グループ結成編
第34話 収束
芸能生活に関しては契約破棄を強制されて、今までお世話になってきた事務所を辞めることになったり、別の事務所に移ることになったりと色々なトラブルが巻き起こっていた。それに比べると、中学生活は平穏無事に過ごせていると言えた。まぁ俺の目の前に居る、彼は違っているようだったが。
「あーうー、もう勉強メンドイわぁぁぁッ」
テーブルの上から教科書とノートを放り投げて、暴れながら嫌だと大声を出す青地剛輝。
「テストの結果が悪かったんだから仕方ないだろう。しっかり、勉強する習慣をつけておかないと高校に上がったらもっと大変になるから。今のうちに頑張っておけ」
「うううううっ」
中学の授業が終わった放課後。剛輝と俺たち二人は、学生寮の部屋で一緒に勉強をしていた。
中学に上がって初めて受けたテストの結果、俺は特に問題は無かったけれど剛輝は国語、数学、理科、社会と4教科の全てで赤点ギリギリの危ない点数を取っていた。なので、次の期末テストではそんな事のないように彼と一緒に勉強をしている。
剛輝は理解力が足りないとか馬鹿というわけじゃ無いけれど、普段からあまり勉強していないからテストで良い点を取れなかっただけだ。いくら堀出学園が中高一貫校であり、進学するのに高校入試を受ける必要が無いとは言え勉強ができないのは問題だろう。
だから今のうちに勉強する習慣を身に付けてもらって、剛輝には問題のない程度に学力を上げてもらおう、としている途中だった。
「疲れた休憩! ちょっと休憩しようや」
「うーん、まあ仕方ないか。集中力が切れたのなら、ちょっとだけ休憩ね」
必死に休みたいとお願いしてくる剛輝に折れて一時休憩することに。あまり強制し過ぎると勉強嫌いになって逆効果になるかもしれないから、徐々に勉強に慣れさせていこうという考えだった。
剛輝はベッドの上に乗って身体を横にする。リラックスした状態となり部屋の隅に置いてあるテレビの電源をつけた。
テレビに流れている芸能ニュースを、二人でボーッと眺める。ニュースの中で話題になっているのが、ちょうど俺たちにも関係しているアビリティズ事務所の社長交代についてだった。
芸能界に大きな影響力が有ったアビリティズ事務所の社長である三喜田社長が退陣して、代わりに副社長だった金盛が新社長を務めることになった、という内容。
「このたび、取締役会の総意を得て社長の大役をおおせつかることになりました金盛大輔です」
社長就任の記者会見を開く様子がテレビで流れていて、新しくアビリティズ事務所の社長となる金盛新社長がスーツ姿で就任の挨拶をしているのが映っていた。
「少し長くなりますが、ご静聴お願いします。私自身は三喜田元社長と事務所を一緒に立ち上げまして」
就任スピーチで金盛新社長が長々と自身の経歴についてを語っている。三喜田さんの社長退陣が発表されてから、こうして様々なメディアに何度も金盛新社長がテレビに映って記者会見をする様子が放映されていた。金盛新社長はインタビューも何度か受けていて、その模様もオンエアされているのを飽きるぐらい目にしていた。
一方で退陣する三喜田さんはメディア露出をあまりしていない。その事が関係しているのか、それとも金盛新社長が裏工作をしていたりするのかは分からないけれど、メディアのスタンスは金盛新社長に好意的であり、今年一番の芸能ニュースであると何度も取り上げている。結論として今後のアビリティズ事務所新社長の手腕に期待、という感じで毎回締めくくっている。
しつこいくらいに行われている金盛新社長のPR活動は、前社長である三喜田さんのイメージを取り払うためだろうか。
「ところで、良かったの?」
「ん? あぁ、移籍の問題か? そりゃ、お前が別の事務所に行くってんなら当然やろ。お前には負けてられへんからな」
実は青地剛輝もアビリティズ事務所を移籍することを決めて三喜田さんの下に来ることになったらしい。俺と同じ様に、アビリティズ事務所を辞めて移籍するそうだ。
剛輝の他にも何人かのアイドル訓練生を引き取ろうと、三喜田さんが交渉して取引を纏めたらしい。
金盛新社長の方針で現在、力のあるアイドルグループだけが自分の事務所に残れば良いという考えで、将来性が未知のアイドル訓練生については放出を拒まなかった、と三喜田さんは取引について語っていた。
それでもアイドル訓練生達を引き取るための交渉で、役員報酬と退職慰労金を大幅に下げて、更には身銭まで切って交渉を纏めたという。
将来性の不確かな人材から容赦なく切り捨てていく、という金盛新社長の経営手法というのは大丈夫なのだろうか。ビジネスを知らない素人の俺でも、それはヤバいんじゃないかと思うけれど、逆に素人だから分からない何かがあるのか。事務所と関係は無くなったけれど、動向はすごく気になっていた。
『芸能界は実態のあやふやな世界だから、稼げる時に稼いでおいて余計なリスクを背負い込まないで切り捨てるという考えも確かに理解できる。それで何処まで続けられるかは分からないけれど』
と言っていた、三喜田さん。そんな三喜田さんは新しい事務所の立ち上げを着々と進めている。もう既に、事務所についてくれるスポンサーも見つけているらしくて、経営も安泰だと説明された。
アビリティズ事務所に所属していた頃に貰っていた給料から少し減額した程度で、新しい事務所に移籍になっても金銭的にはそんなに変化は無かった。だから、剛輝も家族のために給料が変わらないから事務所を移っても問題はないと言っていた。
まぁ、今までのように大手であるアビリティズ事務所が管理をして利用出来ていた施設やレッスンを簡単には受けられなくなるかもしれないが大手で無くなった分、色々と自分たちで自由にできると考えれば楽しそうでもあった。
「負けられないか。それじゃあテストの点数でも負けないよう勉強を再開しようか」
「うへぇ、分かったよ。頑張って、次のテストはお前の点数を超えてやるわ」
事務所でのいざこざは有りつつも、騒ぎは徐々に収束していっている。とりあえず今は、直近の解決するべき問題である剛輝の学力について対処しようと俺たちは勉強を再開した。
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