第17話 ライブの結果

 舞台袖からライブの終わりを見届ける。今はBeyond Boysがお客さんのアンコールに応えて追加演奏をしている最中であり、それもじきに終わろうとしていた。だが、終わりに近づいても会場は大盛り上がりだった。


 アンコールの曲も終わって、Beyond Boysのリーダーがお客さんに向けてライブを見に来てくれた感謝の気持ちとお別れの挨拶をする。会場中に割れんばかりの拍手がされて、Beyond Boysのメンバー達は舞台袖に戻ってきた。これで、今日のライブは無事終了となった。


「「「「「お疲れ様でしたー!」」」」」


 戻ってきたBeyond Boysのメンバーをスタッフが出迎えて、流れた汗を拭くためのタオルや渇いた喉を潤す飲み物を渡しながら労いの言葉を掛けていく。


 Beyond Boysのメンバーはスタッフから渡されたモノを慣れた手付きで受け取り、そのまま楽屋へと案内されて行くようだった。


 メインであるBeyond Boysのメンバーが舞台裏から見えなくなると、次にスタッフは俺たちバックダンサーの皆にもお疲れ様と労いの言葉を掛けてくれた。


「今日のライブは本当に良く出来たよ!」


 総合演出の寺嶋さんが、皆を前にして良かったと評価してくれた。


「直前にトラブルが有ったものの、それをものともせずに皆が最高のパフォーマンスを見せてくれてライブは成功した。みんな本当にありがとう。特に赤井は初出演なのにもかかわらず緊張も見せず、しかも追加で5曲も踊って問題がなかったのには驚いた」

「ありがとうございます」


 寺嶋さんから名指しで絶賛されてしまい、気持ちが高ぶる。本当に今日のライブを成し遂げることが出来たのだと痛感した。


「次も頼む」


 ウンと小さく頷きながら、そんな言葉を掛けてくれた寺嶋さん。ライブ前は、まだまだ若くて事務所に所属したばかりの新人だからと現場に出すのに不安視されていた俺だったが、今日のライブでは責任者である寺嶋さんから認めてもらうことが出来て、少しは周りの印象も良くなるだろうと思う。


 今後も仕事で使ってくれる機会が増えて、活躍できる場面を手にする可能性が高くなったと思う。それに寺嶋さんから直接、”次も頼む”という言葉も頂いた。これは、すぐに出番がありそうだと期待する。


「山北もよく頑張った。正直、助かったよ」

「ハイッ! ありがとうございます」


 寺嶋さんは俺だけでなく山北さんにも声を掛けていた。良かった、山北さんも目に止まって評価されているようだった。嬉しそうに返事をする山北さんの様子を見て、胸をなでおろす。期待通りに事が進んだ。


 こうしてライブ後には評価も頂けて、大成功と言える結果で初めてのライブ出演は終わった。



***



 その翌日から、早速ライブのバックダンサーとしての仕事が舞い込んでくるようになった。大半は寺嶋さんからの指名依頼だったが、中にはどこから俺のことを聞きつけたのか初対面の人からも出演をお願いされる事態となっていた。


 そのためレッスンを受ける時間を削って、ライブの手伝い出演で実戦に出ることが多くなった。お客さんの目の前でパフォーマンスをして見せるので、レッスンで身に付かないライブならではの経験が多く出来たので、アイドルとして大きく成長できていると思う。


 俺の成功事例によって、青地剛輝もバックダンサーの仕事を受けてデビューした。毎日俺といっしょにレッスンを受けて、負けないように競い合って鍛えていたおかげだろうか、彼の実力も飛び抜けて高くなっていた。その実力は既に同年代では比較にならない程で、数個上の先輩にも対抗できるぐらいになっていた。


 元から度胸もあって、今では実力も申し分ない。そんな剛輝だからこそ早速ライブに出ても、バックダンサーの仕事を問題なくこなしていたそうだ。一安心する。


 俺と剛輝はまだ幼いのに実力は十分。赤青コンビとまとめて言われるほど業界人の間で噂されるようになり、存在を知られるようになっていた。


 ちなみに俺に足を引っ掛けてリハーサル中に転ばそうとしていたあの青年は、舞台上で転けたあの時に足の骨にヒビが入るという大怪我をしていたそうだ。


 完治するまで、しばらくレッスンを受けないで休養に専念するように指示されて、バックダンサーの仕事も休業するよう事務所から言い渡されたらしい。

 

 一ヶ月という長い期間を彼は休んでいた。そして怪我が治って最初の、復帰の為に予定されていたレッスンに彼はやって来なかったそうだ。


 それから事務所の呼び出しに応じなくなって、このままではアビリティズ事務所は青年を契約解除という処置を取らないといけない所まで来ているという。


 ともかく、こうして俺は色々な出来事があった中で、初めてのライブ出演を無事に果たした。その結果、少しずつ周囲の反応も変化していき徐々に現場で活動するようになってからは更に俺の知名度も上がってきていた。

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