第64話 ポートフェン子爵の困惑とアル兄様の助言

 クランベリー邸から戻った翌日。

 自宅屋敷の自室でくつろいでいると侍女から父の執務室に来るように促された。

 心当たりはあったけど……。


「失礼致します。リナです」

 侍女に開けて貰った扉をすっと通る。 

 ルイス兄様は社交界シーズンが終わったときに自分の領地に戻っていたので、執務室の中には父とアル兄の2人がいた。

「何かご用でしょうか。お父様」

 私は、父に向かって笑顔を作った。

 父とはあの事件から少し距離が出来てしまってる。


「クランベリー公から、手紙と書類が送られてきていてな。公に会う前に説明して貰いたいんだが」

 父から、手紙を見せて貰う。


 手紙の内容は、要約するとセドリックと私の婚約を整えたいという事だ。

 婚約するとなると、双方の親の同意と正式な契約を交わさないといけないし、その後、婚約披露の夜会も主催しなければならない。

「この手紙に書いてある通りです。まずは、お父様の許可をもらいに、クランベリー公爵様とセドリック様がいらっしゃると思いますが」

「そうだな。そう書いてあるが……お前はそれで良いのかい?」

「縁談を最初に持ちかけてきたのは、クランベリー公爵様ですが、交渉に使ったのは私です」

 私は素直に言った。


 セドリックと恋愛関係にあると嘘をついたところで、見透かされるだけなら良い方で。最悪、セドリックが私をクランベリー公爵家に取り込むために、だましてると思われてしまう。

「交渉?」

 父が怪訝そうな顔をした。


「書類として一緒に送られてきてると思うのですが、一部の騎士団の指揮権を頂きました」

 最終目標のことを父親に知られたくないのなら、セドリックに、こう言ったら良いと教えて貰った。

「それで……一応、私は拒否するすべは持っているが?」

「お父様?」

「私もリーン・ポートの保有者なのだよ。こんな縁談、リナが不幸になるだけだろう。政略結婚などする必要はない」

「私は、セドリック様が好きです。セドリック様は私との縁談は困らないと言ってくれました」

 分かってたけど、言葉にすると辛いなぁ。完全、片想いだもの。


「父上。僕はこの縁談、いいと思いますよ」

「アルフレッド?」

 兄は、私の側に寄って私の顔をのぞき込んでくる。

「リナ。本当にセドリックのこと好きなんだよね」

 声を出したら涙がこぼれそうなので頷くだけにした。

 頭を撫でてくれる。やめて、本当に涙が出るから……。

「父上。大丈夫です。リナ、ちゃんと幸せになれるから心配するな。さて、父上、日程を詰めましょうか」

 アル兄様?


「あ……リナはもう戻っていいよ」

「はぁ」

 不幸にはならないと思うけど。

 なんだかんだ言って、セドリックは私に優しいし。

 そこにつけ込んだの、私だし。

 だからといって、幸せはどうだろう? アル兄様よ。

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