第16話 思い込み

 ピスタチオに似た見かけのナッツが出て来た。殻が硬い所が、ピスタチオとそっくりだ。

 真矢は昔から、これが苦手だ。なかなか殻が割れない。栗も苦手だ。鬼皮に切れ目を入れた剥きやすくした栗でさえも、失敗するのだ。

「真矢、ヘタクソやなあ」

「苦手やねん。ナッツはもう剥いてあるやつがええな。栗も、剥いてあるやつがええ」

「天津甘栗?笑った顔みたいに、切れ目入ったヤツは?」

「身が崩れる確率が、7割超えるねん」

「酷いなあ。何で?不器用ちゃうやろ?」

「あれは別もんや。

 ついでに思い出したで。刺繍、挑戦する羽目になった事があるねんけどな」

「ああ、刺繍。面倒臭そうやな」

「面倒臭いし肩凝るで。向いてへん、思たわ」

「アカンかあ」

「アカン。遺体やったらスイスイ縫い合わせるんやけど、あれは苦手や」

「まあ、ちゃうわな。遺体の縫合がなんたらステッチとかで芸術的になっとったら、保存やん。焼かれへんやん」

「そやろ」

「ああ、うちもあったな。切るんは得意やろ、言うて料理をな。お母さんが」

「言う、言う。絶対言うねん」

「結末から言うと、遺体に味付けせえへんねん」

「焼き出したらスパイシーなカレーの香りとか、火葬場も困るわな」

「そうや。『前のご遺体がカレーの香りやったから匂いが残ってます』とか、『隣はクサヤのにおいか』とか、想像してみいな」

「嫌やな。火葬場で空腹感刺激されるんもな」

「困るでぇ。故人の感動的なエピソードの途中で、グウゥ」

「台無しやな」

 言っていると、見かねたジーンがナッツを剥いてくれる。

「ありがとう。隊長はホンマにええ人やな」

「こういう人が結婚するにはええねんな」

 そう言ったら、根性悪のエリートがナッツを無言で剥き出した。

「後、果物剥いてくれる人もいいわよね」

 リン姐さんが言うと、ミスラが果物を剥きだした。

「硬いビンのフタを開けてくれるとか、ビンの栓を抜いてくれるとか」

 ロレインが笑いながら言うと、ルウム兄は、フンッと炭酸のビンの蓋を開けた。

「男も色々、理不尽な事はあるよな」

 ジーンが言い出した。

「そうですね。よくある『男のくせに』『男なんだから』。あれも結構酷い。男だって苦手なものはあるし、素手で凶器を持ったヤツに立ち向かえって言われても、誰でもできるわけじゃないですし」

 ミスラも言う。

「そうそう。男全員に、ルウム兄みたいな怪力を期待されてもなあ」

 ジーンが言い、ミスラ、根性悪と頷き合う。

「後、一緒に食事とかした後、当然のように男側のおごりとされたりね」

 根性悪が言って、女達を見た。

「払うわよ。払えばいいんでしょ。合コンじゃなくて飲み会だしね!」

 やけくそのようにリン姐さんが言って、根性悪が、

「当然だ!お前相手にサービスしても仕方が無い!」

「ケッ!上等よ。あんた相手に化粧して来るんじゃなかったわ」

「おうおう。ジャージで来い、ジャージで」

「あんたこそステテコで来れば?笑いを誘って、細い吊り目が目立たなくなるわよ!」

「うるさい、貧乳!」

「何ですって、音痴!」

「運動音痴!」

 根性悪とリン姐さんがケンカを始め、かなり低俗な、子供のケンカじみた事を言い出して、皆は思った。

「成程。頭のいいエリートでも、ケンカしたらこう、と」

「思い込みはアカンなあ」

 皆は学習し、揃って頷いたのだった。






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