アラン王子殿下の憂鬱 2

 社交シーズンも終わりに近付いた頃、リナが教室でぼーっとしているのが見えた。

「リナ。人がまばらな教室でぼーっとしてると危ないよ」

「アラン様?」

 リナの前の席に横向きに座り、リナの方を向く。

 驚いたような表情のあと、ジークを確認しているようだった。


「困ったなぁ~って思ってる? せっかくセドリックとも会わず、王太子派の夜会にでたのにって」

「別に、困りませんよ」

 婚活のことを言ってたので、冗談で、セドリックのところに来れば良いって言ったら、怒られた。

 君、セドリックのこと好きなんじゃないの?


 そして、次の瞬間にはとんでも無いお願いをされた。

 ホールデン侯爵家の夜会の招待状をなぜリナが持っているのか知らないけど、ここで断って適当なパートナーと行かれても困る。


 夜会に行くと、そそくさとホールデン侯が挨拶に来た。

 僕はこいつにリナを紹介する気なんか、かけらもない。

 リナは不満そうにしてるけど、危険だって分かっているのかな?

 ホールデン侯を見る限り、まだ恨みを持ってそうだし。

 基本的には悪い人では無いと思うのだけど、あの恨みが目を曇らせているのか。


 サイラスとレイモンドに挨拶をして。ダンスの一つも踊れば、義理は果たせる。

 最初のダンスをパートナーと踊った後は、フリーで色々な人とダンスを踊らなければならなくなるし。

 こんな危ない場所で、リナを1人にさせるわけにはいかないから。

 リナをダンスに誘ってからふと思いたったように訊いた。


「そういえば、ここの招待状、誰からまわってきたの?」

「父からですけど……」

「ふ~ん」

 こんな危ない場所に娘1人で送り込むか?

「何かあるんですか?」

「社交シーズン終わるから良いけど、あまり関わらない方が良いかもね」

 リナは釈然としないといった顔をしたけど

「あ……はい。分かりました」

 と言って、一緒に帰ってくれた。



「アラン~。誰がリナちゃんをホールデンの夜会に連れて行けって言ったかなぁ」

 おお。怒ってるよ。でも、僕が付いてて危ない目に遭わせるはずないだろ?

 とりあえず、特例が認められている僕の部屋に行く。


 リナの言い訳を制して、クラレンス・ポートフェンとの確執の話をしようとしたら、今度はセドリックから止められてしまった。

 リナに、ホールデン侯爵家に近付くことの怖さを、教えようとしたのに。

 その後、何か隠してるリナとセドリックのケンカが始まったのだけど。


「私も、仕事として引き受けてる以上、守秘義務があるのですが」

 と聞き捨てならないことをリナが言った。


 仕事って何? こんな女の子に仕事って……。

 部屋を出て行ったリナを、慌てて追いかけた。

 リナに追いついて、男子寮は危ないからと適当な理由を付けて、送ると言う。

「今日は夜会に付き合って下さって、ありがとうございました」

 リナは礼儀正しい。誰に対してもそうだね。

「ああ。でも、ホールデン侯爵家には近付かない方がいいよ」

「はい。アラン様に断られたら諦めるつもりでした」

「そうなの?」

 それは、意外。


「ホールデン侯爵様より身分が上で、ご一緒して貰っても危なくない方は、アラン様しか思いつきませんでしたので」

「ああ。なるほどね」

 何も考えてないわけでは無いか。そうだな、でないとリネハン伯の家から無傷でエイリーンを救い出すことも出来無いか。


「ねぇ。リナの受けてる仕事って国王の依頼だよね。なに?」

「アラン様?」

「命令したくないんだ」

 お願いしているうちに言って。

 リナの手を握る。逃がさないために……抵抗は、ないな。警戒してないのか。


「国王様からの依頼は、『学園在籍中の王太子と第二王子の安全確保』という簡単なお仕事ですわ」

 リナがにっこり笑う。

 依頼内容の本当の意味が分かってしまった。何が簡単なお仕事だ。


 この子は、僕たちのために危険なところでも、行かなくてはならなくて。

 セドリックが怒るはずだ。少しでも隠し事をされたら守れない。

「そう。女の子に守られるなんて、恥ずかしいな」

 そうして手を繋いで歩いてうるちに、女子寮に着いた。


「アラン様。ありがとうございました」

「うん。今日はゆっくりお休み」

 リナが女子寮に入っていくのを見送ってから、きびすを返し、男子寮のジークの部屋を目指した。

 冗談じゃ無い、なんで、リナが僕たちの犠牲にならないといけないんだ。


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