テンション爆上がりの後に冷静になると死にたくなるやーつ。
■
正直、やり過ぎたと思ってる。
いやぁ、想定外の作戦が起きたけど魔法少女のパワーアップイベントで結果オーライという奇跡を目の当たりにしたことで安心感と高揚感の相乗効果でテンション爆上げしてた。
『そんなわけで、作戦通りことは進んだが』
「いや、進んでないだろどう考えても」
「ああ、進んでないな」
「すすんでない」
「……死ね」
ラスボスなのに四天王が冷たい件。
最後のライオットについては自業自得だからいいけど、まさかグラトニーまで塩対応するとは……
『こほんっ……まぁ、とはいえ、だ。これで、日本政府……いや、延いては世界の現状の武力がどれだけ僕たちネビュラシオンにとって脆弱なのかを示したことになる』
今回の騒動でTV局での中継に加え、そちらから拝借したドローンでイフリートが壊滅させた自衛隊基地についても映像を出した。
もはや隠し通すことが出来ない事実。
他のチャンネルでは報道規制とかしているし、僕たちが占拠したTV局のチャンネルは今も映らなくなっているが……ネットの規制は無理だ。
今も炎上祭り。国内海外問わず、自称有識者たちが大激論を交わしている。
『そして同時に、我らがどれだけ弱い立場にある人間の味方であるのかも示した』
投稿の多くは僕たちネビュラシオンを危険視するものであったが、襲撃した場所では元々大小違いはあれど様々な問題があることが浮き彫りになってきた。
「ネットの投稿に加えて……俺の店で集めた情報を元に襲撃場所を選択……そのおかげで俺たちを擁護……とまではいかないが、襲撃された連中の自業自得と唱える奴までいるな」
僕と同じようにネットの投稿を確認しながらフォラスは呟く。
「だが……一番の問題は」
フォラスはそう区切って、手元のスマホである動画を再生させ、わざわざ音量を最大にして僕につきつける。
『魔法少女である君たち五人を、心の底から愛している!!!!』
ラスボス仕様の衣装に包んだ僕が、全力で叫んでいる姿がそこにあった。
すでに海外ではこれに字幕のついた動画まで拡散してしまっているのだ。
ちなみにコメントは……
――魔法少女ファン第1号(確定)
――魔法少女名誉会員1号
――敵のボスが一番の支援者
――筋肉がファンタジーに勝った決定的な証拠
――世界の中心で愛(ストーカー)を叫んだ男
まぁ、だいたいこんな感じである。
僕の実力とか話題にしているコメントもあるのだが、その多くは僕が敵対組織である魔法少女に対して強い執着を見せていることに関してのツッコミである。
「これのせいで、当初想定していたガーディアンズとの敵対構造に歪みが生じる可能性が出てきたぞ」
責める視線のフォラスと呆れているイフリート、そして珍しく落胆な感情をちょびっと出しているグラトニーの視線から顔をそらす。
そして逸らした先で一切の怒気を隠さないライオットと目が合った。
「つかテメェ、あの雌どもが好みだから戦いたくなかったんだよな、あ、こら、おい?」
『好みなのは否定しない』
「開き直ってんじゃねぇ!!」
ライオットが掴みかかってきたが今回は大人しく抵抗せずに揺さぶられる。
「お前のせいで俺の部下がどれだけ酷い目にあったか、わかってんのか!!」
『しかし』
「しかし、なんだ!?」
『遠目に見た時、喜んでなかったか、新しい体』
僕のその指摘に、ライオットの動きが止まる。
そう、今回彼らは魔法少女たちの攻撃を受けて体を失うというのは、作戦通りで、その補償としてエナジーとは別に新たな肉体を作る権利を与えてある。
そしてその結果が……
『うぉおおおおおおお! イケメンだーーーーーーーーーー!』
『俺のハットトリックに酔うが良い』
『LALA~♪ HOOOOYEAHHHHHHHHHHHHH!!』
『僕、もっとお姉ちゃんと仲良くなりたいなー、なんてな、なんて、なんつってぇ~~~~~~!』
『……美少女、うん、美少女』
遠目に見ていて聞こえた声がこれである。
もう狂喜乱舞って感じであった。
「そ、それとこれとは…………いや、まぁ、それはいいとしよう。
だが、あの二人の成長をわざわざ邪魔したのはどういうことだ!!」
『あのままライオットが勝つ方が問題だろ。
あくまでも彼女たちにはこの世界の希望である位という意識は周囲に持ってもらう必要がある』
「だからって、今後あの力を前にした時にこちらにどれだけ被害が出ると――」
『弱い奴が悪いだけの話だろ』
ライオットの言葉を、僕は思ったままに言い返す。
すると、獅子の顔であるがカッと目を見開いて殺気立った。
でも、それがどうした?
『弱いお前が悪いし、弱い部下を育てる奴が悪い。
ここはそういう組織だ。
現に、我にとってはあの程度なんの問題にもならなかったぞ』
「こ、の……!」
『どうした、その振り上げた拳は?
殴りたいならばやってみろ。
同じやり方で殴ってやるぞ』
ちなみに、僕がライオットを殴った場合はその頭部が完全に吹き飛ぶ。
それがわかっているからこそ、ライオットは拳を振り上げたまま動かない。
やれば自分が犬死にするとわかっているから。
そして当然、僕はやられたらやり返す。
……まぁ、まだ退場させるには早いから、新しい体は用意してやるつもりだけど。
「二人ともやめろ。
反逆者を潰して組織は安定したが、結果的に人員は不足している。
味方同士で争っている場合ではない」
「……ちっ」
フォラスの助け舟をもらい、僕の胸倉から手を放す。
僕は胸元を整えてからイフリートの方を見る。
「で、一応聞くけどイフリートから見てもあの二人のパワーアップは脅威か?」
「ふむ……まぁ、一対一ならば対応は難しくはないだろうが、やはり複数同時に相手となるとな……
とはいえ、今回はライオットは元々疲弊していたこともある。
相手も永続的にあの状態を維持できるとは到底思えん。
万全の状態で、かつこちらも数を揃えて対応すれば被害は抑えられるだろう」
『なるほど……では、自意識の無い異形と、それを指揮する怪人……さらに魔法少女があの姿になったときのために実力者を配置。
今後はより組織だった動きが必須になるわけだ。
……うむ、ではそれは今後俺が』
「俺がやる」
『む?』
ライオットに任せたら嫌がるだろうから自分でやろうと思ったのだが、意外にもライオットがそんなことを言いだした。
『テメェに任せて下らない犠牲を出させて堪るか……!』
親の仇を見るような目で僕を睨むライオット。
『好きにしろ』
おそらくそのまま僕に対しての反逆部隊とか作るんだろうなぁ……まぁ、それならそれで魔法少女たちのつけ入る隙になるだろうからそれはそれで良しとする。
『イフリート、お前の目から見て見どころのある奴を選出して鍛えておけ。
流石にこの場にいる者だけで魔法少女たちの対応をし続けるわけにもいかないしな』
この場にいるのはこの地球支部のトップたちだ。
いちいち現場に出張っているわけにもいかないだろう。
「了解した」
『グラトニー、お前はフォラスの経営を大分任されているらしいな』
「はい。すくなくともあのみせのないぶじじょうはすべてはあくしてます」
『スライムの薬品生成については?』
「せいこうしております」
まだ少し舌ッ足らずな印象を受けるが、そういう外国人だと言い張れば十分に人間に見える。
これならばもう他にも色々任せても問題なさそうだ。
『フォラス、店の方の様子を見て問題なさそうならグラトニーに経営を任せて、規模拡大について考えてくれ』
「それはいいが……もう少し後でいいか、それは」
『何か問題でもあるのか?』
「逆だ。今回の作戦で得たエナジーが予定よりも多く、なおかつ店からの供給も増えている。
今焦ってエナジーを集める必要がほとんどなくなったんだ。
さらに今回の騒動で常連が社会的な不安を抱えてか、口コミを聞きつけて、安全保障関係の者たちも出入りを始めた。
ここは下手に規模を拡大するより高級路線のコースとか作って薬をばら撒く方に地盤を固めたいのだが」
おおぅ、あの飲んだものの言うことを自由自在にするヤバい奴。
あればら撒けば一発で世界征服も夢じゃないんだよね、本当に。
『よし、じゃあそっちの方向で頼む。
店舗拡大はそっちが安定してからで……そうだな、権力持ってる奴に回ったらひとまずはガーディアンズを国に取り込むように動かせて、奴らに自覚を持たせずに首輪をつけろ』
「さらっと難しいことを……だが了解した」
ひとまずこれで今後の方針は固まった。
さて、あとは向こうの出方を待つとしようか。
■
そして、一週間が経過する。
その間、僕、ネビュラシオンのゲイザーとして夕方ごろは基地に顔を出していたが、平日は家にいた。
別に引きこもりになったわけではない。というか、関東にあるほとんどの学校は休校状態になっていたのだ。
TV局のジャック、そして自衛隊基地の壊滅……まぁ、妥当なところだろうな。
近所で地方へ引っ越しをした人たちもいたくらいだし。
でもそれは本当に少数で、一週間も経てば学校も再開され、多くの人々が日常へと戻ってきた。
だが、この状況で全く変化がないはずもない。
TVでは、日本政府がガーディアンズという存在と協力することを発表し、さらに魔法という存在を正式に認めたことで話題になった。
そして、ネビュラシオンの対策として特別部隊として魔法少女たちを採用することも決定。
彼女たちの生活を守るために変身後の姿でTVに映った。
しっかり録画はした。
そして相変わらず仕事をする認識阻害魔法のおかげで魔法少女の彼女たちと素の彼女たちは同一視されていない。
ネビュラシオンへ対抗する装備はガーディアンズから調達するみたいだが、魔法少女こそがガーディアンズの最高戦力であることは、この間の戦闘でほぼ証明された。
だってたった二人でネビュラシオンの幹部クラスを圧倒できる存在なんて、他の次元でもまずいないらしい。
ガーディアンズはネビュラシオンよりも常にエネルギー不足に悩まされている組織だしね。
ひとまず、こちらの想定通りに事は進んだということになる。
そんなわけで、僕も今日から日常を再開。
朝のランニングをするわけで……
「あ」
「あ、おはよう」
いつものランニングコースですれ違う日向萌香と早速遭遇。
何か喋りたそうだったが、あくまでも僕はモブなので軽く挨拶をして通り過ぎ――「ぐぇ!?」
「あ、ご、ごめんなさい、つい! あ、でも待ってください!」
「けほっ……あー……この間はお互い大変だったね」
「それもそうなんですけど……あの、しばらく見なかったので何かあったのかなって……」
「いや、一応外出自粛しろって言われてたからさ。
日向さんもそうだったでしょ?」
「え……あ……あー……そういえばそうでしたね、あ、あははははは」
彼女はTVに引っ張りだこだったので、外出自粛されていたっていう印象が薄かったのかな?
「それにしても世の中色々大変みたいだね」
「そ、そうですね~」
メッチャ目が泳いでる。
いくら認識阻害の魔法で同一人物と思われないからってこれ大丈夫なのか?
本当に騙されやすそうなでお兄さん凄い心配。
「ところで、何か僕に他に聞きたいことがあるんじゃない?」
「な、なんでわかるんですか?」
「いや、だってわざわざ呼び止めるくらいだし」
「あっ、そうでした……すいません」
彼女たちのことをずっと観察していた僕ならばそう言った機微はすぐにわかるが、今の日向萌香の表情を見れば誰が見ても彼女が何らかのことに悩んでいることは一目でわかる。
今の状況、色々と彼女たちに思うところはあるのだろうが……おのれ、いったい誰が彼女を悩ませている?
こっそり始末してやろうか。
「あの……先輩、変なこと質問してもいいですか?」
「変なことって……まぁ、質問の内容にもよるけど、なに?」
さて、一体何が彼女を悩ませているのか。
「……嫌いな人から好きだといわれた場合、どう対応するのが正解なんでしょうか?」
はい、僕でした。
いや、それもそうか。
僕って彼女たちの敵対組織のボスなわけで、一番厄介な存在なわけだし。
「……あの、先輩?」
「あ、ごめんごめん、ちょっと混乱して……」
……でも、この相談って実はかなり僕にとって都合がいいのでは?
上手く行けば今後の魔法少女全体のネビュラシオンへの対応を決められるわけだし。
「まぁ、そうだね。
僕が考えるに、ハッキリと拒絶することが大事だと思う」
「拒絶……ですか?」
「そう、でも、そういう態度の時は絶対に一人でやらないこと。
相手が逆上して強引な手段をする場合もあるから、かならず頼りになる人と一緒に、相手を拒む。
ここで曖昧な態度を取ると相手が調子に乗るからね、主観的にも客観的にも、はっきりと拒絶した事実を伝えて相手に理解させることが大事なんだ」
これで僕が出てきたときも、彼女がゲイザーとしての僕に親身なリアクションをする可能性は大きく減るだろう。
なにより、単独ではなく周囲に他の人間がいるならば彼女も冷静に対応するはずだろう。
「……でも、相手を傷つけちゃいますよね、そういうの」
どんだけ優しいんだよこの子。
「それはそうかもしれないけど…………日向さんが嫌いっていうくらいだから……そういう酷い相手なんじゃないの?」
「…………まぁ、はい」
そりゃ、世界征服企んでますからね。
「具体的なことはわからないけど……日向さん、気を遣う相手を間違えちゃ駄目だよ。
世の中にはね、いい人もいれば悪い人もいる。
いくらそんな相手から好意を受けても、悪い人だってわかってるなら絶対に、絶対に気を許しちゃ駄目だ。
そんなことをしたら、きっと日向さんだけじゃなくて周りの人たちも困ることになるよ」
「……私だけじゃなく…………そっか……うん、そうですね」
この子、基本的に自分より他人を大事にする傾向があるからこういう言い回しだと理解が早いな。
「先輩、ありがとうございました。
おかげで少しスッキリしました」
「どういたしまして」
「あの……これからも、またお話しても大丈夫ですか?」
……モブとしてあまり過剰な接触は好ましくないが、今後彼女たちは私生活でも魔法少女として行動が制限される恐れがある。
そうなれば観察できる機会も減ることは確実。
ここは多少のモブとしてのリスクを取ってでも了承するべきだろう。
「うん、それくらい別に大丈夫だよ。
それじゃ、僕はこれで」
「はい、ありがとうございました!」
最初と打って変わって、晴れやかな表情で日向萌香はその場から走り去っていく。
とりあえず相談に乗ってくれる頼れる先輩……というポジションなのかな僕は?
……相談に乗りつつ、下手に好感度を稼ぎ過ぎないようにしよう。
いやまぁ、僕がここから好感度稼ぎまくって「好きです、付き合ってください!」的なところまで行けるとは思ってないけどね。
この件に関しては普通に対応してればいいか。
そう思いながらいつものランニングコースを進むと……
「……あ」
普段は声をかけない皆瀬蒼がこちらを見て動きを止めた。
「あ、この間はどうも」
「……どうも」
喫茶店で一応会話したので世間話くらいはしておこう。
そう思い軽い挨拶を返しながら自販機でドリンクを購入。
「――萌香の匂いがする」
「え……って、ぉわ!?」
「あなたから、萌香の匂いがする……!」
後ろから声をかけられて振り返ると、至近距離に皆瀬蒼がいて、なんか暗い水底みたいな瞳で僕を見ていた。
「え、えっと……もしかして日向萌香さんのこと?
ついさっきランニング中にちょっと話したけど……それがどうかした?」
「何話したの?」
ち、ちょっと……怖い怖い怖い。
普段から感情はあまり出さない子だけど、ここまで無機質な声音は初めて聞いた。
「具体的にはわからないけど……その、嫌いな人への対応の仕方、かな」
「……なるほど。
男性の意見を求めた……と、ならいい」
一人納得したように呟いて皆瀬蒼はすぐに僕から離れた。
ちょっと残念。
「……一応、礼は言っておく。ありがとう」
「え…………あ、うん、どういたしまして?」
僕がそう言うと、彼女は疲れた足取りでそのまま小走りで去っていく。
とりあえず彼女とは変化はないようだ。
皆瀬蒼の僕に対する印象はモブ。
これでいい。
……さて、さっさと帰って学校に行かないとな。
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