第5話 そして結果は
「皆さま、お疲れ様でした。以上でダンスの審査を終了いたします」
一時は中断していた審査も再開されて、その後またしばらく残っていた子供たちのダンス能力を審査されていたが、それもようやく終わってアナウンスが入った。結局俺も最後まで残されてしまったまま。
会場に残った子供の数は、俺を含めて12人。会場に元いた受験者の数からだいぶ減らされて、今朝と比べると今はスペースが空いてガランと広くなっている。それを見ていると、なんとなく寂しさを感じた。
「流れた汗は先程のロッカールームにシャワー室がありますので、そちらで洗い流してから着替えて下さい。着替え終わったら、すぐ後に面談を行いますので移動を開始して下さい」
手応えがあったのか無かったのかダンス経験の無い自分では評価のしようがない。よく分からないまま、ダンス審査を終えて残された人たちで面談に移っていった。
しかし、シャワー室まで完備しているとは。外観からは学校にある体育館のようだと思ったけれど、中は意外と施設が豊富でスポーツジムのようたった。
もしかしたら、普段は事務所に所属しているアイドルがレッスンする為の場所なのかもしれない。そうすると、ここはアビリティズ事務所が所有している建物、という可能性もあるな。有名なアイドル事務所みたいだし、だいぶ儲かっているんだろう。
およそ小学生が考えるような事ではないと思う下世話な話について頭で思い巡らしながら、シャワー室で汗を流してスッキリする。朝、来る時に着ていた服に着替えると、これから行われるという面談へ向かう。
面談は一人ずつ順番に行われるらしかった。名前を呼ばれてから、面談が行われているであろう個室に順番で案内されていく。ただ、面談の時間はそんなに掛からず、短いとすぐに出されて三分ぐらい、長くても十分は過ぎないぐらいで皆は次々に部屋から出されていくのを目撃した。
部屋の中で一体どんな質問をされているのだろうか。俺も三分くらいで終わるだろうか。もっと早く終わるかもしれないな。
順番が回ってきて、俺も案内されて部屋の中に入る。まず視界に飛び込んできた、ラフな格好が非常に気になるおじさん。彼が面接が行われる部屋の中で、待ち構えていた。
気になるおじさんは、どうやら結構なお偉いさんのようだ。オーディションの採用権限を持っているみたいで、面談中も率先して俺に数々の質問をしてくるのが、そのおじさんだった。
その他に四人の大人。おじさんを挟むように両側の席に座って観察してくる視線を受けながら、幾つか質問に答えていく。
名前、年齢、通っている小学校など履歴書に事前に書いて送ったことの確認をしているのだろうという在り来りな質問。多分母さんが書いて送ってある事だろうから、普通に答えていく。
それから、きのうは何食べた? とか普段どんな遊びをしているの? だかとか、好きな教科は? というように、あまりアイドルの審査には関係無さそうだなと思うような質問が繰り返し投げかけられた。
俺も結局、5分間ぐらいの質疑応答をして面談は終了した。部屋から出される。
「赤井様、お疲れ様でした。本日のオーディションはこれで終了となります。お母様が控室でお待ちになっていらっしゃいますので、ご案内します」
「あ、はい。お願いします」
これでアイドルのオーディションは全て終わったらしい。面談が行われていた部屋から出ると、スーツ姿の女性係員に声を掛けられて母親の元へと案内される。
「賢人、どうだった?」
女性スタッフに案内されて来た控室に入ると、帰って来るのを今か今かと待ち構えていたらしい母親が俺を見つけて、小走りで近寄ってくる。そして、興奮する感情を何とか抑えながら小声でそう尋ねてきた。
「どうだろう? 分かんない」
「んー、そうなの?」
ダンスの審査については他の人よりも少し注目を浴びることになって、剣舞を披露し拍手をもらった。
ただ、それがアイドルとしての評価に繋がったのかどうかは分からない。そもそも事前に課題で出された振り付けを覚えてきてなかった訳だし、どうだろう。さっきの面談についても、ただ会話をしていただけでアイドルとしての能力を観察されていたのかどうか分からない。
「オーディションの合否については、後日ご連絡いたします」
「そうなんですね。宜しくおねがいします」
残念ながら審査の合否については日を改めてということで、今日知ることは出来ないらしい。
こうして昨日の夜、突然告げられたアイドルのオーディションという思いがけないイベントは、何とか終了した。
「さてと。ちょっと遅くなっちゃったけれど、お昼ご飯にしましょうか。賢人はお腹空いてる?」
「うん、もうペコペコ」
その後、母親に連れられ向かった洋食屋で少し遅めの昼食でオムライスを食べた。それから、午後にはショッピングやら何やらでお店を見て回る。
「賢人はもしかしたら、アイドルになるのだからファッションには気を向けないと」
「それは気が早いよ、母さん。まだ合格したかどうか、分からないんだから」
楽しそうに俺の服選びをする母さんに付き合い、夕方を過ぎる頃まで十分に満喫。久しぶりに家族の時間を楽しみながら、母親の気晴らしになればと密かに張り切る。父さんも一緒に来ればよかったのにな。
ショッピングも終えて家に帰ってくると、父親は夕飯の準備をしていた。そして、出迎えられる。父親の方も休みを十分に満喫して、午後からは家の掃除や洗濯、家事などして過ごしていたらしい。意外と家事好きな父だった。
「結果は、どうだった?」
「バッチリよ」「どうだろう、分かんない」
質問の答え、俺と母親の意見が真反対だったので父親は笑っていた。
「ハハッ、合格か不合格かどっちか分からないか。まぁ、結果が出るまでは楽しみにして待とうか」
凛々しく笑う父さん。そして夕飯、父さんの作ってくれたというシーフードカレーを食べてみると、めちゃくちゃ美味しかった。
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