本編番外編 (本編と違う部分があります)

アラン王子殿下の憂鬱 1

 学園の入学式後の夜会。

 入学式直後、僕は一足出遅れてリナ・ポートフェンの夜会パートナーの座をジークに渡してしまった。

 セドリックからせっつかれて、嫌々行ったから仕方ないのだけど……。


 エイリーンがぽつんと壁にいる。

 僕は横に立った。

「アラン?」

「リナ・ポートフェン。王太子派に釣れると良いね」

「ええ。そうですわね」

 そう言いながらも、エイリーンは寂しそうにみえる。

「大丈夫だよ。仕事だから……。ポートフェン子爵家当主を釣るための」

「ありがとう。大丈夫よ、わたし」

 エイリーンは、気丈に笑う。

 好きな人が、仕事でも他の女性を口説いてるなんて、平気なはず無いのにね。

 しかも、あの子があの調子だと、当分ジークと仲良くする日が続くのだろう。

 僕も参戦しなきゃね。セドリックがうるさいし。



 学園の初日、リナ・ポートフェンが、下位貴族の令嬢達に囲まれているのが見えた。

 夜会での態度の事らしい。全く、女性は怖いねぇ。

 リナが下を向くのが見えた。


 まずいな。泣いてるのか? ジークも同じように感じたらしく、助けに入るタイミングが一緒になってしまった。

 リナ・ポートフェンに声を掛けようとすると……。

 さっきまでリナを囲んでた令嬢達に囲まれた。不敬だろう? って一瞬頭に浮かんだが、学園では身分の事を言ったら確実に王族こちらが怒られる。


 リナの方を見ると、『ごめんなさい』とばかりに笑顔で手をヒラッてふって教室を出て行く所が見えた。

 やられた……。

 なんか、女の子に囲まれてる日々は続いてるけど、肝心のリナがいないんじゃな。ジークに取られてばっかりだ。

 本当に僕は、こういうことに向かない……。



 数日たった後、僕の部屋に不機嫌になったセドリックいた。

 僕に任せても埒が明かないと思ったのか、自分で接触したらしい。

 アルフレッドとの攻防もさることながら、なんと本人からも拒否られたそうだ。


 珍しいな、年下の女性相手なら、たいてい良いお兄さん演じて仲良くなるのに。

 だいたいあの子、夜会の時とずいぶん印象が変わったしね。

「まぁ、適当にね。先は長いんだし。僕は兄さんの補佐が出来れば、それが一番良いと思ってるんだから」

 難しいけどね。それに、リナはジークの陣営に行った方が良いと思う。

 セドリックには、言えないけど。



 今年の令嬢達のデビュタントが終わって、妙な噂が入ってきた。

 デビュタントの場で、国王に所望され宰相に連れて行かれた令嬢がいると……。

 私室では無いのが救いだけど、ポートフェン子爵家当主も呼び出されたようだった。

 国王陛下に取り込まれてしまったか……。


 ジークも諦めたのか、リナを誘わなくなった。理由が無いものな。

 その代わりのように、セドリックが頻繁にそばに寄っていくようになった。

 傍目には、リナはこちら側に付いたように見えるけど、セドリックは僕に何も言ってこない。まだ、作戦行動中なら接触しない方がいいか。

 それにしても……と、思う。

 デュークの家の動きも不穏だ。リネハン伯爵はホールデン侯爵家に近付き過ぎてる。


 そうこうしているうちに、事件が起きた。

 エイリーンが誘拐されてしまったんだ。

 リナがエイリーンに不用意に近付いてた。セドリックの指示を疑われたが……それは、違うと思う。セドリックも、デュークを助けたいと思っていたはずだ。

 そうして、何も知らないリナはデュークのパートナーになって夜会に出かけてる。

 セドリックとデュークの思惑通り証拠書類を持ち帰るだろう。


 夜会の後、その日のうちにセドリックが僕の寮の部屋に転がり込んできた。騎士団の制服のまま、死にそうな顔で。

「どうした。何があった。まさか、エイリーンに何か……」

「俺は……最低だ」

 僕に縋って崩れ落ちそうになってるのをとっさに支える。

 セドリックに普段の余裕は、無い。


「なにが……」

「年端のいかない……女の子を……死なせてしまうところだった」

 一瞬、セドリックが泣いてるように見えたけど、涙は無い。

「俺は……なんてことを……」

 声を絞り出すように言う。腕に食い込む指は震えてた。

「リナのこと? 仕方ないじゃない。あの子がエイリーンに近付くから」

「仕方ない?」

 目がうつろになってる。このままじゃ、ダメだ。


「分かってて、巻き込んだんじゃ無いの? エイリーンの事が無くても充分危ない現場だったよね。そこに15歳の女の子を放り込んだんだよ」

「……」

「結果を背負う覚悟で、巻き込んだんじゃないのか、って言ってんだよ」

 セドリックはじっと下を向いていた。指の震えは収まったようだ。

「すまなかった」

 まだ、立てないようだが。


「何があったのかは……まぁ、聞かないけど話したかったら」

「リナちゃんがジークから斬られそうになったんだ。俺が……俺とアルフレッドが間に合わなかったら斬り殺されてた」

 ジーク。あのバカ、何やってるんだ。

 セドリックは、跪いたまま礼を執る。

「大変お見苦しいところを……申し訳ございませんでした。アラン王子殿下」

「いいよ。今更だろ? おおやけの場じゃあるまいし」

 まぁ、つらいときにここに来る分にはいいさ。

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