事務所騒動編
第27話 仕事と後輩
中学校に進学すると周りの環境が色々と変わっていた。一番大きな変化といえば、仕事に関する制限が小学生の時に比べると緩くなった事だろうか。
小学生の時は労働基準法によって子供である俺は、夜遅くまでは働いたらいけないらしくて仕事に関しての外泊も禁止されているから1日以上掛かる地方へ移動をするような仕事が出来なかった。
仕事の要望があったとしても、法律という制限によって断らざるを得ない状況が多々あった。
それが中学生に進学してみれば制限がちょっと緩くなって、もう少し夜遅くまでは働いても良いようになって、外泊も正当な理由と責任者が居れば許可が出たそうだ。堀出学園のサポートもあって、一気に仕事の幅が広がりそうだった。
「いやー、賢人くんもようやく中学生か。これからドンドン活躍してもらえるね!」
「えっと……、お手柔らかに頼みます」
嬉しそうな笑顔の表情を浮かべて、そんな言葉を口にするのは演出家の寺嶋さん。初めて出演したアイドルライブ以来、知り合いとなって色々な場面で呼んでもらってお世話になっている人だった。
しかし、”ドンドン”という言葉に不穏さを感じる。活躍というのはつまり、仕事を任されるということだから、今でさえ色々な場面で呼ばれて使われる機会が多かったけれど、更に増えるとなるとちょっと面倒かもしれないと感じる。
まぁ技術面で信頼されているというのなら悪い気もしないけれど、このまま行けばアイドルデビューはドンドン遠のいていき、最終的には専属のバックダンサーとしての道を進んでいきそうな気配があった。
いやしかし、今の状態でも給料は多すぎるぐらいと感じる程度にいただけている。月収の固定給はサラリーマンの新入社員の初任給より少し多いぐらい。ライブを一回ごとに報奨金がバックダンサーの仕事をすれば貰える。合わせれば三桁万円に達するぐらいの月収を貰えているから生きていくには十分だろう。
小学校の時から貰っている給料も自然と溜まってきていて、使い道に困っていた。両親に全てを任せる気持ちで給料の管理をお願いしようとしたら、こう返ってきた。
「それは賢人が自分で稼いだお金だから、しっかりと自分で管理しなさい」
「まぁ一回ぐらい失敗しても若いし大丈夫だから、好きなように使ってみろ」
という訳で、今も自分で自分のお金を管理をしている。ただ使い道が本当に無くてちょこっと使った程度で毎月どんどんとお金が増えていく。学費を自分で支払おうと両親に話してみたけれど、中学生までは義務教育だからと学費と生活費については、両親が支払ってくれることになってしまったから更に使い道に困ってしまった。
どう使おうか考えてみたけれど、良い使い道は思いつかず最近は給料の中から募金するぐらいだった。前世でも、孤児院や騎士学校などに寄付をしていた事を思い出しながら。
とにかく、そんな風に仕事の環境が少しずつだが大きく変わってきていた。今後も更に忙しくなりそうでもあった。
もう一つ変化したというのは、後輩がかなり増えてきた事。今までアイドル訓練生としての後輩は居たけれど、年齢は俺のほうが若かったからなのか先輩としての扱いはされてこなかった。それが中学に進学してみると、ちょっとずつ周りからの扱いが変わっていった。
「おはようございます、赤井くん」
「あぁ。うん、おはよう」
こんな風に、年下で小学生のアイドル訓練生の子から礼儀正しく頭を下げて敬語で挨拶されるようになった。
その他にも高校生で年上なんだけれど、事務所に所属することになったのが俺より後だったから、後輩という立場のアイドル訓練生にも敬語でしっかりと挨拶されるように変わっていった。今までは子供扱いで、頭を撫でられていたりしていたのだが。
周りから尊敬されるようになった、ということだろうか。
後輩ができると、当然のように俺よりも先にアイドルデビューを果たしていく子も出て来きた。先にデビューしていく後輩に対して悔しいという感情は少しはあったけれど事務所の方針も強いだろうし、頑張ってという気持ちの方が強かった。
そんな風に早めにアイドルとしてデビューして出ていく子が、あまりパッとしない結果しか残せていない、という状況を何度か目の当たりにしていた。いわゆる事務所のゴリ押しという感じで。実力を身に着けないままデビューしてしまい、悲惨な結果が待っていたという訳だ。それが最近は特に多いように感じる。
だからこそ俺は、着実に実力をつけて可能となればデビューできればいいかな、という余裕を持った気持ちで、どっしり構えていられるから気が楽だなと思っていた。
でも内心では、そろそろデビューしても良いんじゃないかなぁ、なんて事も思っていたり。このままの状況が長引くのであれば、アイドルを目指すモチベーションも段々と低くなっていっていくだろうし、バックダンサーで成功を目指してレッスンを受ける日々に切り替えるのもアリかもしれない。
このままで良いのか、それとも何か行動を起こすべきか。と考えてみるけれども、デビューするかどうかは最終的に事務所の判断なので、とりあえず今できる事を着実にこなしていくだけだと思い直す。
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