閑話14 新社長金森インタビュー

「本日はアビリティズ事務所に新しい社長として就任する金森大輔さんに、お忙しい中お越しいただきました!」

「よろしくおねがいします」


 男性キャスターに紹介された金森は、テレビ映りを強く意識しながらの笑みを浮かべて頭を下げる。そして、カメラに向かって丁寧な挨拶をした。視聴者の印象を良くするための振る舞いだった。


 金森が出演しているニュース番組。その時間は、普段なら経済評論家などの識者を呼んで社会問題などを議論するコーナーなのだけれど今日は内容を変更して特別に、アビリティズ事務所の社長に新たに就任する金森社長のインタビューが行われる事になっていた。




 新しくなるアビリティズ事務所のイメージ戦略として金盛は、各メディアに出演料を支払って、つまり番組への出番を買って出演をしていた。


 自社のアイドル達を差し置いて、社長自らが多数メディアに出演を果たし、大企業であるアビリティズ事務所が変化するという事を大々的に視聴者に向けて伝えようと行動していた。


 アビリティズ事務所というアイドル事務所の新しい社長はこの私、金森なんだぞ!という強い自己顕示欲の現れであった。しかし、そんな内心を隠して番組に出演し続けている金森。


 早速キャスターが番組を進行させようと、金盛に質問を始める。


「今回の社長交代という人事についてお聞きしたいのですが、前任の三喜田氏はまだ55歳とお若い。にもかかわらず、なぜ今の時期に金森社長へのバトンタッチをすることになったのでしょうか?」


「そうですね、実は以前からアビリティズ事務所内では二つの主張がありました」

「ほう。その二つとは?」


「一つは前社長の三喜田氏が支持をしていた、人材をじっくりと育てる長期論です。そしてもう一つが、私達が掲げる即戦力論です。その名の通りアイドル訓練生の扱いをどうするべきか。長期的に見るべきか、それともすぐさまファンの皆様の目に触れるようにデビューさせるべきなのか、についてです。この二つの主張が対立しあい、事務所内でも大きな問題になっておりました」

「なるほど。完璧に仕上がるまで表に出さないようにしていた三喜田氏と、未完成であってもファンの為に訓練生も表に出そうという金盛氏との対立、という訳ですね」


 じっくりと話す金森の話を、事前の打ち合わせ通りにしっかりと聞き入っているという姿勢を見せるキャスター。


「対立を解消しようと議論をした結果、私の唱える即戦力論を支持してくれる役員や社員達が過半数となりました。その結果を三喜田氏に訴えたところ、彼は一向に改善をする様子を見せず、事務所内での対立が激化してしまいました。そこで役員一同で協力しあい、改善を見込めない独断専行を良しとしていた前社長の三喜田を解任するという事になりました」


 一部事実に反する事も語っていく金森社長だったが、あまりにも堂々と話す姿と誰も否定する意見を言わない状況を見た番組視聴者は事実なのだろうと信じて、三喜田に対する印象を悪くさせていく。金盛の思惑通り。


 金森の話を途中で遮らないようタイミングを見計らいながら、予定されていた通りキャスターが次の話題へとつなげる質問をする。


「なるほど、つまりその二つの主張を議論した結果により三喜田氏の退陣が決まったというわけですか。ところで今後のアビリティズ事務所は、どのような方針で経営をしていこうとお考えでしょうか?」


「私が先程述べました、即戦力論。我がアビリティズ事務所には、数多くのアイドル訓練生が所属しています。しかし、その多くがまだテレビ出演を果たしていないし、ライブ出演すら果たしていない、という者たちが多いのです。けれど、そんな彼らも現在活躍しているアイドルに遜色のないほどに、誇れる能力や特技を身に着けている者が多くいるのも事実です」


 金森は実働できていない、レッスンだけ受けているようなアイドル訓練生については、もっとテレビ出演やライブへの出演を果たして、すぐに実践を経験するべきだと強く主張していた。


「ファンの多種多様なニーズに応えるべく、多くのアイドルを次々にデビューさせる事が今の時勢に大事だと、私は確信しているのです」

「なるほど、今までに日の目を見ることがなかった隠れていたアイドルを次々に発掘していく、というのが大事だと金森氏はおっしゃるのですね」


 金森の語った言葉を簡潔に、視聴者にも分かりやすく、そして良いように聞こえる風に変えてまとめるキャスター。そして番組の出演時間の終わりをもうすぐ迎えそうになっていたので、キャスターは番組のまとめに入った。


「では最後に視聴者への一言、よろしくおねがいします」

「えー、そうですね。アビリティズ事務所は社長交代という大きな変化を迎えましたが、基本的な方針としてアイドルをいかにして大事にするのか、どうやって輝かせるのかを常に考えています。ソレはファンの皆様の応援があってこそ成り立つ世界なので、今後ともぜひ応援したいと思えるアイドルを見つけてもらい、続けて応援していただけると幸いです。ありがとうこさいました」


 こうしてアビリティズ事務所の新社長となる金森大輔のインタビューは終わった。番組を視聴していたおおよその人たちは、アビリティズ事務所というアイドル事務所が変わったことを理解して、新しい社長となる金森という人はいい人そうだと、事実を知らない視聴者の多くは彼に対して好印象を抱く結果となった。

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