだろうか、タバコを吸ったり漫画を読んだり何か飲み食いしながら駄弁っていたり、それぞれが自由に過ごしている。
「赤井を連れてきました」
突然俺に声を掛けてきて、この場所に連れてきた老け顔のチンピラ男が、廃工場の中で待ち受けていたホスト風のスーツ姿をしたイケメン男に報告していた。
どうやら、アイツが今回の首謀者なのだろう。俺をターゲットにしてきた理由も聞けるだろう。だが、まずは。
「人質は何処だ?」
「……オイ」
俺が問いかけると、ホスト風の男がチンピラ共に呼びかけると廃工場の奥から誰かを連れ出してきた。出てきたのは、人質らしいワイシャツ姿の若い男の子が見えた。
確か彼は……、その顔には見覚えが有った。
堀出学園の一年生で、一番に優秀な
シャツやズボンが土で少し汚れているが、顔や身体に大きな怪我を負っているような様子は見えない。表情にも恐怖を感じている様子は見えなかったから、ひとまずは安心した。けれども、関係ない彼を巻き込んでしまった事を申し訳なく思った。
人質になっている彼と面識なんて無かったし、仲が良いというわけでもなかった。今回は運悪く偶然、標的にされ拉致られて巻き込まれたという事なのだろうと思う。
「それで、俺に一体何の用なんだ?」
「忘れた、とは言わせねぇぞ」
人質の安全は確認できたが、周りは敵だらけ。警戒しつつタイミングを計りながら俺は問いかけた。すると、ホスト風の男が俺に睨むような視線を向けながら答える。初対面だと思っていたけれど、向こうは俺のことを知っているようだった。
そう言われて男の顔をよく確認してみるのだが、やはり見覚えは無い。こんな事をして得をするのは、と考えてみて思い当たったのは金盛という人物ぐらい。
新アイドルグループ結成の契約を断ったことによって、事務所を退所させられる程の恨みを買っていた。まさかその時の恨みにで、こんな手の込んだ事までするのかと考えてみたが、どうも腑に落ちない。
そんな事を考えていると、ホスト風の男が口を開いて答えを教えてくれた。俺と彼との関係は、全く別の出来事によるものだった。
「3年前の、あのライブの日。お前のせいで俺の人生は滅茶苦茶になった!」
激昂するホスト風の男、彼の言葉を聞いて思い出した。俺が初めてバックダンサーとしてライブに出演した時の、あの日の事を。
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