第77話 リナちゃんは下町に行きたい セドリックとリナ

 王宮に着いて、軽く明日の打ち合わせをしてから、2人と別れた。

 セドリックは、王宮奥に用意して貰った私の部屋まで護衛をしてくれている。馬車での、不機嫌な感じは消え、もう既に何を考えているのかわからない感じになっていた。


「今日は、心配かけて本当にすみませんでした」

 私は立ち止まって、セドリックに謝った。

「別に……。無事だったんだから良いんじゃない? 部屋までは、ちゃんと護衛するよ」

 態度が素っ気ない。私は、セドリックの服の裾をギュッとつかんだ。

「なに?」

 私の方をじっとみる、なんの感情も持ってないみたいに。


「ごめんなさい」

「意味ないから、良いよ」

「許さないって……こと?」

「何に対して謝ってるんだよ。俺は、何を許せば良いの? 分かってないなら意味が無いだろう?」

 セドリックは、静かに言いつのる。


 そっか、そもそも論なんだ……これ。

 そもそも、単なる政略結婚なら、この謝罪に意味は無い。

 許すも何も、セドリックが怒る理由すら無い。

 あんな風に、婚約を条件に交渉を進めてしまったから……。

 あの、みっともない涙の理由なんぞ知られたくないけど。

 自業自得だ。


「セドリック様。リネハン伯の事件の後、私はセドリック様に見捨てられるのが一番怖かったんです」

 セドリックの顔は怖くて見れない。

「見捨てられたと思った瞬間、足下が崩れ落ちた気がして……涙が出ました。今も、同じです。私がしんどくても頑張れるのは、貴方が見捨てないって言ってくれたから……。セドリック様には、意味の無い謝罪かも知れませんが、私には意味があるんです」


「俺のこと、好きって言ってるように聞こえるけど……」

 戸惑ったような、セドリックの声が聞こえる。

「先日の騎士団長の大爆笑の原因は『結婚は、好きな人としたい』って言ったことです」

「っつ」

 顔を上げて、恐る恐るセドリックを見たら。真っ赤になったセドリックがいた。

 いや、多分私の顔も真っ赤だ。はずい。いや、はやく何とか言ってくれ。


「は……はは。なんだ、そっか……。俺、ちゃんと好かれてたんだ」

 何? そのつぶやき。

「俺さ。自分の結婚は政略的なものになるだろうって思ってたから、それ自体はどうでも良かったんだけど。親父が縁談相手にリナちゃんの名前出してきた時から、なんか罪悪感しか無くて……さ」

 あ~、それでジークフリートの執務室での態度か。


「それで、あの交渉だろ? 俺、馬車の中で断っときゃ良かったって、ずっと後悔してたんだよ」

 ふぅ~って、息を吐いて言う。


「悪かった。仕事に支障来したな。リナちゃんがどんな風になっても見捨てたりしないから安心して。俺、リナちゃんのこと好きだよ」

 セドリックから、にっこり笑って言われた。

「なんか、すごくウソっぽいんですが」

 その態度で信じろと?

 それとも遠回しに、所詮政略結婚だよって言ってる?

 そう思ってると、セドリックはバリバリ頭を掻き、溜息をついた。


「分からなくても良いけど。俺も男なんだよ。こんな風に言ってないと、今夜部屋に帰せなくなる。これ以上、つつくな」

 あ…はい。了解っす。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る