第4話

 イフリムの街中央部。この都市の重要な資源であるイフリムダンジョン。


 その入り口はまるで覆い隠すかのようにドームが作られており、ダンジョンから魔物が溢れた場合の防波堤の役割を持つ。


 そのドームを囲むように多くの露天が軒を連ね、ダンジョンを出入りする冒険者をターゲットに、飲食物、武器と防具、各種ポーションや薬品などが置いてあり、冒険者達は必要かどうか話し合いながら購入していく。露天で買い物をし、準備を整えてからダンジョンに潜るためだ。


 だが、今日は心なしか冒険者の数が少なく、露天も何件かだが閉まっている。

 恐らくは午後から勇者パーティーのパレードを見に行くためであろう。


 閉まっている露天は、商売人としての直感か、稼ぎ時だとパレードの予定地に行き、出店するための場所取りに向かったと思われる。


 そんないつもよりどこか寂しい露天の通りを俺達バッシュ組は歩いていた。


「やはり今日は冒険者が少ないな」


 バッシュが周囲を見渡して呟き、俺も同じように見回してみるが、本当に人が少ないなと心の中で呟く。


「あぁ、やっぱ皆、勇者をみるために今日は休みにするんかね」


 俺はバッシュの呟きを聞き、俺のの予想を口にする。恐らく十中八九さうだと思うが。


「それに、少ないおかげでボスにスムーズに挑めるかもな」


「あ~~……確かに 、そうかもしれませんね」


「……バッシュの言うとおり、スムーズにいけるといいな。いざボス部屋の前まで来たら、他のパーティーが複数いるとモチベがだだ落ちだからな」


 ダンジョンのボス部屋は一度戦闘が始まると、入り口は光の壁で封鎖される。この壁の光が難癖あり、ボス部屋から出ることは出来ても、外から入ることが出来ない。


 他のパーティーに邪魔されないと思えば都合はいいが、他のパーティーが攻略中だと待ち時間が発生する。しかも、なん組もいるとそれだけ長い時間を待たなければいけない。


 ならば複数のパーティーが同時に入ればいいのではと思うだろう。問題はボス攻略後の報酬にあるのだ。


 ボスを倒すと部屋の真ん中に宝箱が出現し、中に報酬が入っている。この報酬はランダムではあるが、時折かなり貴重なアイテムが出現する。もし、複数パーティーで攻略中にそんな物が出たら確実に揉める。



 実際にそんな事件が何件かあったらしい。そして、全てにおいて凄惨な結果で終わっているらしく、冒険者同士の暗黙の了解で、複数パーティーによるボス攻略は行わないことになっている。


「ところで後ろの女性陣はいったい何をあんなにはしゃいでいるんだ?」


 後ろでキャッキャッと騒いでいるリズとヴェラが気になったようで、マルサスに聞くバッシュ。


「さぁ、レディーストークだとか言って近寄らせてくんないんすよ」


「さっきちらっと聞いたんだが、勇者ってイケメンなのかなとか言ってたぞ?」



 午後から見れるであろう勇者について、二人は盛り上がっているんだろうな。



「はぁ? マジかよ、俺よりイケメンなわけないだろうが」


 おっと? 自分でいうか、マルサス君? 自意識過剰すぎないかね? 見たまえ、バッシュが凄い苦笑いして困ってるぞ。いやまぁお前イケメンだけどね。


「ははっ…、そういえば三聖女は美人なのか?」


 こっちは聖女かい。


「どうなんでしょうね? 噂ではかなり美人らしいですけど」


「知るか、どうせ三人共勇者の嫁なんだから気にしてもなんにもならねぇよ」


「……急に機嫌が悪くなったな、アルヴィン。朝もそうだったけど勇者と何かあったのか?」


「いや、勇者とは面識すらないぞ? ただ美人三人を囲んでハーレムやってる勇者が羨ましいだけだよ」


「俺と違ってモテないもんなwww」


 草はやすなマルサス! ムカつくわー。

 さっきから女性がすれ違う度に二人を見て固まってるのを見せつけられて腹が立ってんだからさ。


 俺が理不尽な格差社会を実感していると、無事ドームにたどり着き、内部に入る。

 このドームの中にダンジョンの入り口があり、入る際には受付に手続きを済ませる必要がある。

 この手続きによって、誰がいつからダンジョンに入っているかが管理されている。

 バッシュが早速受付に向かい手続きを始める。マルサスら三人組も自分の装備類のチェックを始める。


 俺も装備を整えますかね。


 おもむろに自分のフロントプレートに右手を突っ込み、懐にあるポーチを触る、すると目の前にアイテムの一覧が表示される。この一覧はポーチを触れている場合にみえる。


 実はこのポーチ、ただのポーチではなくマジックポーチと呼ばれる物だ。


 ポーチ内部は空間魔術が掛けられており、内部にアイテムを収納出来る。マジックポーチの性能は結構バラバラで、収納量が馬車一台分入れば優秀な方である。


 俺のポーチの収納量は不明。……そう不明なのだ。しかも時間経過なしの優れ物。そしてこのポーチは母の形見でもある。先祖代々受け継いでる家宝らしく、絶対に手放してはいけないと子供の頃から母に言われ続けてきた。


 ちなみに、俺がマジックポーチを持ってることをパーティーメンバーには話していない。 マジックポーチ自体が一つの宝であり、このポーチの性能を考えれば国そのものが動く。間違いなく。


 そんな物を持ち歩いてますよなどとは、仲間内でも言えるわけがない。まぁポーチを盗んでもどういう訳か俺意外このポーチからアイテムを出し入れ出来ないけどな。


 マジックポーチのリストを見ながら目的のアイテムを見つけ、マントの内側に出現させ左手で持つ。出現したのは小剣だ。この小剣は俺が十四の時に父からプレゼントされた物で父からの最後の贈り物となってしまった。


 俺は右手でマジックポーチに触れ、小剣を見つめながら、二人とも今日もダンジョンに潜ります。どうか見守っていてください、と祈る。


 祈り終えて小剣を腰に装備してバッシュを見ると、手続きが終わったようで、こちらに向かってくる。


「皆準備はいいか?」


 バッシュの確認に俺達は無言で頷く。皆、先程の浮かれた顔は何処へ行ったのやら、表情を引き締めている。


「じゃあ、ダンジョンにいきますか。くれぐれも油断して無駄なケガとかしないようにな」


 そういうと、バッシュはダンジョンの入り口へ向かい始め、俺達もその後ろをついていくように歩き出す。


 ダンジョンの入り口に到着すると地面に魔法陣が描かれた場所があり、そこで一度止まる。

 これは転移魔方陣であり、一度到達した階層の入り口に転移するというとんでも装置だ。


 階層の入り口となっているがボス階層だけは転移出来ない。そのため、ボスに挑むには一つ前の階層へ転移しなくてはいけない。

 ちなみにこの世界の転移魔術は神の御業とされ、基本的に使えないとされている。


「じゃ、先にいくからな」


 バッシュが魔方陣に乗ると淡い光に包まれ消えた。

 俺も続いて魔方陣に乗ると光に包まれ、視界が一瞬で変わり、目の前に木々が広がる。

 魔方陣から移動すると魔法から淡い光が現れ、マルサス、ヴェラ、リズの順番で現れた。

 メンバーが揃ったのを確認すると、バッシュが叫ぶ。

「よしっ、では二十階層突破にいくぞ」


 全員が頷き、歩き出す二十階層攻略が始まった。

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