第3話

 イフリムのギルド内、四人で世間話をしていると、俺とバッシュのパーティーメンバー三名が入ってきた。


 金髪の男性はマルサスといい、端正な顔立ちで左腰に剣、左腕にバックラー、右腕に赤い石がはめられた籠手を装備している。彼は剣士でありながら魔術が使える魔術戦士である。


 赤髪で、可愛らしい顔をしている女の子はリズ。赤いローブを身に纏いマントを羽織って杖持っている。見てのとおり魔術師だ。


 黒髪ポニーテール、無表情な顔の女性はヴェラ。背中に弓を背負い、皮の胸当てと、フード付きのマントを羽織っている。ヴェラはレンジャーで偵察や後方支援を担当しているクールビューティーだ。


 一年前、冒険者に成りたてのこの三人と俺、バッシュの五人でパーティーを組んでバッシュ組として、幾つかの実績を上げている。


「おーい、皆おはようこっちだ!」


 バッシュが三人に手をあげながら挨拶をすると、マルサスがこちらに気づき、駆け寄って。


「あっ! おはようございます! バッシュさん! ガルフェンさん! キャスティーさん!」


 と、マルサスが爽やかな笑顔で挨拶してきた。俺を除いて。


「皆さん、おはようございます」


 遅れてリズとヴェラも二人同時に挨拶をしてきたので、俺含む四人は片手を上げながら挨拶を返す。


 ……マルサス、あからさま過ぎねぇか? そこは皆さんでよくない? ピンポイントで俺の名前を抜いて挨拶っすか。俺泣くよ?


「ちょっとマルサス、アルヴィンさん抜くとか失礼だよ?」


 ヴェラが厳しい顔で俺をフォローしてくれる。嬉しい。将来はきっといいお嫁さんになるな。


「そうだよ、マルサス、一応先輩なんだからちゃんと挨拶しないと」


 リズもフォローしてくれた。……一応って付いてるけど、フォローだよね?


「あっ、ごめんごめん、影が薄くて気付かなかった。おはようアルヴィン」


 ……影が薄いとか初めて言われた気がする。てか、ため口かこの野郎。先輩に対する態度をその身体に刻んでやろうか? あぁん?


「あぁ、おはようマルサス」


 ……出来ませんでした。はい、俺の立場じゃ下手なこと言えんわな。こいつの機嫌を損ねると戦闘で響いちまう。正直、殴りあいじゃ負ける気はしないが、ボコすと後からマルサスファンクラブなる連中から何されるかわからん。


「おっ、俺達のパーティーメンバーも来たな。じゃ、行くか、キャスティー?」


「ええ、そうね」


 どうやらガルフェンのパーティーメンバーも来たらしいく、席を立って仲間達の所へ向かっていく。


「じゃあ、バッシュさんアルヴィン。もし勇者を見に行くんなら一緒に行こうぜ」


「ああ、その時は声を掛けるよ」


 ガルフェンが去り際にさそってきた。バッシュは一応いくかもしれないので、そう返答する。


「うん? バッシュさん、勇者様を見に行くんすか?」


 マルサスが嬉しそうにバッシュに勇者を見に行くのか聞く。……こいつは行きたいだろうな。勇者の話しとか好きだから。


「まぁ、多数決で決めようと思ってな。実際、勇者が街中に出てくるか分からんし微妙なとこだけどな」


 たしかに、勇者がこの街に居ても街中に出てこないと見ることが出来ない。さすがに伯爵邸に出向いて勇者に会わせてくださいと言ったところで会わせてくれるはずもなく。見るチャンスは街から出ていく時しかないんじゃないか?


「えっと、それなら今日の午後二時から簡易的ですけど、パレードを行うそうですよ?」


 ここでヴェラが不穏なことを言い出す。えっ? マジで? パレードすんの? 皆暇なん? 止めなよ。お金とか掛かるでしょ。


「午後二時からか…」


 おーいバッシュさーんやーい、そこで考え込まないでください。


「てか、どこ情報だそれ?」


 疑問に思ったのでヴェラに聞いてみた。もしかしたらガセかもという期待を込めて。


「今さっき、外で兵士の方がお触れを出してましたよ? 昨日の深夜から走り回って可哀想ですよね」


「昨日の深夜から?」


「はい、あれ? 昨日の夜中に勇者様が街に来るって、街中走り回って知らせてましたよ。」


 ……すいません、昨日の夜は個室でフェルトちゃんと一緒でした。

 ふと、マルサスが笑顔で提案してきた。


「じゃあ、午前中はダンジョンに潜って、午後からパレード見に行きませんか?」


 完璧な回答をくれやがったな、ありがとよ、こんにゃろめ。


「そうだな、皆それでいいか?」


 俺意外の皆が手を挙げた。こんちくしょう! なんで俺の思い通りに進まないんだよ、この世界はさ……。いや、元の世界もそうか……。


「あれ? アルヴィンは反対?」


 マルサスがため口で俺に聞いてきた。…まぁ、今回は悪気がなさそうだな。


「俺、人込みに酔うからさ……午後はパス」


 適当に口実をつけて逃げる。うん、完璧だな。


「えっ?でもギルドがごった返してもいつも平気じゃね?」


 完璧じゃなかったわ。予想外の伏兵がいたもんだ。同業者が実は敵とはな。味方がいねぇ。


「まぁ、諦めて一緒に来たらどうだ?アルヴィン。なかなかお目にかかれるもんじゃないしさ」


 まぁ、今朝の寝坊の件もあるし、バッシュが一緒に行こうというなら仕方ないな。


「分かった、……行くよ」


 俺は観念して、逆に掘り下げられるのも嫌なので了承する。

 それに、人混みあるだろうし、俺なんて見つからないだろう。フードでも被ればいいか。


「よし!じゃあ今日は20階層いっちゃいます?バッシュさん。」


 ダンジョンの話しへと切り替えるマルサス。追及がなくてよかった。


「そうだな、あっちのテーブルに座って話し合うか」


 バッシュの提案にみな賛同し、長方形のテーブルへと座る。


 バッシュが座るとすぐさまにヴェラが隣に座り、向かいの席ではマルサスの隣へリズが当たり前のように座る。


 ……俺はリーダーでもないのに上座へと座る。バッシュお前がこっちに座れよ。まぁ、貴族以外は上座とか気にしないからな。

 けども、隣に誰も居ないのが寂しい。ガルフェンが座ってきたら席を立つけど。


「さて、では今日のダンジョンでの予定だけど、20階層突破を目標にしていく、皆いいな?」


 バッシュが司会を行い、今日の目標を告げる。三人は口ぐちに、よしっ! やったー! など喜ぶ。俺も了解としてOKと返答した。


「じゃ、まず道中だが、まぁ昨日の様子を見るに何の問題も無いな」


 全員が無言で頷く。


 昨日は十九階層の最奥まで危なげなく進み、ボス部屋の前で引き返した。一年掛け、このメンバーで十九階層まで進んできたのだが、正直ゆっくりと攻略してきた。


 マルサスは体力があるためスムーズに進むが、リズとヴェラは体力的にそうもいかず。徐々にダンジョンに慣れさせていったのだ。


 ここ最近は、リズとヴェラの体力もしっかりと付いてきたので、階層を進むペースが上がっている。


「後はボス戦なんだが、立ち回りを決めるぞ」


 イフリムダンジョンの二十階層のボスは、スケルトンナイトという骨の体に薄い筋肉が張り付いた気持ち悪い魔物が三体出現する。それぞれ、剣と盾、槍、弓を装備し、人間のように戦うのだ。


 ボスである以上、普通のスケルトンナイトより能力が強化されており、油断すると思わぬ負傷を負うこととなる。正直、このメンツならばスケルトンナイトは余裕なのだが、事前の打ち合わせを行う事で緊張感を持つようにするのが思わぬトラブルを発生させない秘訣だ。


「スケルトンナイトは、部屋の中央から出現する、まずアルヴィンが前に出て敵を惹き付けてくれ」


 俺がスケルトンナイトの前に出れば、俺を狙ってくるのは確実であり、攻撃が集中するだろう。とはいえ、俺自身は何度かこのボス部屋に来ており、スケルトンナイトの動きを予測して対処できる。それに、スケルトンナイト程度では俺の特殊スキルでダメージが通らない。俺は了承として頷く。


「そして、アルヴィンが前衛のナイトを抑えている間にヴェラ、お前は後衛の弓持ちを狙い抑えてくれ」


 攻撃範囲が広く、後衛まで届く弓持ちは真っ先に無効化したい所だな。


「分かりました、バッシュさん」


 微笑んで返答するヴェラ。美しい。


「ヴェラが弓持ちを抑え込めたら、俺とマルサスで剣持ちを叩く。その間はアルヴィン、槍持ちを頼んだぞ」


 マルサスがはい、と返事をし、俺が再度頷く。


「で、リズはアルヴィンを壁にして、弓の射線に気を付けて立ち回ること。誤射を避けるため攻撃魔術は打たず、支援魔術に徹してくれ」


「はい、分かりました。宜しくお願いします。アルヴィンさん」


 リズが了承したのを確認し、満足したバッシュ。そこへマルサスが質問する。


「あの、バッシュさん、一ついいですか?」


「おっ? なんだ? マルサス」


 事前に二人で決めていたことであるが、こういった打ち合わせでは、全てをただ了承するのではなく、何かしらの意見を挙げるべきだ、なにしろ自身の命がかかっているんだからな。実際、何もなければ俺が見本にと何かしら意見を述べていた。

 今回、マルサスが質問をしてきたので、嬉しいことである。


「バッシュさんとアルヴィンの二人で前衛のナイトを抑えてもらって、俺が前衛のナイトを抜けて後衛を潰しては駄目でしょうか?」


 ふむ、いい意見だな。


「メリットはあるのか?」


 バッシュはマルサスに聞き返す。


「はい。俺が一気に風魔術で後衛を潰せれば、ヴェラが前衛に攻撃を集中出来るかと。そして後衛を潰した後は俺が前衛を背後から攻めて挟撃出来るかと思いました」


 うん、素晴らしいね。マルサスはしっかりと成長している。この方法なら早くカタがつくだろう。だけど、まだ経験が浅いな。


「なるほど、確かにいい案だ。だがなマルサス、一つ抜けていることがある」


 マルサスは何が抜けているか分からず? を浮かべながら首を傾ける。うざい。


「スケルトンナイトは連携をするんだ。だから前衛ナイトを抜けたお前を挟撃してくるぞ?」


 そこでマルサスは思い至る。もし、マルサスが前衛を抜けて突っ込むと、前衛と後衛のナイトに挟み打ちを受ける。

 さすがの俺とバッシュでもナイト相手に片方は抑え込めない可能性が大きい。


「そうですね、失念していました……」


 指摘され、気落ちしているマルサスを見て、このままだと次回の打ち合わせから意見を出しにくくなるかもと思い、フォローを入れてみる。


「でも、その作戦は悪くはないぞマルサス。例えば、確実に前衛二体を足止め出来る方法があればそれでいっていただろう」


 ちなみに俺が言おうと前もって準備していた意見は、開幕にリズの火魔術で黒煙を発生させ煙幕代わりにし、俺がリズ、ヴェラの前に立ち、バッシュとマルサスを迂回させてバッシュをバックアップに回し、マルサスの風魔術で弓持ちを叩く作戦である。


 これならば煙幕が晴れたら弓持ちは脱落しており、前衛二体だけというヌルゲーになる。


「……なるほど、もう少し打てる手を考えることと、危険性についてもっと深く思い付くようにしないと……」


 こういう時は、普段の俺への態度は鳴りを潜めて素直に聞くんだよな。まぁ、しっかりと反省しているし、きっと将来はいいリーダーになるだろうな。


「よしっ、じゃ俺の作戦で異論はないな?」


 バッシュが最終確認のためにメンバーを見渡す。全員が頷いたのを確認したバッシュが口を開き。


「よしっ、ではダンジョンにいこうか。アルヴィン悪いが消耗品の運搬頼むな」


「了解だ。ポーションはまだ使用期限は過ぎていない、マナポーションもな。あと、ヴェラは矢じりはどうする?」


「あっ、ではすみませんけどお願いします」


 ダンジョン内での荷物の運搬は俺が行うことになっている、各種ポーション類の管理も俺だ。

 俺は盾で防御しか出来ないので、こういった雑務も進んでこなさないといけないからな。

 全員が席を立ち、ギルドを出てダンジョンへと向かい始める。

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