第3話 悠人と里奈 前世の話(セドリックとの交渉)

 私はまだセドリックと結婚する前に見つけた悠人がくれた手紙を思い出していた。

 あの手紙には、キース・シャーウッドの名前があった。

 だとすると、目の前にいるキースとやらは悠人なのだろうか?

 

 それにしてもよく似てるわね。このキャラクター。

 ん? キャラクター? 聞き覚えのある国名も……。


 私がそんな事を考えている間にも、セドリックの方はサクサクとお茶会へ段取り良く進めている。

「立ち話も何ですから、どうぞおかけください」

 そう言って、お茶を勧めたり、お菓子を勧めたり雑談を交えながらにこやかに対応しているのは、もうさすがだとしか言いようがない。

 まぁ、今日の私の役割はお飾りで座っているだけなのだけど。


「それで、今日はどういったご用件でしょう」

 世間話が一通り終わり本題に入ろうとしていた。

 だいたい、この話が私たちの所に来ることがおかしいのだ。

 セドリックの今の立場は軍事司令官で、外交は担当していない。

 唯一来るとしたら、軍事面で外交上納得がいかなかった場合か。

 その事にしても、セドリックより上の立場のクランベリー公爵は外交の場に立っている。


 その問いに、キースはにこやかに言った。

「ええ。そろそろリナを私の下に帰してもらおうと思いまして」

 私は紅茶を飲んでいた動作を止めてしまった。

 静かにソーサーの上にカップを戻す。ふきださなかった事をほめて欲しいくらいだわ。

「おっしゃられている意味がよくわかりませんが」

 表面はにこやかに返しているけど、絶対に不快に思っている。

「言葉通りですよ。本当はリナと個人的に会いたかったのですが、立場上無理なので」

 当たり前だ。2人で会ったりなんかした日には、双方スパイを疑われてしまう。


「もう良いでしょう? 昨年、王室のお家騒動で散々リナを利用して、何度も命の危険に晒してますよね。上手く取り込んで、政略結婚までさせて。これ以上、リナの人の良さを利用するのは、もうやめて頂きたいと言っているのですよ」

 キースは、にこやかな笑顔を消して、真剣な顔でセドリックに言っていた。

「失礼ですが、リナとはどういったご関係なのでしょう? リナ・ポートフェンとキース様との接点は無かったように存じますが」

 そりゃね。この世界での接点はあの大衆食堂でのみ。

 それも、その時はキースだと知らなかったもの。どんな記録を探ってみても、何も出てくるはずも無い。


「おや。経歴くらいはお調べになっていると」

 あれ? キースは仕事ビジネスモードだ。

「私でなくとも知っています。それくらいポートフェン家は貴族……いえ、国内では有名な一家ですから、調べるまでも無い」

 セドリックも何とか感情的にならずに話せているけど。


 私は何気なく、もう1人の方を見た。目が合うとニッコリ笑ってくれたけど。

 こちらも見覚えがある。

 私は侍女に扮しているウォーレン・ライラ伯爵に目配せをした。

 

 それにしても、悠人はどういうつもりなのだろう。

 私たちの中は、今更である。

 今、悠人が言っている事は、前世での事であるのだから。

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