第14話

 人々の間で恐れられる宗教がある。それがアークス教。

 教祖アークスが千九百年前に作り、今も続く宗教だ。

 このアークスは千九百年前から今も生き続ける人であり神とされている存在だ。


 教祖アークスのもとに三大司教と呼ばれる者もいる。黒炎、黒氷、黒雷の異名を持ち。始まり、続き、終わりを司る者達とも呼ばれる。


 何故、アークス教が恐れられるか。簡単である。アークス教は殺戮をもたらす。村を滅ぼし。街を滅ぼし。かつては国を滅ぼした。村が突如消滅する原因の一つがアークス教と言われるほどだ。


 だが、そんなアークス教の教徒は以外に多い。教祖アークスによる奇跡が多くの教徒を集める。


 曰く、不治の病を治した。曰く、失った足を治した。曰く、目が見えるようになった。曰く、耳が聞こえるようになった。曰く、死者を甦らせた。


 眉唾な噂があるものの、その話しを信じて藁にもすがる思いで入信し、信徒になるものはちらほらいるのだ。





「ちっ! 防がれたか! お前達! やれ」


 ビリスが舌打ちをして、背後の信徒に指示を出す。信徒は即座に構え、武器を何処からか出してきた。剣士三槍二、うち剣士の一人は二刀流。そして、一気に距離を詰めてくる。


 俺は盾を構えながら敵の動向を伺う、一瞬で二刀流が消え、俺の右真横に出現する。疾駆か!


 疾駆。補助スキルで、魔力を使用すると一歩で一気に数メートルを移動出来る。 傍目からは高速で移動するように見えるため、奇襲に向いたスキルだ。


 二刀流の男は俺に横薙ぎに右の剣を振るってきた。俺はそれを身体を後ろにずらして回避し、即座に盾を奴に向けようとするが、奴は振るった剣をそのままに俺の盾を遮る。


 ガキン! と音がし、止められたと直感した俺は奴の左腕の動きを見定める。突きか横薙ぎか。腕を引くのが見え、突きと直感し、切っ先を見つめて動きに注視した。


 そして、腕が伸び始め、剣の進む方向が分かった。俺の右脇腹を狙っているのが分かったので、即座に身体を左横にずらし、右腕をあげて逆に距離を詰める。


 剣がハーフプレートを滑りながら二の腕の下を通り過ぎ、俺と奴の顔が目と鼻の先まで近づく。怯むことなく、俺は盾を離して奴の右腕を掴み俺の右腕を閉じて奴の左腕を固定した。


 そして、奴の額に渾身の頭突き。後ろへのけ反る二刀流。だが、途中でとまる、俺が両腕を固定しているからだ。


 のけ反る奴の右腹部に右膝蹴りをかまし、拘束を解除する。最後に掌底を胸部に打つと、まともに入り、吹き飛んでゆく。


 横を見ると他の四人がすぐ傍に来ている。もし、俺一人ならばこのままズタズタにされるだろう。だが、今回は頼もしい仲間達がいるのだ。


 三人の人影が俺の横を抜け、四人とぶつかりそれぞれ分断して相対する。

 俺は足元にある盾を素早く拾い、盾で奇襲を防いだ。ビリスが魔術を使ってきたのだ。恐らくはウィンドカッターだろう。


 ウィンドカッターは簡単にいうと、風の刃を飛ばす。切断力は高いのでなかなかに危険ではあるが、風切り音で判別が出来るので対処は難しくない。


 盾をビリスに構えながらキャスティーに目を配る。

 キャスティーは呪文を唱えている最中だ。

 目でビリスは任せたと目配せすると、キャスティーも目で任せろと返事をしてきた。


 先ほど吹き飛ばした二刀流に視線を向けると、すでに体勢を立て直しこちらを見ていた。


「まったく、油断しちゃって恥ずかしいねぇ。盾一つの男に吹き飛ばされた気持ちはどうだ?」


 挑発をして奴を揺さぶりをかけてみた。攻撃が雑になってくれれば御の字なんだが。

 奴は何の淀みもなく剣を構え始めた。


「少しは反応してくれてもいいのにな。仕方ない。また、吹き飛ばしてやる」


 盾を奴に構え、臨戦体勢をとると、二刀流が疾駆で俺の背後を取ってきたので、即座に身体を捻らせ後ろ蹴りを放つ。二刀流はなんとかガードするが体勢を若干崩している。


 二刀流へと向き直り、奴の動きを観察する。俺に決定打はない。悲しいことではあるが、ないなりにやらなければいけないのだ。さっさとこいつらを縛り上げて情報を聞き出す。やっと見つけた手掛かりなんだ。


 二刀流が再び駆け出し、流れるように二本の剣で連続斬りをしてくる。


 右、左下、右上、左、と俺の隙を誘う。その全てを敵の行動を予測しながら防いでいく。親父から教わった対人戦での知識を生かして。


 チャンスは奴の攻撃が途切れる瞬間。連続攻撃の後には必ず一呼吸おく。その隙を狙う。

 奴が大振りな攻撃の予備動作を始めた。


 今だな。奴が右の剣を振り上げ、振り下ろしてきた。

 その瞬間、奴の右側面へと流れるように回避する。全ての攻撃を盾だ防がれた奴は大きく体勢を崩す。


 俺は奴の首目掛け右腕を叩きこむと、「ぐひゅっ」と呻いて後ろに半回転して、頭から地面に叩き落ち、気絶する。


「バッシュの足元にも及ばねぇな」


 俺は辺りを見回そうとすると、ハドックが二人を引き付けて残像を残しながら高速移動をし、敵を翻弄している。

 大方欲張って二人取ったんだろう。あいつらしいが。


 ガルフェンは槍持ちの一人を相手にしており、リーチは同じ筈だが、一方的に攻撃をしていた。


 それはそうだろう。ガルフェンから繰り出される攻撃の威圧は凄まじく、暴風の如き風圧を伴う。

 あいつが本気を出せば、さしずめ、竜巻のような爪痕を残すからな。


 中々に踏み込めず、二の足を踏んでいる敵に対し、ガルフェンが突如大振りの縦斬りをかます。


 簡単に横に避けられてしまい、反撃と言わんばかりに槍持ちが突きを放つも、その前にガルフェンが返しの横凪ぎで吹き飛ばしてノックアウトさせる。


 大振りな一撃で油断させてからの止めという単純な手だが、ガルフェンという暴風を前にすれば隙をつきたくなるのは仕方ないよな。


 カタリナを見れば、剣持ちの敵相手に堅実な戦闘を行っており、確実に盾でガードしながら剣で攻撃をいれている。


 流石に突破出来ないと悟った相手は、回り込むようにスライドするが、盾の影から突き出された剣に足を斬られ、体制を崩した所へ両足を切断されて無力化された。


 キャスティーは既に戦闘が終わっており、ビリスの周囲には氷が張り巡らされ、ビリス本人は闇魔術で生成された影に拘束されて眠っている。


 ま、キャスティーの魔術はとんでもないからな、並の魔術師じゃ太刀打ち出来ないだろ。


 さて、最後にハドックだが、丁度止めを・・・刺していた。ざっくりと。

 あいつ馬鹿だな。


「この馬鹿ハドック! 殺してどうするんだ! 情報が引き出せないだろ! この馬鹿槍!」


「へぶ!」


 当然のようにハドックがカタリナに怒られ、顔面に一発拳をくらう。ざまぁ! 普段の行いが悪いから天罰がくだったな。


 戦闘が終わり、生きているアークス教の信徒達を縛りあげた。二人ほど左足と右手首が切られていて止血をしたのだが、その方法がキャスティーの火魔術で焼くという恐ろしいものだった。しかも切断したのは女性陣である。女は怖い。


 ハドックはこのあとカタリナにどやされるのが確定して小さくなり、ガルフェンは何故か青ざめている。

 キャスティーが怖い笑顔でガルフェンを見ているんだが、何があった? とりあえずガルフェン憐れだ。

 フェルトさん達は離れた所で様子を伺っており、血を見て怯えているようだ。


「さて、話を聞こうかビリス」


 俺は一番話が早そうなビリスの前にいく。普通に聞いても自白しないだろうから、ちょっと怒らせるか。


「ふん、イレギュラーが、調子に乗るな。アークス様を裏切るわけがないだろう」


「はぁ、バカークスにそこまで忠誠心があるとはね、バカースも幸せもんだ」


「キサマ! アークス様を愚弄するな!」


「愚弄なんてしてないよ、バカス様は素晴らしいもんな。ヘッポコ三大司教様もな」


「コロス!」


 簡単に挑発に乗ったよ。


「はいはい、なんでバカにそこまで忠誠心があるか知らんけど頑張って」


「キサマァァァ!! バ……アークス様は私の娘を病から治してくださったのだぞ! キサマには必ず三大司教様の天罰が下る!」


 ……今バカって言いかけなかったか? 怒りで頭がいっぱいいっぱいなんだな。


「じゃ、天罰を受けにいくから居場所教えろ」


「ふん! 近くに……いたっ! ……えっ? ……うぐ!」


「はっ? おい?! 」


 ビリスが痛みを訴え、ぐったりする。他の信徒もみな前のめりになり動かなくなった。


「くそっ! 自決した!」


 奴等の太ももを見ながらカタリナが叫ぶ。そこには黒い針が刺さっていのだ。

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