閑話12 非公式ファンクラブの集い

 これはまだ、赤井賢人が小学生の頃の話である。


 クラスメートや後輩の女子達には、赤井賢人の芸能活動について周知の事実として知られていた。


 それは赤井賢人がテレビに出演したちょっとしたシーンでの活躍だったり、雑誌に名前が載っていた記事であったり、ライブにバックダンサーとして出演している時の活躍だったりと、色々な場面で赤井賢人の活動情報については方々に出回っていた。


 だがしかし、赤井賢人の芸能活動について知った彼女たちは熱狂的なファンのように愛着を示すのではなく、静かにひっそりと迷惑をかけないように見守るという形で応援する、という事で誓いを立てて皆で守っていた。


 それは、赤井賢人に学生生活を存分に楽しんでもらいたいという気持ちがあって、騒ぎ立てないことで本人には悟られずに普通の日常を過ごしてもらいたいという思いからだった。そして、その行動は実を結んで赤井賢人本人には悟られずに彼女たちは影から見守ることが出来ていた。


 時たま集まって赤井賢人に関する情報を交換する”隠されたミーティング”と名付けた集まりを、夕方になってから学校の教室で集まって定期的に開催していた。


 そのミーティングの内容と言うのが、赤井賢人が出演していたテレビ番組の話や、雑誌に掲載されていた記事の情報、今度のライブ出演予定など、赤井賢人に関係する芸能活動についてを知らせる。一つの活動も見逃さないように。


 その他にも、小学校での生活の様子、勉強の出来や運動能力の高さなど。その他諸々の賢人に関するパーソナルデータを集めてきて、女子生徒たちは情報を交換していた。


 まぁ、隠されたミーティングという名前だが実際はクラスメートや後輩等の女子が集まってお喋りする場所、というニュアンス程度のモノであったが。


 赤井賢人ファンの集いというような感じではあったが、それでも彼女たちは誓いを固く守っていて彼女たちの集まりは賢人本人にバレていない。なので、この集まりも迷惑をかけていない。


 今日のミューティングは、赤井賢人と直接交流したことを自慢し合うという内容の話し合いが行われていた。




 赤井賢人と会話した内容についてや、困っていた時に赤井賢人から助けてもらった出来事について、女子たちは盛り上がりながら話し合っている。




「私は体育の時間に転んで膝を怪我した時に助けてもらったよ。しかも、保健室まで両手に抱えて行ってもらったんだから」


 体育の先生が授業を中断できないので、他の生徒が保健室に怪我をした少女を連れて行く必要があった。そんな時に、ケガ人を運ぶと立候補したのが赤井賢人だった。


 小学生でも背がスラッと高くて力も十分にある赤井賢人が、ケガ人であった少女をお姫様抱っこして保健室まで運んでいったという出来事。


「おんぶじゃなくて、お姫様抱っこをしてもらったんだよね」


 背中におんぶすると、ケガしている箇所が体に当たって少女が痛がった。だから、前に抱えてケガに触れないように保健室まで運んで持った事を彼女は詳しく語る。


「しかも、保健室の先生が居なかったからケガの治療までしてもらったんだよ。すぐに痛くなくなったんだから!」


 実は、この時に赤井賢人は傷を消毒しながら簡単な回復魔法を使って彼女の足の傷を治療していたのだが、その事実を知る人間は賢人以外には誰も居なかった。


 赤井賢人の女性に対する優しさや、先生が居なくても治療をしてくれるという対応力の高さに女子の皆が感心する。




「私は迷子になっている時に助けてもらったんだよ。学校まで連れて戻ってくれて、その後は無事にお家に帰ることが出来たんだ」


 迷子になって不安な気持ちになっている時に現れた賢人について思い出しながら、嬉しそうな表情で当時のことを語る少女。


 最近まで、賢人という人物に警戒していた事もあったけれど、この出来事で一気に警戒心は解けて好意を抱くようになった彼女だった。


「私も困っている時に来てくれて、助けてもらったよ!」

「私も!」

「同じだ!」

「ピンチの時に助けに来てくれたよ!」


 この中に居る数多くの女子生徒も、賢人から助けてもらうという経験をしていた。というのも赤井賢人は意図せずに人が困っている場面に引き寄せられる、ということが多かったから。彼自身の運命力によって、厄介な場面に出くわす。


 そんな困っている人たちを放っておけない賢人は、困っている人を見かけたのなら可能な限り助けに入るような人物だった。老若男女問わず、そういう活動を沢山していたので、赤井賢人から助けてもらった経験を語る人物は多数いた。


 まるでアニメや漫画にあるような、どこからともなく現れてヒーローのように助けてくれる。赤井賢人は、クラスメートの女子たち等からそんなふうに認識されている男の子だった。




 赤井賢人が人助けという活動をしていた結果、学校のコミュニティ以外にも賢人に感謝したり応援したりしている集まりが幾つかあったりする。


 とにかく、そういう訳で赤井賢人の人気は何の企みもなく、芸能活動を行うずっと前から本人があずかり知らぬ所でぐんぐんと上がっていっていた。


 そして今日も、赤井賢人の活躍は小学校の女子生徒達の間で情報を共有されて学校にいる女子達の大部分が知ることになっていた。事実を知らないのは、赤井賢人本人だけだった。

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