第12話

 心が寒い。神は何故、俺にここまで試練をお与えになるのか? 俺が何をした。ただ、幸せを願っているだけなのに。理不尽だ。本気で好きなのに。嘘だと言ってよフェルトちゃん!!


 この世界で禁忌と呼ばれ、恐れられるスキルがある。それは魅了スキル。


 魅了スキル。封印指定された禁忌のスキルで、異性を虜にする。と、言われているが。実際は、もっと悪辣で悪質だ。なにせ、異性の好感度を最大にして意のままに操る。このスキルでかつては内戦、国家間の戦争、国が滅ぶ、などがあった。


 成人の儀式で魅了スキルが見つかった場合、まず拘束される。その後、五神教が抱える結界魔術が使える者に魅了スキルの封印が施される。


 この封印の術式は心臓の真上、胸に刻まれる。もし封印を解こうとした場合、心臓を潰すためだ。

 男はこの術式をタトゥーがわりにして誇らしくすることもある。実際、俺は魅了スキルを封印してますよと、アピールして信用を得ることも出来る。


 だが、女性は違う。胸に術式がある、それは女性にとっては果てしない苦痛を生む。愛する男性との営みに見られ、相手は気にしなくても自分が気にしてしまう。申し訳なく思ってしまうのだ。


 そして、愛するわが子への授乳、これも苦痛になる。片方だけを赤ちゃんに飲ませるで済む訳はなく。赤ちゃんにも自分にも負担が掛かる。わが子にこの術式が見られる苦痛。まさに、女性にとっては地獄なのかもしれない。


 ちなみにだが、成人の儀式を受けないと、その自治体そのものが罰せられる。多分、勇者や聖女、その他の強力なスキルを発見して、確保するためだと思われる。


「フェルトちゃん……どうして……」


 俺は今ケーキ屋に来ている。店内のテーブルに座り、苺ケーキをつついていた。

 一口サイズに切り分けたケーキを口に運び、思案に暮れる。何故魅了スキルが使えるのか。簡単な話だ、成人の儀式を受けなかったのだろう。そして、今どこにいるのか。


 現在、フェルトちゃんは指名手配中だ。捕まれば死罪が確定しているが、どうやら自宅には戻っておらず、今だ行方をくらましたままだ。


 あと、フェルトちゃんの魅了が発覚した理由だが、お忍びで来た、さるお方の状態異常が屋敷で発覚して騒ぎになったとか。リーゼちゃんはどこの伯爵様かは言えないと指でちょめちょめしてたが。可愛かった! すぐに自分の失言に気づいてあたふたしてた。めちゃ可愛かった!


「……ひとまず、フェルトちゃんを見つけるか……」


 俺の魅了は無効になっている。これも盾のお陰だろうな。盾を持った時に感じた何かが抜ける感じ、あれは魅了スキルの解除だったようだ。


 だが、俺は今だにフエルトちゃんが好きだ。この思いはまさしく愛なのかもしれない。

 魅了スキルで毎日いく、これだけが有効だったのだろう。思うに、フェルトちゃんは店のことを思って毎日くるように魅了していたのかも。


「フェルトちゃんを助けなきゃな」


 俺は愛する女性を守ると誓い、熱い思いを胸に颯爽と店をでる。


「お客さん! お会計!」


「ごめんなさい!!」


 店員の冷たい視線を背に、俺は気まずい気持ちになりながら再度、店を出た。




「でも、フェルトちゃんはどこに隠れているのかな?」


 まず、自宅はありえない。兵士が見張っているだろう。

 それでは街の外か、それもありえない。街を囲っている外壁の門には兵士が常にいて通れない。


 ならば友達の自宅かだが、匿っているのがバレたら友達も死罪だし、すぐに捜査の手が回るので流石に難しい。

 だったら魅了した男性の所か。それは確かにあり得る。


 とはいえ、客の男性に兵士が向かい魅了を解除して回っているとリーゼちゃんから聞いた。ではそれ以外の人間、適当な男性に魅了を掛けて匿ってもらう。これは十分あり得る。可能性は大だ。


「どうする? 結構厄介だなこれ」


 もし、適当な男性に匿ってもらっているとなれば、見つけるのは困難だ。流石に一軒一軒回ることは出来ない。


 あれ? もう八方塞がりかな? 何かいい手はないかな? だが、俺が彼女の助けにならねば。

 すでに手詰まり感がある中、おれは街中を歩く。すると。


「アルヴィン、何小難しい顔して歩いてんだ?」


「ん? ガルフェンにキャスティーかよ。デートか?」


 ガルフェンに声を掛けられ振り替えると、ガルフェンとキャスティーがいた。殺意が沸くな。あとで埋めるか。


「バカ、見りゃ分かるだろ。ギルドに簡単な依頼でも受けにいくかと思ったんだよ」


「そりゃそうか、そんな格好でデートはないな」


 ガルフェンとキャスティーは戦闘用の格好をしていた。まぁこの脳筋がデートとかありえないよな。もし、デートとかいったら明日の朝日は拝めないと思え。


「アルヴィンはどうしたの? 何か問題でもあったの?」


 キャスティーが俺に聞いてきた。キャスティーはいつもキレイだな。結婚するならこんな女性がいいな。ガルフェン明日の朝日は拝めないぞ。


「……実はさ……」


 二人にフェルトちゃんの件を話した。何かいい案はないかと思って。


「アルヴィン……」


 二人が同時に俺の名前を呼び、哀れな男を見る顔を向ける。何で? 俺は愛に生きる男よ? 愛の戦士よ?


「なぁ、アルヴィンこんなこと言いたくないが。やめたほうがいい。お前も死罪になるぞ」


「そうね、悪いこと言わないから、ね?」


「でも! 何か理由があるかもしれない! あの娘はとてもいい娘なんだ! きっと誰かに脅されてるんだよ!」


「アルヴィン……」


 また、二人は俺の名前を呼び、不憫な男を見る顔を向ける。

 くそっ! 俺はおかしなこと言ってないはずだ! 大切な女が危なきゃ助けたいと思うのが漢ってもんだろ!


「もういい!お前らに話したのが馬鹿だった!俺1人の力で見つけ出して守り抜いてやる!」


「うおい! 落ち着け! 早まるな! まず状況を整理しよう!」


 くっ! 俺は1人でも彼女を守る! 例えこの世界全てを敵に回しても!


「アルヴィン、まだ魅了が続いているんじゃない?」


「何いってんだよ俺には聖印のた……なんでもない」


「聖印のた? なにかしら? 教えてくれるわよね?」


「ぐっ、しまった……」


 俺は自身の迂闊さを呪った。キャスティーの端正な顔に近付かれると抵抗出来ない。これが童貞の性か。


 結局、俺は聖印の盾を説明した。まっ、こいつらには話しても大丈夫だろ。後でバッシュにも説明しないと。


「それは凄いな、付与三つはとんでもないな」


「えぇ、正直国宝ね。あなた、絶対他には言わないでね? ハドックやバッシュさんならまだしも」


「勿論だ。こんなの命がいくつあっても足らん」


 通常、魔装具に付与される効果は1つだ。よくて二つ。二つもついたらかなりの高値になりやすい。だから付与が三つ付いている段階で破格の金額になるだろう。


「いいなー。俺もそんなの欲しいなー」


「お前は盾使わんだろ」


「まぁな、でもそんなのが報酬で出たら一生分の金にはなるな」


「金にする前に殺されるわ! てか、ハドックには言わないぞ。カタリナには言ってもいいけど」


「俺とカタリナが何だって?」


 そこには槍を担いだハドックとカタリナがいた。カタリナは白い鎧を纏い、まさに女騎士の装い。くっ殺が似合うな。バインドしたくなる。バインドしたら目に焼き付けないとな。


 ところで、お前らはあれか? 俺への当て付けか? いいぞ買ってやる。愛の戦士を舐めんな。


「おっ、カタリナ。どうしたんだ今日は?」


 カタリナに普通に挨拶をした。うん、やっぱカタリナは清楚で可愛いな。なんていうんだろ、とても心が洗われるっていうか、邪な気持ちが流されるっていうかね。悪い考えが浮かばないな。……あれ? さっきなんか考えてた気が……。


「てめぇ、俺は無視か、あぁん?」


「あっすまん、影が薄くて気付かなかった」


「目の前に居たよな! 俺な!」


 いや、目障りなのは出きるだけ目に入れたくないだろ? そういうことだ。ところでこのやり取り既視感が。なんだっけ?


「ハドックお前もこのバカを止めるの手伝え」


 ガルフェンが余計なことをハドックに言い出す。やめろバカ。あとバカにバカ言われたくない。

 ガルフェンとキャスティーが二人に今までの話しを説明していた。


「アルヴィン……」


 二人が同時に俺の名前を呼び、愚かな男を見るような顔をしてきた。おかしい、解せん。


「いやっ、そのなんだ。ショックなのは分かる、だがやけを起こすな。俺が奢るから少し飲みに行こうぜ」


「そうだよ、アルヴィン。僕達が話を聞くからね?」


 カタリナの気遣いは嬉しい。出来ることなら二人きりで飲みたい。高級なレストランとかで。

 でも、俺にはフェルトちゃんがいるんだ。彼女との新しい未来のため、何とかしたい。


「いやっ、実際さ、フェルトちゃんが何処にいるか気にはならないか? このままじゃ問題なのは変わらんし。もし、トラブルが発生したら不味いだろ?」


 俺は別の方法をとる。それはこのままにしておくとまずいですよ作戦。これならこいつらが手伝ってくれるかもしれない。あわよくば見つけ出し、二人で愛の逃避行としゃれこむか。完璧だ。


「確かにね、このままじゃ確実に騒動が大きくなるかもしれない。例えば後ろに大きな組織が絡んでたりとか。僕も無視出来ないかも」


「まぁ、無視出来ないのは確かだな、兵士達に恩を売っておくのも悪くない」


「ハドックとカタリナがやる気なら俺もやるかな。依頼受けるよかこっちのほうが面白そうだ」


「まぁ。ガルフェンがやるなら私も探すわ」


 よしっ! 成功だ。これで使えるかは知らんが駒が出来た。あとは怪しそうな家を見て回るか。


「よしっ。とりあえず聞き込みでもするか? フェルトちゃんの顔は俺がわかるからな」


「うん。そうだね君達男性陣が魅了されても僕たちがいれば大丈夫かな。キャスティー?」


「えぇ、あとアルヴィンは大丈夫よ。盾があるから」


「盾?」


 あっ! ダメ! カタリナには説明していいけど、ハドックはやめて!

 キャスティーが二人に盾の説明をする。


「凄いじゃないかアルヴィン! おめでとう! 僕も欲しいなぁ」


 カタリナよ結婚してくれるならあげるぜ? どうだい? 俺は尽くすよ。くっ殺プレイはいいね。


「荷物係の盾野郎にはお似合いだな。盾の影に隠れてればいいさ」


 ハドックは相変わらずだな。知ってた。


「とりあえず行きますか。バッシュと合流して一緒に探してもいいな」


「あっ! バッシュさんか。いいね。何処にいるんだい?」


 俺は駒が多いほうがいいのでバッシュも巻き込む。するとカタリナが居場所を聞いてきた。


「墓参り。多分ギルドにいってんじゃね?」


「よっしゃ! じゃギルドいこうぜ!」


 ハドックが張り切って歩きだす。いやちょっとまて。


「ハドック、こっちが近道だ」


 俺は路地裏を指差しこっちだと呼び戻す。ハドックがうぐっ、といいながら戻ってきた。

 俺達は路地裏に入る近道を行く。そういえば、昨日はあいつと路地裏であったな。くそっ、腹がたってきた。さっさとフェルトちゃんとゴールインしないとな。癒されたい。

 すると、横から人が飛び出し俺とぶつかる。


「うぉ!」


「きゃ! ごめんなさい!」


 俺は硬直する、聞き覚えがあるその声に、身体が麻痺したように動かなくなったのだ。

 個室で二人きりの空間、俺を常に癒し。恋い焦がれた声。全ての疲れを洗い流し、明日への気力を沸かしてくれる美しい声。

 そこには彼女、フェルトちゃんがいた。


「フェ……ルト……ちゃん」


「うそっ……アル……ヴィンさん」


 俺は頭が真っ白になった。

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