第78話 リナちゃんは下町に行ったから報告会を開きます

 翌日、宰相の執務室ではちょっと手狭なので、前世で言う小さい会議室のようなところに集まって貰った。

 メンバーは、宰相、近衛騎士団長、騎士団長、クリフォード、セドリック、フィルと私の7名。

 一応、市場調査に行ったのが私を入れて4人だったので同席して貰った。


 円卓の真ん中に、昨日貰った。翡翠が置いてある。

 なんと、国王も宰相も、国の専門機関も、この宝石の名前を知らなかった。

「忙しい中、お時間を頂きまして、ありがとうございます。昨日、市場調査に行った時に、気になった点だけでもお知らせしなければと、両団長においで頂きました」

 そう言って、私は近衛騎士団長と騎士団長と、双方の顔を見る。


「まず、そちらの宝石をご覧下さい。午前中に国の専門機関の方々を交え、国王陛下と宰相様にも確認して頂きましたが、この宝石……翡翠というのですが、我が国で産出していない物だと伺いました」

「そうだな。これをどこで手に入れたのかね」

 近衛騎士団長クランベリー公爵が訊いてくる。


「はい。下町の大衆食堂に食事に来ていた海外の方に頂きました」

「海外……の、かね」

「はい。船で海を渡ってきたと言ってました。国内にいては分からないかも知れないが、この国は外から見ると霧の覆われていると。それが時々、入れるようになったと。ラッキーだったと言ってました」


「宝石を持っているって事は、商人だったのかね?」

 う~ん。その辺の情報は分からない。

 夕方の忙しい時間帯だったし、突っ込んで訊くのも変だったし。

 憶測をいうのは気が進まないが……。


「憶測でよろしければお答えしますが」

「憶測でかまわん。どんな風に思ったのかね」

「私たちと同じ感じがしました」

「貴族ということか?」

 これは、騎士団長のサイラス。


「その国に貴族制度があれば……ですが。上流階級の方がわざと庶民の振りをしているような。船乗りという感じでは、無かったです」

「なぜ昨日帰ってすぐに、言わなかった。もしくはその場でなぜ捕らえなかった。現場に騎士が2人もいたんだ。その場で拘束することも出来ただろう」

 サイラスは少し大きな声でリナに言ってきた。


「海外の……どういう立場にいるか分からない方を、ですか?」

「関係無いだろう。そんなこと」

「船は、1人では動かせません。また、どこにあるか分からない、霧に覆われた国に入るのに船一隻で来るとお思いですか?」

 どんだけ平和ぼけしてるんだ。

「確かに、あの男性を拘束するのは簡単です。ですが、その後は? 船一隻でも帰してしまえば、相手に戦争を仕掛ける口実を与えることになるのですよ」

「なっ」

「どれだけの軍事力があるかも分からない国に、事前情報も無く攻め込まれることになる。貴方は、我が国を滅ぼしたいのですか」

 カッとなったサイラスと私は、思わずにらみ合う形になった。

 埒が明かないので、話を本筋に戻す。


「失礼致しました。話を続けます」

「そちらの宝石をお見せしたのは、我が国に存在しない物を持っている、海外の方の存在を信じて貰うためです」

「我々を呼んだのは、騎士団に警備体制を取って貰うためかね?」

 クランベリー公が先を読んで言ってくれる。


「お願い出来ますでしょうか。諜報活動も含めて」

「かまわんよ。後で話を詰めようか。騎士団長殿もそれで良いかね」

「了解しました」

「ありがとうございます」

 クランベリー公が味方で助かった。

 でも、実際動いて貰わないといけないのはサイラスの方で……。

 解散した後で、てててっと、サイラス……騎士団長の後を追いかけた。

 足速いなぁ。

 なんか、本当に途中まで気付いて無かったようで。


「ん? なんだ、付いてきてたのか」

 私に気付くと歩調がゆっくりになった。ゼイゼイ、しんどい。

「大丈夫か?」

 背中、撫でてくれる。

「すみません。大丈夫です」

 落ち着くまで、待ってくれた。基本的に団長は自分の部下に優しい。


「あのっ。先程は生意気なこと言ってしまって、すみません」

 ぺこんと頭を下げる。

「あ~。あれは、まぁ。あんたが正しいかな。すまんな、引くに引けなく無って、睨み付けてしまって。心配しなくても、ちゃんとリナ嬢の指示に従うよ」

「あ……いえ。わかんないんで話し合いって形になりますが……」

 一瞬、間が空いて団長が笑い出した。

「いや、あんた最高だわ」


 褒められた気がしない。

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