後編
そして、目を覚ます。
『ブラボー1! 生きているのかブラボー1!』頭に響くほど大音量でナビゲーションの声が私を呼んでいた。
「他の皆は……」『全滅だ……お前以外。なぜお前だけが襲われなかったのか……』そんなもの、私が知りたい。
そう考えていると、背を預けていたものの正体に私は気づいた。
「……ナビゲーション。【オブジェクト】は健在だ。支持を」ふらつきながらそれを支えに立ち上がり、果たして再度破壊などできるのか疑問に思いながら、そう呼びかける。
『……』
「ナビゲーション?」トントン、とヘッドセット横のボタンを二三度押して通信を試みる。
『』
だが、ホワイトノイズすら返さなくなり、周りを見回す。
ひどく静かだった。
設置されていた照明は遠くで倒れ、明後日の方向を照らしていた。
そして、眼の前には、真っ黒な人型。
ひ、と声が出る。ぬめらかな光沢をもつその表面が蠢き、膜が剥がれるように中身が露出すると、泥だらけの若い女性の顔……濡れそぼった戦闘服……弾が切れかけの拳銃……。
つまりはそれは、「私」だった。
ゆっくりと拳銃を持ち上げ、”私”の顔をポインティングする。撃つ。と思うと、直感的に”私”も撃つのだと”理解”した。
ばん
銃弾は私と”私”の顔の横を通り抜け、私と”私”は間抜けな射撃姿勢がたたって尻餅をつく。左手を突いて、立ち上がろうとすると、”私”もそれに倣った。
((コレハワタシダ))
思思考考がが重重ななるる。。立立ちち上上ががりり右右へへ行行くくとと相相手手は左左にに。逆逆もも然然りり。。ななららばばとと私私はは、、【ブラックゲート】のの方方へへ咄咄嗟嗟にに駆駆けけだだすす。。
「「がっぁ」」
黒い直方体にぶつかり、私はまた転んでしまった。顔を上げた眼の前には、また”私”の顔。方向感覚の基準点を物体に向けた結果、”私”は同じ方向に行った。らしい。二年前の頬の切り傷、まだ色が違うな。顔、なのに。こつんと額を打ち付ける。なにも聞こえない。私は。”私”は。
――私は、私だ。
私は、”私”に殴りかかる。互いの拳が頬に突き刺さり、たたらを踏んでもう一度。大ぶりに振りかぶり殴りかかる”私”の手首を掴んで抑止する。
「あ、あぐううう!」
だが、万力のように”私”の指が私の手首を圧搾し、耐え難い苦痛が手を止める。ナンダ? 私ハドウシタイ? 眼の前の顔は……薄やかに微笑んでいた。
☆
互いに手首を握りしめたまま、膝をつく。びしゃ、とぬかるむそれは、カルラだった液体。愛しい人の嗅いだことのない臭気に、無力感が全身を包む。ああ……嗚呼。
彼女の左側の下敷きに、ウエストポーチ。生ぬるい液体の中に、太い円筒の物体が見えた。
見えた。
右手を右側に。よし。
掴む。よし。
引き寄せ、握手。するように、その手の間、に、白リン手榴弾を握り、ピンを抜く。よし。
手を離す。手榴弾は足元に落ちなかった。ほんの、一瞬。
私は一歩下がり、右手で虚空を握った。”私”は、手榴弾を。
((最後に触れたのが私じゃないのは、ちょっと、嫌だな))
二歩、三歩、四歩。私は右手を開く。”私”の手から、血と他の体液のカクテルでべっとり濡れた手榴弾が、ぽとりと”足元”に転がり落ちる。
ぼう
そして、”私”は光熱に包まれ、私は気を失った。
午前0時24分。12月x日。K県F県県境付近山中。日本国。
派遣された【対策部隊】三班24名は、全滅した。誰かを除いて。
【終】
W.B.G2012 防衛者 むつぎはじめ @mutsugi
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