儚い系後輩美少女から見られていた件



「うーん……つまり、二人とも菊池斗真が戦闘員である可能性は低いと考えてるポム?」



場所はいつぞやも利用したカラオケ


ちなみに費用はパロル持ち。


そしてそんなパロルは今日、さっそく件の菊池斗真に接触した二人からの報告を受けて首を傾げる。



「ま、まぁ……やっぱり、不意打ちとはいえ、あっさり奈月の攻撃で気絶しちゃったし……」


「頑丈さはともかく、あいつに告白するような度胸はないわよ」


「ちょっと奈月!?」



バッサリと発言する奈月に思わず動揺する茜



「こ、告白!」

「詳しく」

「あ、茜先輩、告白されたんですか?」



そして、年頃の女子としてそういうった話題に食いつく三人の魔法少女たちである。



「重要なのはそこじゃないポム。


二人とも、彼が絶対に違うという確証は得てるわけじゃないポム?」


「…………まぁ……調べる前に気絶しちゃったというか」


「……私は別に悪くないから」


「そうね……奈月はむしろ私を助けてくれたわけで……」


「っ………………いいえ、やっぱり私も他の対処すべきだったわ」



茜にあっさりと非を認められてしまい、冷静になって奈月もやっぱり自分が悪かったと反省する。


ちょっとだけ見栄っ張りだけど、とてもいい子なのである。



「……うーん……記憶を覗ける協力者を呼ぼうにも簡単じゃないポムし……」


「記憶を読み取るのってそんなに難しいの?


記憶の封印魔法とか認識誤魔化すのとかすごく簡単だけど……?」


「記憶に関する魔法だけど、まったく別物ポム」



パロンは例題として、まだジュースの入ったグラスを二つ魔法で中身だけ宙に浮かせる。



「この液体が普通の記憶の状態だとしたら、記憶の封印は……こうして一部を凍らせているような状態ポム」



一方のジュースが空中で上半分だけ凍り付き、下半分は波打った状態を維持している。



「ここからゆっくりと記憶は解除されていくポムけど、人間の脳は前後の記憶にズレがあるとそれを自分に都合よく処理するポム。


だから数年後には記憶の封印は解除されているけど、封印された本人はそれは夢とか、何かの番組で見たものだと思い込んでいる状態になるポム。


極論になるポムけど、みんなが今いきなり昔自分は鳥だった、という記憶があっても、それを現実の記憶だとは思わないポム」


「あ、確かにそういう夢見たかもって思うかな」


「で、記憶の解読は、いわばこのジュースの成分を読み取っていくことポム。


しかも単に読み取るだけじゃないポム、おおよそ液体のこの部分、というピンポイントのポイントの成分を正確に読み取るという技術がいるポム。


凍らせるなら今時冷凍庫さえあれば誰でもできるポムけど、成分を読み取るならもっとたくさんの機材や知識がいるポム」


「…………………なるほどっ!」


「……萌香、あくまで例えポムから、そこまで真剣に考えなくていいポム」


「つまり、私たちみたいな基本的に魔法の素人じゃ人の記憶は読み取れないと?」


「蒼の言う通りポム。


記憶の読み取りができる人材は、かなり貴重ポム。


そして……こういう言い方は良くないポムけど、現状でのパロンたちのやっていることはガーディアンズ全体で見れば優先度はかなり低いポム。


今から応援を呼び掛けても、来てもらえるまで何日……下手すれば年単位かかるポム」


「そんなに待ってられないわよ!


あいつ、脅迫されてるのかもしれないんでしょ!」



奈月のその言葉に、パロンは頷く。



「その通りポム。だからこそ、向こうも必死に自分の正体をバレないようにするはずポム。


この間の鞭の音を利用するというのは……今にして思うとちょっと安直過ぎたポム。反省ポム」


「どういうことなの、パロン?」


「萌香、つまりは例の戦闘員が、あの音を聞いて私たちが探してるんだって気付いた可能性もあるってことだよ」


「えっと……つまり、仮に菊池斗真先輩が戦闘員さんだった場合、私たちの誰かに声を掛けられたり、監視されていること前提で行動してた可能性が高いってことですか?」



萌香は未だに状況がよく掴めていないようだが、この場で最年少の風花の質問に、パロンは頷く。



「もしくは、前から逆にこちらが彼に監視されていたかもしれないポム。


むしろそうでなければ、彼がこの場にいる全員とわずかとはいえ接点があるというのは不可解ポム」



パロンの菊池斗真に対する警戒はこの場の誰よりも強かった。


そして、それはまさに正鵠を射ている。



「……みんなが彼のことを認識してる時期を考えると、ネビュラシオンに入った時期と合ってるポム。


そんな早い段階からみんなのことを監視していたのだとしたら、非常に危険な存在ポム」



なんせ、現時点ではこの世界のネビュラシオンのボスはその菊池斗真本人なのだから。


頑張れパロン! 地球の未来は今、君の頭脳に掛かっている!



「……あの、私は菊池先輩は少なくともそんな危険な人じゃないと思います」



しかし、ここで意外な伏兵! 小緑風花!



「風花、あのパッとしない男子をなんでそう庇うの?」



不思議そうに尋ねる奈月。


いえ、そのパッとしない男子、君の探し人。



「庇ってるとかじゃなくて……実は、前に私、菊池先輩に助けてもらったことがあるんです」





それは二ヶ月ほど前のこと。


小緑風花がまだ魔法少女となって間もなく、そして菊池先輩のストーキングの成果が合わさって、小緑風花の通学バスに乗り始めた時期である。


魔法少女としての活動を始めたばかりの風花は、疲れからバスでウトウトとしていたときのことである。



「――テぇなガキ!」


「ひっ、え……!?」



唐突に怒鳴られて目を覚ます風花


見れば、明らかにガラの悪い男が睨んできていて、もうこの時点で風花は涙目になっていた。



「人の靴踏みやがってなんだこら!」


「あ、え、ご、ごめんなさい、その、ウトウトしてて……あの」


「ごめんで済んだら警察は――」「おい」



このまま目の前の男性に怒鳴られ続けてしまうのかと思った、その直後、横から延びてきた手が男性の肩を掴んだ。



「んだと、て――ぐがっ!?」



肩を掴んだのは、高等部の制服を着た男子――菊池斗真だった。


そして男性は、何故か菊池斗真に怒鳴ることは無く、蒼い顔をしている。



「――ちょっと、降りて話しませんか?」



そう言って、菊池斗真は停車ボタンを押す。


丁度バス停も近くだったので、バスはすぐに止まり、開いた扉から菊池斗真は男性を押しながらバスから降りた。



「あ、あの――」



小緑風花はどうしたらいいかわからず、呼び止めよとしたが、菊池斗真は振り返ることもなく扉がしまる。


そしてバスはそのまま発車し、菊池斗真と男性の姿は見えなくなった。





「――ということがあったんです。


あれから、あの怖い人がバスに乗ってる来ることもなくて……先輩も次の日には何事もなくバスに乗ってたので……なんだかお礼を言う機会を逃しちゃったんですけど……とにかく、悪い人じゃないと思いますっ!」



そう力強く語る風花。


萌香はその話を聞いて素直に感心し、茜もオタっぽいという印象からちゃんと男らしい一面もあるんだなと思った。


そこでふと、蒼が首を傾げる。



「今更だけど……私たちと風花の住んでる場所って、結構離れてるよね」


「え、あ、はい」



どうしてそんな質問をするのだろうと思いつつも頷く風花



「朝のランニングコースと、通学に使うバス……おそらくは風花の使うバス近辺に住んでいるはずだけど、朝のランニングコースが離れすぎている気がする。


往復で10kmは走ってることになるはず」


「「「「え……」」」」



朝から10kmも走っている、それも、ほぼ毎日となると思わず絶句する魔法少女たち。


どんだけ体力有り余っているのだと。



「……茜さん、菊池斗真は何か部活に入っていますか?」


「い、いいえ……最近はバイトしているって聞いたけど」


「具体的にはどんな?」


「流石にそこまでは……」



茜の言葉に蒼はしばし考えてから口を開く。



「……菊池斗真がネビュラシオンの活動をバイトと偽っている?」



※大正解。



「そしておそらく、私たちのについてネビュラシオンから調べるように言われていて、監視をしている。


朝のランニングも、同じバスに乗っているのもそのためと考えれば筋が通るポム」



※うーん、おしい! 完全に個人の意志です。



「茜に対する告白も、自分が監視されているという予想から妨害されることを読んだ上での演技だったという可能性もあるポム」



パロンの言葉に、奈月は腑に落ちないという様子だ。



「……かなり必死にがっついて告白してたように見えたけど?」


「な、奈月、蒸し返さないで……!」


「意外と満更でもなかったの、あれが?」


「だ、だから別にそういうのじゃないから!


――こほんっ……私としてはやっぱり他の人探す方がいいと思うのよね。たまたま最初に奈月の鞭の音に反応したように見えたけど、もしかしたら他にいるかもしれないし」


「……まぁ、絶対に違うとまではいわないけど、可能性は低いし他を探したほうが私も良いと思う」



奈月と茜は戦闘員は菊池斗真ではないので優先度は低いと思っている派

※奴の思惑に嵌っているぞ!



「一度しっかり調べた方が良いポム


これは下手をすればみんなの安全に関わるポム」


「うん、白黒はっきりさせるべき。もっと強引にでもするべき」



パロンと蒼は戦闘員が菊池斗真と同一人物で、かつネビュラシオンの尖兵で敵であると思っている派

※おしい! だが一番真実に近づいているぞ!



「調べるのは仕方ないとしても……あまり強引なのはいけないと思います」


「私も……本当は単なる偶然だった、ってこともありえなくもないし」



風花と萌香は、菊池斗真はいい人と思ってる派。

※いいえ、頭のネジが外れてるヤバい変態です。





――という一連の会話を、僕は隣のカラオケの部屋で聞いていた。


本来ならば聞こえない会話も、強化された聴力なら可能だ。


いやー、気付けの魔法とか全然効かないけど、あの程度のダメージなら数分もあれば気絶から復活できるから楽だよね。


しかし……こまったな、普段のストーキングがここで祟ってしまったか。


僕がゲイザーであるかという疑いは薄れている一方で、あのマスコットと皆瀬蒼からの警戒心が上がってしまった。


日向萌香と小緑風花については現状維持ってところだが……それにしても、懐かしいことを思い出させてくれる。


あれってそんな美談でもないというか……あの腐れ外道、わざと小緑風花に靴を踏ませて難癖つけてたんだよな。


しかも彼女を見る目が気に食わない。


あれは明らかに最も僕が毛嫌いする、純粋無垢な物を穢すことに悦楽を感じる類のものだった。



――だから人気の無い所に連れ込んで、当時まだ弱かったグラトニーに生きながら食わせてやった。


人目はもちろん、カメラとかもない場所を選んだし、もともとロクデナシだったのか未だに捜索届とかも出てないみたいだし、別に社会的に消えても問題の無い奴だったみたいだし。



っと、別にどうでもいいか。


今の問題は今後どうやって彼女たちの追求を逃れていくのかってことだ。



「幸い、今のところ僕を監視してるのはあの五人と、マスコットのパロンだけ、か」



これなら監視を出し抜くのはそう難しくない。


魔法少女たちにも生活はあるし、パロンだって、いつどこでネビュラシオンが現れるかわからない以上は魔法少女たちから迂闊に離れられないからね。



「さて……となると問題は明日、誰が何をしてくるかだけど……」



一番厄介なのはパロンだが、奴は直接接触はしてこない。というかできないだろう。


あんな珍妙な生物が目の前に出てきたら、馬鹿な高校生を演じて奴を捕獲してTV局に売ってやるつもりだ。


少なくとも高坂茜と元上司……柴野奈月は直接接触はしてこないだろう。


第一候補としては行動力が抜群に高い日向萌香


次に皆瀬蒼で、小緑風花の順番だが……全員明日の朝に合う面子だし、何か仕掛けられるだろうな。


――しばらくランニングを控えてバスにも乗らない?


一時しのぎどころか余計に怪しまれる。何より魔法少女の姿が見えないとか地獄だ。論外。



「……しかたない、フォラスに貸し増やすか」



そう呟いて、僕は気配と足音を極力決してカラオケ店から出た。


僕一人では限界があるし、そもそも僕はネビュラシオンの総帥なのだから、部下を使って当然だ。





こっそり隣で盗聴していた奴がいたことなど露知らず、魔法少女たちの会議は続く。



「ひとまず、明日、直接話したほうがいいよねっ」



ぐっと手を握りながらそう言ったのは日向萌香だった。



「早速ランニングの時に声かけてみる!」


「だめ」


「え、なんで蒼ちゃん?」


「菊池斗真が危険な可能性が少しでもあるならここは控えるべき。


一応記憶を消したなら、それを確かめるために茜さんがもう一度行くのが順当」


「え……えぇ!?」



蒼の発言に、顔を真っ赤にする茜


まさかまた明日も接触しろと言われるとは思っていなかったらしい。



「べ、別にそこまでしなくても……きっと違うわよ、あいつ。


別の人探しましょうよ、ね?」


「いくら気まずいからって私情を優先するのはどうかと思う」


「うっ…………で、でも……よく考えたら、鞭の音に反応したのって落とした消しゴムを拾おうとしたいたような……」


「食事中に、何も落としてないのに明らかに明らかに動揺したって確信をもって言ってたのに?」


「うぅ…………」


「それに、奈月以外の私たち全員に少しでも接点がある以上、菊池斗真の正体を確認しないわけにはいかない。


仮に、戦闘員じゃなかったとしても、現時点で他のネビュラシオンのスパイという可能性が出てきてるんだから」


「蒼の言う通りポム。


彼の身の潔白を証明する意味でも、ここは茜にもう一肌脱い欲しいポム」


「私に脱げとっ!?」


「いや、この国の普通の慣用句ポムよ……?」



蒼に同意したパロンのその言葉に、混乱した蒼は額面通りに言葉を受け取って自分の身体を抱きしめる。非常に混乱しているようだ。



「やめた方が良いわよ、絶対に次は落ちるから」


「落ちるって何が!?」


「うーん……流石にガーディアンズとしても恋人ができてしまうのは極力遠慮してもらいたいところポムけど……茜がどうしてもというのなら……仕方ないポム」


「どっちの意味、それ? え、違うわよ、全然タイプじゃないから!


菊池のことなんて全然まったく、これっぽっちも異性として意識とかしてないから!!」



顔を真っ赤にしてそう叫ぶ茜だが、そのリアクションを見るとより一層の不安を覚えるパロンである。



「……じゃあ、奈月はどうポム?」


「任せて。ところで、殴って確かめるのってありかしら?」


「他に誰か意見ある人はいないポムか?」

「ちょっと」



奈月のお願いを叶えるための会議だが、まさか当人が一番向いていないとは、これ如何に。



「――しかたない、ここは私が行く」



そうして立ち上がったのは、皆瀬蒼だった。



「蒼ちゃん、どうするの?」


「どうせ会話に持ち込んでもはぐらかされる。


なら、もっとシンプルに済ませればいい。


古今東西、調べ物は足を使うという手段は廃れていない」


「……蒼先輩、もしかして」



察しの良い後輩・風花の言葉に蒼は頷く。



「明日、菊池斗真を尾行する」






※今回の結果

――菊池斗真 疑惑度stay


対象

――パロン 疑惑度up(大)

――皆瀬蒼 疑惑度up 好感度stay

「頑張れ!」


――高坂茜 疑惑度down 好感度stay

――柴野奈月 疑惑度down 好感度stay

「まぁ、まだ小一時間も経過してませんしね」


――日向萌香 疑惑度stay 好感度up(微)

――小緑風花 疑惑度stay 好感度stay(初期値高め)

「目を覚ませ!」

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