湘南

 祖父から1万円をもらった。今日は僕の誕生日だ。祖母が戻って来た。天ぷらそばを作ってくれた。

 食事を終えて車庫に3人は移動して、タイムマシンに乗り込んだ。外見はクラウン・マジェスタだ。祖父が運転席、祖母が助手席、僕は後部席だ。

 祖父がパネルを押した。

 やって来た時代は明治23年(1890)だ。初の国産自転車が開発された。自転車メーカーの老舗、宮田工業により開発された。創業者の宮田栄助は笠間藩のお抱え鉄砲師で新政府軍の銃を開発した。明治14年に日本橋にある木挽町で独立した。具体的に言うと、日本橋と築地の間にある。築地はこの頃、外国人居留地だった。

 だるまタイプのオーディナリーが主流だったが、栄助はセーフティーと呼ばれる現在の自転車の形を作り上げた。焼入れ方に力を入れた。ベルギーのエフエヌや、アメリカのアイバー・ジョンソンなど製銃工場が自転車屋に発展したケースが多く、宮田工業ももともとは製銃所だった。

 僕は自転車を手に入れた。

 

 時代は少し先に進み、明治32年(1899)には新橋にビヤホールが誕生した。日本麦酒(サッポロビール)の直営店で当初のつまみは大根だった。しかし、あまり流行らず海老や佃煮など試行錯誤をした末、枝豆になった。

 ビヤホールで美しい女性にナンパをされた。「ワタシ、アナタに恋しちゃった」

 彼女は芦名慶子というお嬢様だった。


 慶子は僕たちと一緒に平成に戻って来た。

 7月25日、慶子とJR湘南新宿ラインで鎌倉にやって来た。滑川海水浴場で足だけ入った。僕は中学生のとき海で溺れて水恐怖症に陥った。海岸沿いをテクテク歩く。路面電車が走り、和田塚という石碑のところで慶子とキスをした。

 

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