第20話 屋内訓練施設の攻防
ズラリと、7本の旗が並んでたなびき、その旗の後ろに8人が並んでいる。
よそは、体格も揃った感じで、ピシリと背筋を伸ばして整列していた。特務隊は、何となく、緩い。
旗は1メートル四方ほどで、棒を支えられるように、旗を差しておく旗立てスタンドがある。
スタートから3分で、まずは各々旗を持って取り敢えず移動。2度目のサイレンで、戦闘開始だ。
「さあ、急げ!」
1度目のサイレンで、特務隊は屋内訓練施設へ走った。ほとんどは、グラウンドに散っていく。一番いい場所とされているのは、丘の上だ。
屋内訓練施設に来たのは、特務隊だけだった。
「作戦通りに」
「了解!」
魔物出現の時よりも真剣さをみなぎらせて皆はジーンに返事をし、持ち場に散る。
すぐに2度目のサイレンが鳴り、各々、気を引き締めた。
どのくらいした頃だろうか。屋内訓練施設に攻め入って来る部隊が現れた。
シンとした中を、警戒しながら進んで来る。
1階の長い通路の窓側に荷物の入った箱を積んでいるので、暗く、狭い。完全に1列でしか進めない上に、武器を構えたまま方向転換ができないのだ。
その奥で、激しく何かが落ちる音がして、女性の悲鳴がした。
彼らは顔を一瞬足を止めたものの、警戒しつつ進む。
奥の階段の下に座り込んで足首をさすり、散乱する掃除道具に囲まれているのは、菜子だった。
「痛たたた・・・」
皆、地球から来てしまった、元々戦闘には何の縁もない女性だというのはすぐにわかった。
思わず警戒を緩めてしまうのも、仕方が無い。
「大丈夫ですか」
近付いたところを、階段下、背後、階段の上から一斉に出て来た特隊員と当の菜子によって、アッという間に制圧されてしまった。
「くそおお!!」
「作戦や。悪う思わんといてな」
まずは、勝った。
彼らが裏から退場して行くのと入れ違いで、音がする。
「次の侵入者、アマゾネスだ」
ルウム弟が押し殺した声で言いう。
「これはだめだな。2で行く」
ジーンが言い、各々無言で散る。
通称アマゾネス部隊。女性ばかりの隊である。腕っぷしだけなら男性並みで、ルウム兄やロレイン並みの者ばかりだ。
そろそろと進んで行く。
細い通路を見て、フンッと鼻で笑うと、迂回して別ルートから進んだ。
そちらは物置き部屋を突っ切って行くルートで、部屋は真っ暗。人形、骨格標本、魔物の模型などが置いてあった。
「た、隊長。ここ、こんなのでしたっけ?」
「さ、さあ。物置きだからな」
心なしか、辺りは寒い気がする。
「キャッ!」
風もないのに動いた骸骨に、隊員が飛び上がる。
「ただの骸骨の標本だろう!」
「で、でも、何で揺れたんです?」
「た、たまたまだ」
その時、いきなりドアがバンッと閉まって、ほんの先しか見えない暗闇になった。
「ええ!?」
「やだ!!」
「落ち着け!敵がーー!」
言いかけた時、誰かが言った。
「誰か足を掴んだ!」
「え!?」
「しっ、何か・・・」
日本で言うお経の声がどこからかし、線香に当たるものの匂いが漂う。
「あ、何あれ」
うすぼんやりと、四角い大きな箱が置いてあるのが見える。
「あああれは、遺体収納バッグを、入れた、箱・・・」
「何で開いてるんですか、隊長ぉ」
「え、わわ忘れたんじゃーー」
その時いきなり、箱の中からガッと青白い手が出て、縁を掴んだ。
「ヒッ!?」
そして、皆が注視する中、もう1本の手も出て、縁にかかる。そして、ゆっくりと、何かが出て来る。
黒いそれは、髪の毛だった。顔を隠すようにかぶさっていて、顔が良く視えない。
だが、生きているにしては、顔色が青白すぎるし、口から垂れている赤い液体は何だろう。片頬に広がるのはケロイドか。
その口がニイッと吊り上がり、ボタボタッと赤い液体が垂れた。
と、部屋の中にいきなり目のくらむような強い光が満ち、悲鳴が上がった。
そして、急所に次々と攻撃を受け、死亡を表すブザーが次々に鳴り、視界が戻った時は、全員、涙と鼻水にまみれながら、死亡判定を受けていた。
「なんじゃこれーっ!」
すごすごと退場していくアマジネス部隊を、ロレインやルウム弟が嬉しそうに見送る。
「あいつら、態度がでかくて嫌いだったんだよな」
「男と同じと言いながら、女だったしね。男のくせにが口癖で」
根深いな。
お化け役の真矢と、フードを被って人形の中に隠れながらお経や線香やフラッシュボムを操作し、合図を送っていたレスリも笑う。
「何か、いいのかな」
ボソッと言うジーンに、ミスラも清々しく笑った。
「ルール上、何の問題もありませんよ、隊長」
チラリと外を見たルウム兄が言う。
「お。外も決着が着いたようですな。旗は1本、去年の優勝部隊ですな!」
「フッフッフッ。とうとう雌雄を決する時が来たようやな」
真矢が言う。
「蹂躙してやる!」
菜子が言う。
ジーンは、不安しか感じなかったが、
「とにかく出るか」
「あ、タイム。お化けメイク落とすわ」
特務隊は、グラウンドに出た。
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