第4話 デュークの石とリナの所有権の話 

 それにしても私を無視して話が進んでいっている。

 だって、返してくれも何も私は物ではないし、悠人ならまだしもキースの所有物でもない。


 退屈な話だ。


 私はついつい持っていた扇子をもてあそぶ。

 以前、デュークに貰った石をボーっと見ていた。

 そうしていたら、突然キースに話しかけられる。

「里奈? 去年僕が上げた翡翠は?」

「国庫の中に入れてあるよ。ああ、発信機はこっちに持って帰る前に外したから」

 ボーっとしていたので、つい悠人と話していたように言ってしまった。

 セドリックが微妙な顔をしている。

 そりゃ、そっか。


「あれ、個人的に上げたんだけど?」

「発信機を付けて? それに、もらえないって食堂で言ったよね」

 キースはウッという感じになっている。

「そのイエローダイアモンドは? 旦那に貰ったの?」

 イエローダイアモンド? 

「マジ? 本物なの?」

 そう言って焦っている私を見て、キースは長々と溜息を吐いている。

「おまえなぁ~。旦那以外から貰った石、着けるなよ」

 今、自分の送った石じゃないって言ってた口で言うのがそれ?

 いや、確かに無神経かもだけど。


「誰から貰ったんだよ」

「関係ないでしょ? それで、なんで本人無視して、私の所有権主張しているのよ、悠人」

「無視している訳じゃないけどね。だって、僕ら結婚するはずだったじゃない。それにさ、こんな言いたい事も言えない環境じゃストレスだろ?」

 キースはしれっと言っているけど、そんなのは分からない。

 別れていた可能性だってあったのだもの。

「それに、その口調だって久々なんじゃない?」

 それは、確かに。だけど、言いたいことを言えていないわけでは無いんだけどな。


 私は、その質問に答えず深呼吸をした。

 ここは私的な場所じゃない。正式な会談では無いと言いながら、人が大勢いる場所だ。

 キースが、どの立場で私を連れて帰りたいのか分からない以上、この話はここですべきでは無い。


「どちらにしろ、この会談の場で言うべき話題では無いですわね。シャーウッド公爵閣下」

 私の口調に合わせ、キースも態度を改める事を決めたようだ。

「そうですね。クランベリー伯爵夫人」

 私には、にこやかにそう言って、セドリックの方を向く。


「失礼いたしました。クランベリー伯爵。この問題は外交の場にもっていきましょう。それでは……」

 キースは、そう言って席を立つ。マリユス・ニコラもそれに従うように席を立った。

 セドリックは、その様子に少し焦っているようだけど。


 外交の場……ねぇ。外交問題にもっていけるんだ。なるほど……。

 もうね、お互い過ぎて笑いが出そうだわ。

「キース・シャーウッド軍事参謀長。ポステニア王国との決着は付きましたか?」

 私は座ったまま、キースの後姿に言葉を投げかけた。

 振り向いたキースに笑顔は無い。私も無表情に見返した。

 そして、少し笑い。

「どうぞ。外交の場にもっていってください。そんな余裕がおありなら」

 ちゃんと、迎え撃ってあげるから。


 キースの顔にも笑みが戻る。呆れたような感じだったけど。

 私の方に戻って来て、座っている私の前に跪く。そして目線を合わせて言った。

「相変わらずだよな。お姫さんも僕も……。でもね。それでも僕はもう一度一緒の人生を歩みたいと思っているよ。それだけは、本当だから」

 そう言って立ち上がり、行ってしまった。


 っていうか、この空気どうしてくれるのよ。

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