中編

噴水のように、ぬるい血潮が私の顔を濡らす。反射的に銃のセーフティを解除し、私の後方へすっ飛んでいったアラクネ(と呼ばれていたバケモノ)の頭を振り返りざま三点射で銃撃する。

「オープンファイヤ!」言う前に撃ってしまったが誰も咎めやしないだろう。ばん、と、内側から裂けるように虫の頭の左上半分は無くなった。が、気にする様子もなくこちらへ歩みを進め、思い出したように脚に絡む生首を投げ捨てた。二腕、四脚。上半身は人間風だが、下半身はキモチワルイ虫のそれだ。


『高エネルギー! 次々来る!』

「こっちにも来た!」

じっじっじっじっじじじっ

キチチチ!!

オペレーター、カルラ、転送、虫人間。そして眼の前の奴が鉤爪で私に躍りかかると共に、耳障りな音が精神をかき乱す。爪はなんとか躱すが、視界の端に収束する黒光。

またくるのか? と言う思考をかき消し、空振りして姿勢を崩した虫を勢いのまま蹴り転がし、腹……に当たる上半身と下半身のつなぎ目を撃ち抜くと、ようやく沈黙した。が、振り返るとそこには二体のアラクネ。そして、反応は尚増えている。



「うおおおおおお!」通信班のコリンが新手のアラクネに支給の拳銃で射撃するが、頭の甲殻をへこませるだけで致命打にならず、虫が跳躍の後、胸の真ん中を爪で貫かれた。ごぷ、といやにその音が耳に響く。

「ナビゲーション! 相手は虫! 頭を吹き飛ばしても死なない」『そちらのヘッドカメラログを確認した。神経節が分かれているのだろう』どうでもいいわ!


『敵身体構造は虫と同様と推測。頭ではなく上下半身のつなぎ目を狙われたし』訂正。それらしい解析を通信で行き渡らせる。しかし、先の様子を見るに護身用程度の装備では通じるかどうか。


「引きつけろ」「くそ、そんな細かく狙えるかよ!」「腕が!足が!」「グレネード! 伏せろ」『敵、ポップ。総計12。反応小康』「掃射する。オブジェクトに当たっても構わんな!」戦闘班の機関銃手が数体まとめて打ち砕くが、動きが三次元的で一掃とはいかず、頭を斬り飛ばされた。

乱戦のさなか、私はといえばカルラと合流して、慎重に作戦領域の反対側へと移動する。



「……駄目ね」

端的に彼女が評したとおり、そちらはもう、みな身体を引き裂かれていた。あっという間に、これで人数としては半「きゅぶ」分「べご」に……

「うわああああああああああああああああああ!!!!!!!」

隣にいたカルラがその美しい身体を左右に割り裂かれ、強烈な臭気を放つ血と臓物のカクテルが爆散する。私は半狂乱で飛び退くが、すぐに背後にナニかの気配。横に再び転がりしたたかに頭を打つ。ああ、私の愛しい人。

『何が起こった! 報告しろブラボー1』「カルラが……カルラが……」

遠のく意識の中、一回り大きな虫が振り下ろした鎌状の腕を引き抜き、残った皆の方へと歩いていた。

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