第28話 トップアイドル
「今日のライブ、よろしくね」
「はい、宜しくおねがいします」
ライブのリハーサル最終確認が問題なく完了した直後。ステージ上には
S+mileは、二十年前にデビューをした今でも現役で活躍している伝説級の5人組男性アイドルグループである。ずっとアイドル界でトップに君臨しているアイドル達だった。
老若男女問わず、日本国民なら一度は必ず名前を聞いたことがある、というぐらいの知名度を誇っている。
そして今日は、全国ツアーファイナルのライブが行われる。会場となるのは、東京の野球場ドーム。5万5千人も収容するとんでもなくデカイ場所なのに、チケットは完売御礼の満員だった。
今までの実績を評価されて、俺はとうとうこんな場所まで駆り出されるようになっていた。光栄というか、さすがに自分じゃ力不足じゃないかと心配になってくる規模だった。
S+mileのリーダー正田くんは、バラエティ番組でよく司会をしていてイメージのある人だ。アイドル界随一のトーク力を持つ人だとも言われているから、各番組では引っ張りだこなので毎日のようにテレビに出演している姿を見る。テレビで見ない日が無いぐらいに。
テレビ番組の収録やライブで出会う時は、アビリティズ事務所の後輩である俺たちをよく気に掛けてくれるので、親しみやすさもあって事務所内でも人気が高い先輩だった。
そんな風に気さくな一面を見せる事の多い正田くんだったが、ライブでは驚異的なダンス能力を発揮する、ギャップのあるかっこよさを魅せる人でもあった。ダンスの技術は身体能力に自信のある俺でも、全ては再現はできないほどで彼を見て学ぶべき事は非常に多かった。俺はよく彼をライブ中に観察している。
そんな凄い人から肩タッチでお願いをされると、それだけで気持ちが奮い立った。親密に接してくれるけれど、ライブに対する熱い意気込みを内に秘めているのも感じるので、失敗できないとプレッシャーも掛かる。
全国ツアー最終日であっても絶対に手を抜こうとはしない、情熱を持ってライブに挑もうとしている正田くんの少しでもお手伝いになるように頑張ろうという気持ちが湧き上がってきていた。これが、トップアイドルの看板を背負っている人のカリスマなんだろうと思う。
ステージの上には、S+mileのメンバーである
物凄くストイックに黙々と大人のかっこよさ、男らしさを追求している人だった。普段から醸し出すオーラが半端じゃない、これぞ芸能人という印象。正田くんと反対に、そのオーラが後輩にとっては近寄りがたさを感じさせることもある。そんな彼に憧れてを持ち、彼と同じようなアイドル像を目指している後輩も事務所内に多いようだった。
リハーサルを終えたバックダンサーの俺たちは、控室に戻っていく。その途中でも声を掛けられた。
「あれ、リハーサルは終わったの?」
「はい。先程終わりました」
前から歩いてきた彼のは、S+mileのメンバーである
それなのに、他の人を差し置いて前へ出ていこうとする性格じゃないので、いつもメンバーのサポートに徹するから影が薄くなりがちな人でもある。
「あっちに美味しいケータリングがあったから、本番までゆっくり休むと良いよ」
「はい! ありがとうございます」
じゃあねー、と去っていく楜澤くんの後ろ姿を見送って廊下を進んでいく。ライブの本番が始まるまではしばらく時間があったから、さっそく教えてもらった美味しいケータリングというものを探しに行く。
「おつかれー」
「あっ、お疲れ様です」
ソファーの上でだるっと寝転んでいたのは
ただし彼は、やる気を出すまでスタートするのが遅くなりがちで苦手らしく練習も少なめで納得して切り上げてしまう。なので、いつもスタッフやマネージャーの人に真面目に努力するよう説教を受けたりしている場面を目にしていた。
でも、ライブ本番になればキッチリこなしてしまうので、本人はそのままで良いやと思っていそうだった。
「練習しなくて大丈夫ですか?」
「大丈夫、バッチリ、オールオッケー!」
本当に大丈夫かなぁ、と心配になる返事をする安宍くん。すると、視界の端にもう1人居ることに気づいた。
「中鹿くん、お疲れ様です」
「おつかれ」
S+mileの最後のメンバーである
他人に努力している姿を見られるのが嫌いだそうで、俺も練習している姿を一度も見た覚えがない。けれどライブでは完璧に仕上げてくる。安宍くんと一緒になって、大きなライブ前であってもリハーサルをあまり行わない二人だった。
各人が特徴的で癖のある、とても個性豊かなアイドル達だった。そして、日本一と言っても過言ではないアイドルである彼らを俺は尊敬して、参考にするべきアイドル像だと考えていた。
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