【未完】勇者の次はアイドルとなる人生

中学進学編

第18話 変わった生活、変わらぬ生活

　ライブ初出演を終えてから、俺は色々な方面から仕事の依頼が来るようになった。その仕事内容は、ライブでバックダンサーとして踊ったり、テレビ出演するアイドルのバックダンサーをしてみたり、ミュージックビデオを撮影する際のバックダンサーとして出演したり。とにかく、仕事ぶりが評価され能力を認められたことによって様々な場面で重宝されることになった。

　仕事の予定が無い日には、レッスンを受けてアイドルになる為のトレーニングする日々。主にダンスの訓練をして、時々ボイストレーニングを受けて歌の練習をしたりしている。

　アイドルとしてデビューするために、準備をしているところだった。デビューする予定は、まだ決まっていないけれど。

　アビリティズ事務所に所属するアイドル訓練生として仕事を受けて、レッスンする毎日を繰り返していたが、そうこうしているうちに夏休みもいつの間にか過ぎ去って小学校の二学期が始まっていた。

　ということで俺は平日の午前中、学校に通って普通に小学生としての生活を続けていた。

　俺が芸能プロダクションに所属しているという事は、クラスメートの誰にも伝えていないので、アイドルのライブに出演した後や、色々な仕事が増えてきてからも周囲の反応は特に変化が無かった。

　仕事ではメインじゃないし、気にしないと分からない程度の露出だから気付かれないのも当然だった。そして、わざわざコチラから伝えて万が一にも面倒事を起こす気もないので、この後も知らせるつもりはない。

　ただ活動を知られていないというのも寂しいものがある。俺は意外と自己顕示欲が強いんだということを自覚した。

　そして、それを抑える理性も強いと思う。しかし、気付かれないことに少しモヤッとした気持ちになったので、仕事をもっと頑張ろうとも思った。

　とにかく、学校の皆には知られていないということだ。普通に学校に通って授業を受けて、普通に昼休みには生徒皆で集まって時間いっぱいまで遊んで過ごし、授業が終われば速やかに学校から自宅へと帰る。学校からそのままレッスン場に向かう事もあったりする。

　青地剛輝とは、なんやかんやありつつもレッスンで競い合うライバルとして、普段は一緒に遊んだりする友達になっていた。

　剛輝と俺の２人は別の同期アイドル訓練生からは距離を置かれて、仲間外れに近いような状況に立たされていた。実力の差を見せつけてしまった俺は畏怖されるような存在で、普段の言葉遣いや表情が激しい剛輝は怖がられる存在として。

　ときどき彼らに話しかけたりしてコミュニケーションを撮ったりするけど、近づきがたい存在だと思われているのか、向こうから話しかけてくるような事はなかった。剛輝は初めから仲良くしようと努力することを放棄していたから、当然交流しようとしてくるアイドル訓練生の仲間は居なかった。

　恐れられ怖がられた俺と剛輝の２人は、仲間外れされて輪からはみ出すような存在になっていった。そして、はみ出した者同士で自然と一緒になることが多くなった俺と剛輝は友達になった、という経緯。

「昨日のライブの仕事はどうだった？」

「おう、問題なかったぜ」

　レッスンのスケジュールが重なったりする時、レッスンが始まる少し前の空き時間に外へ出て、俺達二人はキャッチボールをしながら会話して息抜きするのが、いつの間にか二人での習慣になっていた。

　ちなみに、今俺達がキャッチボールに使っているグローブと硬球は事務所から頂いた初任給で、自分で稼いだお金を使って初めて購入したものである。

　剛輝が趣味にしている野球をやるために、俺は半ば強引に購入を勧められて買い物した。

「そんなことより、早くアイドルデビューが決まらんかなぁ。そうすれば貰えるお金が増えるのに」

　慣れた手付きと結構な速球で投げ返してくる剛輝の球を受けながら、俺達は会話を続けていた。小学四年生の剛輝と同じく小学四年生の俺。小学生とは思えない事務所の給料について、非常にシビアな会話だ。

「今の金額だけだと苦しい？」

「苦しいわけじゃない。けど、俺はもっと金が欲しい」

　ポイッと俺の投げた球を受け取る剛輝の口からは、欲張った正直な気持ちが言葉に出る。と言っても、彼にはお金を欲しがるそれなりの理由があった。

　というのも、剛輝の家は母子家庭らしくて更には兄弟姉妹も多く生活するのにお金が必要だったから。彼がアイドルのオーディションを受けた理由というのが、１５歳以下の子供の頃からでもお金を稼ぐことが出来る職業だったからだ。そして今、彼は事務所から給料をもらって家庭の大黒柱として家族を守っているとのこと。

　こうして俺は今、剛輝の家庭事情を教えてもらえるほどの仲になっていた。

　彼から事情を話してもらった当初は、そんな信念を持って挑んでいるのかと、それとは反対に俺は流れに任せて今の状況にいる自分に罪悪感を覚えたが、あっけらかんとしている剛輝の様子に気にしすぎるのも良くないと考えて、普通の友人として振る舞うように心がけることにしていた。

　もしも剛輝に何かあって助けを求めてきたのなら、全力を尽くして助けることを心に誓いながら。

「あ、もうこんな時間だ。レッスン場に戻ろうか」

「おう、早く行こうぜ。今日こそ負けないぞ」

　レッスンが始まる時間になって、キャッチボールを終えた俺達。いつものように、ライバル心を燃やして対抗してくる剛輝をあしらいながらレッスン場へと向かう。

　仕事をこなしてレッスンを受けて、毎日を迎える。そうした日々が続いて、いつの間にか季節は巡り過ぎて小学５年生、６年生と進級していった俺は、いよいよ中学に進学する目前になっていた。