第9話

  昼間に学校で言われたもののよくわからなかったので家に帰ってからネットでもう一度フェンシングの種目の


違いについて調べてみることにした。日本ではフルーレが人気らしいが、はて……


エペ 単純なルールで剣が一番長くて重い

世界で一番人気

ボクシングで言うところのミドル級


サーブル 切りがあり一番動きが激しい

身体能力エリートが集まる

ボクシングで言うところのヘビー級


フルーレ サイズも運動能力もない

陰キャチー牛みたいなやつらが小さく軽い剣で

ペチペチやるパラリンピックみたいな種目

世界じゃ誰もやってない

ボクシングで言うところのミニマム級


う~む……格闘技の階級で例えられるとなんかわかりやすい感じがした。


フェンシングの3種目のこと、よくわからなかったがこういう違いがあったんだな。


たしか体育館では全種目行われてた……のかな?


昨日やったエペと全然違う感じのをやっていた人たちがいたけどそれがこの残りの2つのどちらかってことになる


んだろうけど……このフルーレっていう種目は、ここに書かれている通りだとしたらなんかやりたくないなあ。


ボクシングのミニマム級って大の大人のはずなのに私より軽い体重まで落として戦ってるような競技でしょ……?


そして競技人口も少なく小柄で筋肉のないアジア人ぐらいしかやっていないのに何が世界チャンピオンなのかと、常々疑問に思っていた軽量級と同じと言われるような種目だというのなら正直絶対そんなのを専門にやる


選手にはなりたくないと思った。小柄でもやれるから日本人に人気なんて全然誉め言葉じゃないじゃん……と。


あとの2種目は唯一切りがあってスピードが必要で運動神経の良さが求められたり体の大きさが必要でどこを狙っても良いという単純なルールだったりとそれぞれ個性があることもあり、興味を惹かれた。


今度はエペではなくてサーブルというのも体験したいものだなあ……。


「え、エペとサーブルの二つをやりたいの?」


「はい!」


次の日部活に行ってすぐネットで調べたことから自分のやりたい種目について先輩に相談してみた。


「う~ん、残念だけどそれは難しい相談だわねぇ……」


「なんでですか?」


「やるだけなら問題ないんだけど基本的に日本のフェンシングの大会だとフルーレとエペ、またはフルーレとサーブルを掛け持ちで同じ大会に出ることは可能なことが多いんだけどね、エペとサーブルの2種目に同じ大会に参加するのは無理なことが多いの。大きな大会でも、とくに高校生の一番重要な試合と言われるインターハイとジュニアオリンピックもエペとサーブルを同時進行するためにこの二つの両方に出ることは物理的に無理だから禁止にされてるのよ……。」


「え……。」


「まあインカレや全日本とかは全種目とも別の日程でやってるから出ようと思えば3種目全部に同時に出る


ことも可能っちゃ可能だよ、全日本は最近毎年日程やスケジュールを色々変えたりしてるからギータカちゃんが


出るころにはどうなっているかわからないけどね……。」


「なんだそりゃ、いくらなんでも酷すぎる、物理的に掛け持ち自体不可能にしているとかここまで来ると日本のフェンシング業界そのものがフルーレ以外は本気で取り組むなって言ってるようなもんじゃないですか!?」


気持ちが入ってつい大声をあげてしまい恥ずかしくなった……。


「まあまあちょっと落ち着いて、日本人はフルーレだけは昔からそこそこ通用してたって事実があるからねぇ、前の東京オリンピックの時なんてメダル寸前までいったことがあるくらいだし、もう50年以上前に。」


「10年ほど前に日本人初の五輪金メダリストとしてかなり有名になったのもフルーレでしたよね確か?」


「そうなの、それで爆発的に競技人口が増えたのもあるんだけどほとんどそれで始めた子たちもフルーレしかやらないのよね~、まあフルーレっていうのはある意味特徴がないとはいえ、裏を返せばエペとサーブルの両方の特徴を持ってるからどっちにも転向しやすいから後々種目を変更しても何とかなるって考えもあるんだけれどね。」


一応そういう理屈はあったのか……。


「ただ子供のころにフルーレ始めちゃったら用具もそのまま使えるからエペやサーブルは結局ほとんどやらずに続けるって子がほとんどなのよね~。」


「えぇぇええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」


それじゃ後々別の種目に転向しやすいって利点すら意味がないではないか……。


「それに日本人は欧米人に比べて背が低くて痩せてるでしょ? エペとサーブルは身長が高くて手足も長い、パワーのある選手が圧倒的に有利になるの。ある意味体格ゲーってところがあるから小柄な日本人はやっても無駄だって意識もあって世界を目指すならフルーレって意識が根付いてるのもあるわね!」


そしてその日の夜もまたネットでフェンシングの大会についてググってみたのである。

カチカチカチッポチー!

………………………………………………………………………………………………………………。


完全に言葉をなくしてしまった…………公式大会を見てみると○○フェンシング大会とちゃんと書いてあるのに要綱欄から種目を確認するとなんということでしょう! フェンシング大会やフェンシング選手権とちゃんと銘打っているにもかかわらず、フルーレしか開催されてないのである。サーブルやエペの大会は○○サーブルカップ

や○○エペ選手権という名称で開催されており、どうやらこの国ではフェンシング=フルーレであってフェンシングにエペやサーブルは含まれていないらしい…………。


「ファイッオーファイッオーファイッオーファイッオーファイッオーファイッオーファイッオーファイッオーファイッオーファイッオーファイッオーファイッオーファイッオーファイッオーファイッオーファイッオーファイッオーファイッオーファイッオーファイッオーファイッオーファイッオーファイッオー!!」


「オラ、もっと声出してけー!」


キンキンキキンキンキッキンキキンキンキンキンキキッキーンキンキンキキキンキンキンキキンキンキッキンキキンキンキンキンキキッキーンキンキンキキキンキンキンキキンキンキッキンキキンキンキンキンキキッキーンキンキンキキキンキンキンキキンキンキッキンキキンキンキンキンキキッキーンキンキンキキキンキンキンキキンキンキッキンキキンキンキンキンキキッキーンキンキンキキキン…!!


「先輩、なんですかこの国の試合は! フェンシング大会ってなってるのにフルーレしかやってないのばかりじゃないですか!?」


「まあ昨日言った通りよ、日本ではフェンシング=フルーレ、って扱いでエペやサーブルは"種目"と呼んで明確に区別してるの。フルーレと違って種目は日陰でこっそりやっててって感じなのよ。外国人コーチとかにもそういうのはおかしいってちょっと前からそういう風潮なくそうってなってきてるけどなかなか昔の体質を変えるのは難しいみたいで……」


「こんなの絶対おかしいです、私がこの現状を変えて見せます!!」



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