世界はそれを愛と――え、言わない? 言わない……ええ、そう……言わない……



「そこ!!」

「逃がさない!」



パワーアップを果たした二人の魔法少女がライオットに向かって攻撃を放つ。



「くっ……――そ、がぁ!!」



放たれる魔力弾と光の鞭を全力の魔力を纏わせた四肢で迎撃する。


今までのような手加減などそこには一切ない。


そして、それでもライオットは打ち負けてその体が後方へと飛ばされる。



「ぐっ……ありえねぇ……どうしてここまで出力が上がる……!?


いやそもそも、旧種の肉体がこれほどの出力に耐えられるはずがねぇ!!


なんでテメェら、そんな力を使って平気なんだ!!」



そしてその驚きはライオットだけでなく、その様子を見ていたイフリート、フォラスも同様だった。


ちなみにグラトニーはぼんやりと戦いを見ているだけでその辺りは考えてない。



『何故だどうしてと……奴は下らないことを問うな』



ちゃっかりライオットの隣から戻ってきたゲイザーはそんなことを呟いた。



「ゲイザーはわかるのか、あの現象が?」


『明確な説明はできないが、ああいう状態になることは初めからわかっていた』


「いや、しかし……どう考えてもおかしいだろあれは。


どうして肉体が崩壊しないんだ?」



フォラスは目の前で起きる現象を理解できずにただただ困惑する。



「俺たちネビュラシオンは、独自で精神エネルギーであるエナジーを生み出せないが、代わりにため込んだエナジーの変換や放出が自在にできるよう、エナジーに適した肉体を構築した。


一方で普通の人間はエナジーを生み出すことはできても、それをどうこうできない、垂れ流しの状態で……持っている武器やあの衣装で疑似的に俺たちと同じ状態になっている過ぎない。


しかしそれは、ザルをラップで包んでる様な状態に過ぎない。


感情の爆発でエナジーがありえないほどに高まることは多々あったが……それを器として閉じ込めれば装備が壊れるか、装備が壊れなければ高まるエナジーに耐え切れずに肉体が崩壊する。


一瞬ならばまだわかる……わかるが……だというのに……!」



「「はぁーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」


「ぐわぁぁあああああああああ!?」



フォラスの視線の先で、圧倒的なエナジーの奔流に押し負けたライオットが地面の上を転がっていく光景があった。



「なぜそれを維持できている?


身体の中で爆発が起きているようなものだぞ!」


「……なるほど、これがガーディアンズが見つけた希望というわけか」



その言葉はゲイザーではなく、イフリートからであった。



「おそらく、この世界の人間は我らの先祖だった物質文明の人類より進化した存在なのだろうな」


「……どういうことだ……いや、まさか……!?」


「ああ、肉体を持ちながら……我らと同様に、エナジーを操る才がある。


あの武器は補助としての能力を持っているが……飛行や防御に関しての魔法はそちらを介していない。


つまり、奴らは物質文明と精神文明の両者を複合した頂点にいる存在だ」


「……そんな、馬鹿な……」



イフリートの言葉に、フォラスは愕然とする。


それはそうだろう、フォラスにとっては今、目の前の少女二人はかつて滅んだ世界自身の世界の救世主となれたかもしれない存在だったのだ。


もし彼女たちのような存在が、フォラスがHESとなる前に出会っていたなら……そんなことを考え……そして彼は今も戦い続けるゲイザーを見る。



「……ゲイザー、お前は……彼女たちがそういう存在だと理解した上で、こんな作戦を立てたのか?」



そんな問いに、ゲイザーはヘルメットに覆われた顔を動かすことなく、ただ一言……



『最初からそう言ってるだろ』





こいつらが何を言っているのかよくわからない。


魔法少女にパワーアップイベントがあるのは昨今ではいたって普通のことだし……原理とか考えても仕方なくない?



『そもそも、魔法は精神が直接物理現象に干渉させる技術という時点で、物理的なことを論ずることすらナンセンスだ。


ネビュラシオンもガーディアンズの祖先も、そうやって限界を決めていたから突破できなかったに過ぎない。


逆にそんなことを知らない純粋な彼女たちは、その限界など通過点程度にしか捉えていない。


魔法の可能性を信じたものと見限ったもの……それが彼女たちとお前たちとの決定的な差だ』



とりあえずなんかそれっぽいこと言っとく。


内容をぼかした指示語で中身があるように聞こえる。


日本語ってこういうところ超便利!



「……そんな……簡単なことで……まさか……は、はは…………そんな下らないことが…………だったら……俺たちは一体……」



フォラスはもうなんか生気が抜け落ちたような顔をしてうつむいてしまう。


ネビュラシオンの中でも色々と知ってるから、彼女たちがフォラスの常識においてどれだけ型破りであるのか見せつけられてショック……ということでいいのかな?


まぁ、どうでもいい。


今はただ魔法少女たちの戦いをこの目にやきつけ――




「ぐはああああああああああああああああ!」




あ、ライオット負けた。


いやまぁ、善戦はしてたようだけど……うん、そもそもネビュラシオンの怪人ってもともと長期戦できないんだったね、エナジーを自分で生み出せないから。


ここまで魔法少女たちを相手にしてそこそこ魔力を消耗していたのでなおさらだろう。



「よし、次は俺が――」『いや、終わりだ』



イフリートが動く前にここで手打ちとさせてもらおう。



『これで想定通り、ということにしておく』





「これでっ!」

「決める!!」



パワーアップした萌香と奈月が構えて、五人で撃ったとき以上の出力の魔力を収束させてライオットに放とうとする。



「いける、いけるポム!」



パロンは今ここで、ネビュラシオンの幹部であるライオットを倒せると確信して拳をぎゅっと握った。



「く、そ……俺がこんな……こんな、ところで……!!」



外見にダメージらしきものは無いが、萌香と奈月の攻撃を防御のために多大なエナジーを使い続けて枯渇し、満足に体を動かすことすらできなくなっているのだ。


故に、もうライオットには回避も防御もできない。



「今よ、決めちゃいなさい!」

「これで勝てる!」

「二人とも、お願いします!」



他のネビュラシオンの怪人が割り込まないように警戒していた三人の魔法少女が叫び、その声にこたえるように萌香と奈月は頷く。



「「いっけぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」



そして放たれる純白の光


その圧倒的な力にうつむいていたフォラス、闘志を燃やしていたイフリート、無関心であったグラトニーですら脅威を抱いた。



「くっ……!」



そしてライオットは自分がここで終わるのだと悟り、目を瞑ろうとした。


その直前で、もっとも見たくない背中が視界に入る。



『Excellent』



風が発生する。


ついさっきまで逆に周囲が暗くなったかのような錯覚するほどの光が、一瞬でかき消された。


代わりに発生した風が、突風となって周囲に吹き荒れ……そしてテレビ局の建物のガラス窓を残さず破壊した。



『ああ、ああ、まったくもって、まったくもって……ああ、あえて言わせえてくれ!!』



頭上から降りそそぐ鋭いガラスの雨の中、その道化師の男は叫ぶ。



『君たちは最高だ!


やはり我の思い描いた通りの、最高の魔法少女だよ、君たちは!!』



先ほど、収束魔力砲を放った場所で喜ぶに叫ぶゲイザー



「……そんな、馬鹿な……」



その事実に、パロンは誰よりもショックを受ける。



「ありえない……あの魔法を…………真っ向から受けて無傷だなんて」



魔法少女たちのことだ、当たっても相手を殺すことは無いだろう。


だがそれでも、指一本動かせないくらいに相手にダメージを与えるのは確実なはずだ。


だというのに、その直撃を受けたはずのゲイザーはピンピンしている。


そして、パロンと同じような感想を抱いたのは他にもいた。



「……化け物だとは知っていたが、これほどか」


「どこまでもそこが知れん奴だ……!」



ゲイザーの規格外さに驚きを通り越して呆れるフォラス、そして引き攣った笑顔を浮かべるイフリート



「……さすが」



グラトニーはよくわからない。わからないがゲイザーのことを凄いと思っている。



『おっと、その前に……』



魔法少女を褒め称える言葉の途中でゲイザーは振り返って膝を地面に着くゲイザーを見た。



「……てめぇ……一体なに――を!?」


『貴様の負けだ、敗者は大人しく帰って寝ていろ』



ライオットに拳を打ち込むと、ライオットの身体は一瞬光を発してその場から消えた。


見れば、ゲイザーの手には何かを砕いたような破片が付いていた。


転移の魔法の発動のためのキーであり、それを使ってライオットをこの場から基地へと送ったのだろう。


ちなみに、殴る必要とかは一切無い。理不尽な八つ当たりである。



『さて、改めて見事と言っておこう、魔法少女。


そして……不本意ではあるが、この可能性に目をつけていたガーディアンズにも、その一点だけには素直に賞賛を送る』




異様な緊張感に包まれた空気の中で、ゲイザーの拍手が嫌に響く。


ついさきほどライオットを圧倒した萌香と奈月も、自分たちの全力の攻撃を受けてなお平然としているゲイザーを前に焦燥感に駆られる。



『さて、ピンクの魔法少女』


「……なんですか?」



指名されてビクッと体を震わせる萌香だが、弱気を見せてはならないと杖を構える。



『君はもう私と交渉をする余地はない……そう判断してるという認識でいいのかな?』


「……少なくとも、今のあなたは信用できませんっ!」


『今の……か。


なるほど……ということは――』



ゲイザーがその姿を消し、その直後にパロン、そして他の魔法少女全員の周囲がピンク色の障壁が展開される。



『Excellent』



障壁の張られたパロンのすぐ近くに、ゲイザーがいた。


当のパロンは障壁越しでもゲイザーが目の前にいるという事実に恐怖する。



『言葉を交わしつつも、しっかりと我のことを警戒して仲間を守る、か。


君は他の四人より出力が高いが、それ以上に防御技術に秀でているらしい。


これほど精密で展開の早い障壁はネビュラシオンでも知らないな』



うんうんと感心したように頷きながら、ゲイザーは元の立ち位置に戻る。



『つまり、君はもう完全に私を敵として認識しているわけだ?』


「……」


『もう一度問う。交渉の余地はもう無い。それでいいな?』


「…………今は、ありません」


『ほぅ…………今の私の行動を見てもまだそういうのか。


この関係がいい方向に変化する可能性が少しでもあると?』


「私は……ガーディアンズとかネビュラシオンとか旧文明だとかそういう難しいことはよくわかりませんけど……みんな、結局は同じ人間だったってことくらいはわかります。


それが戦うのはおかしいし……だけど……一方的に力で誰かを支配しようとする貴方たちが間違っている!


――だから私は、ううん、私たちは!」



萌香は奈月の手を握り、お互いに頷き合ってゲイザーを見据える。



「あんたなんかぶっ飛ばして!」


「貴方たちが間違っているんだって、はっきり理解してもらいます!」



力には力で抗う。


その覚悟を決めたが……それでも魔法少女たちは、最後まで自分の信念を捨てていない。


なんとも甘い、そして身勝手で、欲張りな考え方だ。


子どもの我儘と本質は何も変わらない。いや、そのものと言ってもいいだろう。


そんなの夢物語だと、ふざけるなと大人たちは言うことだろう。



『――ああ、まったく』



だが……この男は、目の前にいる最大の敵であるゲイザーは違う。



『「すっばっらっしぃいいいいいいいいいっ!!!!!!!!」』



大気が震えるほどの歓喜の叫びに、空間が揺れる。


一瞬だが、変声の魔法とマイクが地声を拾えきれずに少し漏れていたが、あまりに大音量で聞き取れた者はいなかった。



『あははははははははははははははははははははははは!!


いい、ああ、最高だ、本当に本当に本当に、君たちは最高だよ!!


あはははははははははははははあははははははは!!』



ヘルメットの上から額に手を当てるような動作で高笑いするゲイザー。


ただ笑っているだけなのに、まるで大音量のスピーカーの前に立っているかのように体がざわつく感覚に誰もが硬直する。



「なにが、おかしいんですか!」



その中で萌香はゲイザーをにらみつけ、本能が感じる恐怖を押さえつけて睨む。


それでもゲイザーは一切動じることなく、むしろ喜びを全身で表現する。



『おかしくなどないさ!


嬉しいのさ! 君たちのその在り方に、我は今、かつて感じたことが無いほどの喜びに体の震えが止まらなくなっている。


ここまで昂ったのは、生まれて初めてだ!!』



声が明らかに作られたものに変わっているのに、感情が乗っていることが誰が聞いてもわかるものだった。


それがどうしたといわんばかりに、ゲイザーは魔法少女たちを賛美した。



『ああ、本当に良かった!


ああまったく、本当に、ああああああああぁぁぁぁっ、駄目だ、もう言葉にならない!!


いったいどうしたらいい、どうすればいいんだこの気持ちはぁーーーーーーーーーーーー!!??』



絶叫しながら頭を抱えて身もだえするゲイザー


ハッキリ言って、気持ち悪い。


流石の萌香もこれにはドン引き


味方であるフォラスやイフリート、果てにはグラトニーすら今のゲイザーの姿に呆然としてしまっている。



『でも、だが、しかし、それでも、ただ一言、それでもこの一言だけは間違いなく言える!!』



ゲイザーは両手を広げて、高らかに宣言する。





『魔法少女である君たち五人を、心の底から愛している!!!!』





ゲイザーから発せられたその言葉に、周囲が再び無音となる。


魔法少女の誰もが絶句する。


しかし、そんな中でも萌香だけは!





「……やだこわい」





ですよねっ!

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