第19話 負けられない戦い

 出動から帰り、休憩をしていると、来客があった。

 金髪の見るからにザ・王子という感じの人物と、後ろに付くいかつい2人。

「トレイス王子!」

 慌ててジーンとミスラが立ち上がるのを、笑顔で押しとどめる。

「ああ、そのままで」

 ロイヤルスマイルというやつだ。

「山田真矢さん、小仲奈子さん。どうですか。もう慣れましたか?不自由はありませんか?」

 真矢と菜子は、おやつをゴックンと呑み込んで笑い、皆はソッと半笑いになった。

「はい、おかげさまで」

「楽しくやらせてもうてます」

「それは良かった。やはり環境が色々と激変しましたし、一方的に迷惑をかけてしまったので、心配で。何かあったら遠慮なく言って下さいね」

「はい。ありがとうございます」

「ご丁寧にどうも」

 他の皆は、ぬしみたいに馴染んでますよ、という言葉を飲み込んだ。

「もうすぐ、全騎士団が参加しての訓練があります。まあ、半分リクリエーションの、親睦会みたいなものですから。楽しんで下さいね」

「楽しみです」

 その後しばらく日本のお菓子でもてなして、王子が帰って行くと、真矢と菜子は、ジーンに訊いた。

「今言うてはったやつ、何?」

「半分リクリエーションて、運動会?」

「部隊ごとに旗を掲げて、それを守りながら、よその旗を倒すんだ」

 ジーンがザックリと説明する。

「騎士団は人数が多いからな。一番少ないうちの人数、今年なら8人か。これで競うことになる」

「飛び道具は使用禁止。後は大抵OKよ」

「優勝したら、追加予算と食堂の日替わりランチの食券50枚を貰えるんだぜ」

「筋肉と力の競演だな!」

「・・・ん!」

 真矢と菜子は、腕を組んだ。

「で、これまでの戦績は?」

「・・・」

「作戦はどうなっとったん?」

「俺とミスラで、旗を守りつつ、接近してきたやつに対処」

「殴る!」

「ヒットアンドウエイだぜ!」

 ジーン、ルウム兄弟のセリフである。

「突っ込んで、薙ぎ払う、かな」

「・・・がんばる」

 ロレイン、レスリである。

 レスリは珍しく、やる気なようだ。

「作戦を最初は立てたんだけど、突っ込んでいくんだよね、皆」

 あはは、とミスラが笑った。

「勝てるわけあらへんなあ」

 真矢は、溜め息をついた。

「あかん。昭和の根性論以下や」

 菜子も頭を振る。

「場所はどういう所で、旗いうんはどういうもんで、ルールはどんなんやねん」

「やるからには勝ちに行くで。皆、作戦には従ってもらう」

 特務隊は、静かに、やる気に満ち始めた。

 場所は、言わば校舎のような屋内用訓練施設と、その前にある広いグラウンド。グラウンドには緩やかな丘もあるが、身を隠す場所はない。

 全員にセンサーが付いていて、攻撃が当たったら衝撃の大きさと数と位置でポイントが加算して行き、死亡判定が下ると退場となる。

 旗は移動してもいい。ただ、地面に棒が倒されれば負け。

 あと、メンバーが全員死亡しても負け。

 時間終了で、両方旗が残ってたら、生きてる隊員が多い方が勝ちだし、それも同じなら、ダメージポイントの低い方が勝ち。

「ふうん。なるほどな」

「やりようはあるな」

「隊長、副長。今日から訓練は、これを睨んでのものを取り入れてもらうで」

「わ、わかった」

「勝つで!」

「おお!」

 特務隊は、1つになった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る