第17話 物語の教えるもの・1

 有名な、誰もが知っているお話というものが、どこの国にでもある。

「夢見るヘレングラード?」

「そう。ヘレングラードという女の子が、あれが食べたい、これが欲しいと、まあずっと空想して夢で見るという話だよ。色んな国に行って冒険したりして話は進んで行くんだけど、ラストが、夢見過ぎのヘレングラードは、楽しいし欲望が尽きないしで、夢から覚める事ができなくなるんだ。それで、欲望、夢は、ほどほどに、という戒めを込めた童話だね」

 ミスラが言い、ジーンもロレインも、

「ああ、読んだなあ」

「楽しい話のオチがこれで、ちょっと怖かったわ」

などと頷く。

「そっちはどんな話が有名だったの?」

「そうやなあ。『浦島太郎』と『桃太郎』と『金太郎』は三大太郎ともいうべき有名な話かな」

「せやけど、正直、金太郎がうろ覚えやねん。坂田金時っちゅう実在の人をモデルにしたんは知ってるけど」

 菜子が首を捻る。

「私もやねん。オカッパのヘアスタイルと腹掛けで斧を持ってるんは覚えてるけど、正直、熊と相撲の練習して、他は何したんや?」

 真矢も首を傾げる。

「『浦島太郎』は、漁師をしてる主人公が、海岸で子供にいじめられている亀を見付けて、子供達にお金を渡して亀を助けるねん。それで、お礼に亀に竜宮城っちゅう海の中のお城に連れて行ってもらえるねん。

 そこで、おいしいご飯にお酒に魚達のダンスとかを見た後、帰るって言う浦島太郎は、きれいな乙姫様からお土産に玉手箱をもらうねんわ。

 それで元の海岸に帰ったら、何と100年とか経っとって、知り合いも誰もおらん。

 それで寂しくなって、『開けたらあかん』と言われとった玉手箱を開けてもうたら、中から煙が出て来て、あっという間に浦島太郎はお爺さんになってもうた、と」

 そう言うと、真矢が続ける。

「この話の肝はいくつかある。まず、亀を助けるのに金銭で片をつけるというのはどうやねん。それから、仕事を放りだして竜宮城へ行くいうんは、社会人失格やろ」

「職場放棄やな」

「そうやろ。

 それから、100年もドンチャン騒ぎの接待漬け。

 乙姫さんがお爺さんになるという呪いでしかないようなもんを土産に渡すんも、嫌がらせかも知れんけど、そもそも、開けたらあかんようなもん、土産に渡すか?もらう方も、怪しめ、いうねん」

「ただ、いらん荷物持たされたようなもんやもんなあ」

「浦島太郎。帰って辺りが変わってたからいうて、何で玉手箱開けるねん。行動がおかしいわ。状況確認とか、する事が山ほどあるやん」

「ちょっと、浦島太郎はうっかりさんやで」

 言う真矢と菜子に、ジーンが、

「いや、そうかも知れないけど、知らない所に放り出されても、すぐにマイペースに馴染むお前らの方がおかしいと俺は思う」

というと、全員が大きく頷いた。


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