闘志
父さんは刑事だ。今は特殊3係って部署に配属している。業務上過失事件や医療事故などを捜査する。つい最近も天龍病院で起きた子宮がんの手術事故を解決した。
かつてはSITにいたこともある。籠城事件が起きたときは父さんが死ぬんじゃ?とドキドキした。
熊みたいな体格でひげもじゃな男が、7月31日の夜に尋ねてきた。
僕は部屋でニンテンドーDSで『逆転裁判』をやっていた。やっとのことでクリアした。『HERO』とかだと小さい事件でも動いているが、実際は政界汚職や大企業の法令違反でないと動かない。
喉が乾いて階段を降りて食堂の冷蔵庫を開けると、お父さんの笑い声がした。
「そっか?東山は興信所で働いているのか?」
「うん、滝は順調でいいな?」
「そうでもないよ」
東山さんはお父さんが捜査2課にいたときの友達だ。捜査2課は詐欺や偽造、企業犯罪を捜査する。
刑事の再就職先でポピュラーなのは、興信所・警備員・パチンコ・ヤクザなどだ。
東山さんが帰り、お父さんは昭和時代の刑事もののDVDを見ていた。
「また、『新宿デカ』見てるの?」
「うん、竹田優作カッコいいなぁ」
竹田優作演じる新発田って刑事が取調べ室で殺人の共犯者にタバコを差し出す。
『吸うか?』
「本当はタバコを渡したり、ジュースとかを上げることは出来ないんだ」
「そうなの?」
「うん、取調べ室で飲めるのは水道水くらいだ」
「へぇ〜」
反抗的な共犯者に新発田はパンチを食らわせた。
「痛そうだな?」
「実際にはミラー越しに監視されてるからこんなこと出来ないよ?」
「可視化って奴?」
「おっ、よく知ってるな?」
共犯者から真犯人のアジトを聞き出した。
新発田が経堂駅近くの木造モルタルアパートにやってくると、ジープが走り去る。新発田は覆面パトカーを疾走させてジープを追跡する。派手なBGMが流れる。
「車1台で経費100万以上だ。うかうか壊せない、それに刑事は基本は徒歩か電車で移動する」
「マジで?」
真犯人を逃して新発田は、屋上で先輩刑事から殴られる。
『刑事なんかやめちまえ!』
「パワハラはよくないよ〜」
僕はぼやいた。
新発田は新宿中央公園にいるホームレスにポケットマネーを渡して、真犯人の情報を聞き出す。
「情報屋に払う金は経費で落とせるんだ」
「ドラマに集中できないんだけど?」
「ごめん」
甘糟がかつてうかんむり(窃盗)をしていたことを梶が教えてくれた。
古河駅近くの中華屋に僕は入った。
今日から8月だ。外は拷問みたいにジリジリと暑い。クーラーがかかってて心地良い。
2階席で僕と梶はチャーハンを食べていた。昼飯を終えたら甘糟を探しにいかないと。
「あまちゃんはアヒルを殺してる」
飲茶で喉を潤し、梶が言った。
アヒルってのは制服警官のことだ。
梶の無線が鳴った。
「なに?赤犬」
梶の目が猟犬みたく鋭くなる。
赤犬ってのは放火犯のことだ。
そのとき、黒い無地のキャップをかぶった男が階段を上ってきた。甘糟!?
僕は甘糟に目打ちを食らわせた。
「畜生!」
僕は渾身の力を込めて甘糟の腹をナイフで突き刺した。
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