第21話 小学生時代の終わり
前後左右を女子に囲まれている状況、そして全員から黙ったままジッと見つめられている圧迫感に、思わず退いてしまいそうになる。だが背中には壁があるので、それ以上は退けない状態。
女子相手なら身長でも体力でも腕力でも勝っているから包囲から突破するのは簡単だけれど、そうすると怪我をする子が出るかもしれないから無理はできない。
とりあえず話し合いで解決しようと冷静に落ち着いて考える。それにはまず、彼女たちの目的が何なのかを知る必要があった。
「なに? どうしたの、皆?」
周りを囲んで俺を見てくる女生徒達に首を回して目線をあちこちに向け目を合わせながら、笑顔の表情を意識して浮かべて問いかける。本当に何事なのかと。
「あの」
「ん?」
クラスメートの女子、
「実はココに居る皆は、賢人くんがアイドルを目指して頑張ってる事知ってるんだ」
「あ、うん、そうなんだ。俺の事について知っていたんだね」
まかさ、知られているとは思わなかった。でも、そうか。アイドルとしてデビューしたわけじゃないから知る人は少ないだろうと思っていたけど、最近は色々と仕事を受けるようになったから活動を見られている可能性もあったのか。
学校に通っている間はクラスメートから芸能活動について聞かれることは無かったし誰も知っている素振りもなく口にしてこなかったので、俺のことは知られていないだろうと思っていた。けれど、それは違っていたようだ。
「うん! 賢人くんは、もうテレビに出たこともあるじゃない。テレビに出られるなんて有名人だよ」
「ライブにも出てるんでしょう?」
「私は、雑誌に名前が載っていたのを知っているよ!」
先程まで黙って周りを囲んでいた女子達が俺のアイドルに関する活動について何を見て聞いて読んで知ったのか、口々に答えていってくれる。
テレビには出演していたけれど、画面の端だったり暗がりで顔もよく見えなかったりピントが合ってなかったり、映像をよく目を凝らして見ないと出演しているなんて分からないと思うけれど。自分でも放送を確認してみた時には、全然写れてないなぁと思ったぐらいだし。
ライブにしても、メインはアイドル達でありパックダンサーをしている自分は注目されていなだろうと思っていた。
雑誌は、何だろう? これは身に覚えがないし、取材を受けたなんて仕事は記憶に無かったけれど。自分ですら把握していない活動まで知られているらしい。
とにかく、俺の活動については思っている以上に周りから認識されていたらしい。そう思うと今更になって非常に恥ずかしい。誰にも知られず芸能活動が出来ている、と思い込んでいた自分が……。
「知っているなら、知っているって言ってくれたらよかったのに」
そうすれば、俺が今感じている恥ずかしさを知らずに居られたかもしれないのに。いや、もしかしたら話題にされていたらされていたで、もっと恥ずかしいと思っていたかもしれないな。
「私達、賢人くんの迷惑にならないよう嫌われないようにって思って皆が知っていることを秘密にしてたの」
確かに友達が有名人になっていったら、どう接していいのか分からないかもしれないな。彼女たちと同じ様に、そのまま知らないふりして普通の友達として普通に接して日常を続けるのが一番かも。
俺にそうやってを配慮してくれて、小学校生活を楽しく過ごせるように気遣ってくれた彼女たちの行動はありがたいと感じる。
「でも、今日は卒業式で会えるのは最後になるかもしれないじゃない。賢人くんは、遠くの中学校に行くんでしょう?」
「あぁ、うん。それも知っているの?」
周りの彼女たちが頷き、知っていたと肯定を表す。どうやら女子達は皆で情報共有しているのか、俺が想像している以上に噂されていて、俺自身のことも色々と知られているのかもしれない。クラスメートという関係だから、そんなに嫌悪感はないが。
アイドル活動をしていく上では仕方のないことなのかな、これから先もっと有名になっていけば色々な噂をされるだろうし。受け入れるしかない。
「だから最後になるかもしれないから、私達は少しでも賢人くんとお話をしたいって思って我慢できなくなっちゃった。ごめんなさい」
「なるほど、そういう事か。全然いいよ気にしないで」
俺の言葉に周りを囲んでいた女子達が、安堵の表情を浮かべている。連れ出された理由が分かって俺も安堵していた。
それから皆で会話をした。というか俺が一方的な質問攻めにあっていた。それも、今更にながら好きな食べ物や嫌いな食べ物は何か、好きな色は、毎週見るTV番組や漫画等などを聞かれた。
そう言えば、今まで一緒に休み時間などに遊んだことは有っても、好き嫌いの話や個人的な事についてはあまり話したことがない事を思い出す。それも彼女たちの配慮なのかな。
そして、その時になっても芸能関係についての話題には触れず。あくまでも普通の友達としての話題しか話そうとしない彼女たちを好ましく思った。
けれど卒業式も終わった今、そんなに時間があるわけでもなく別れの時は近づいていた。もうそろそろ、皆戻らないといけないかと思っていると。
「あ、あの。これ……」
「あっ! 駄目だよ、真帆ちゃん」
俺に向けて何かを差し出す、真帆ちゃん。それを止めようとする友達。けれど必死な様子の真帆ちゃんに何だろうと手元を見てみれば、彼女は色紙を取り出していた。
「サイン、書いてもらえない、かな?」
「もちろん、おやすいご用だよ。皆も折角の機会だから遠慮せずに」
最後まで色々と俺に対しての配慮をしてくれたようだったから、サインぐらいならいくらでも書こうと了承する。俺がみんなに対して必要かどうか聞いてみると、遠慮がちに色紙を取り出して列を作り始めた。というか、やっぱり用意をしていたのね。
それにしてもサインを事前に考えておいて練習していてよかった。母さんや事務所の人からサインは必要になるから早めに考えていたほうが良いとアドバイスされて、作っておいたのが功を奏した。初めてとなるファンへのサインは、真帆ちゃんが最初ということになるのかな。
こうして俺の小学校卒業式は、初のサイン会が開催されて終わった。
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